それでも、ある程度の危険を覚悟の上で脊髄麻酔に頼らざるをえなかった時代であった。
戦前では無論の事、戦後10年位たっても、大学病院なみの設備の整った外科でないと、全身麻酔をかけて手術ができる施設は無かったくらいだった。
その麻酔も外科医がかけていたのである。
麻酔科が独立して専門医制度が発足したのは、まだまだあとのことであった。
自分の記憶では、3年生の頃アメリカの麻酔科教授の特別講演を聞いたおぼえがあるのだが、その話の中で、全身の筋肉を弛緩(筋肉の働かない状態にすること)させ、呼吸もチューブを気管(喉から肺に空気を通す管)に入れて何時間も意識をなくして、寝かしたまま人工的に呼吸させて手術することが出来るとのことで、びっくりしたものだ。
その当時は、胃がんの患者に行う胃全摘術(胃を全部取りだし、食道と腸をつなぐ手術)までも、脊髄麻酔によって行れていたのである。