まず第一にすべきことは、湯を沸かすことだ。機械はすべて煮沸消毒であったので、此のためだ。
それには、その当時都市ガスは無いし、プロパンガスも無い。
マッチで紙や点け木を燃やして炭火をおこし、シンミリブッシュという大き目の煮沸消毒器をかけ、次に急いで診察室に大事に飾って保管してある手術機械のなかから、その手術に必要と思われる機械を選択して取り出し、表面にかけてある、錆止めの油をガーゼで丹念に拭き落とす。
この必要な機械の選択には長い経験をつまなければ見当がつかない。
夫々の予測される手術の内容で使用する機械の種類が違うから、術者=院長が指示すべきであるが、なかなか細かい所まで教えてはもらえない。
手術が大きくなって機械の種類が足りない、数が不足したりすれば手術の進行が止まってしまい、麻酔が切れて患者に苦しみを与え、出血量が増加し良いことはない。
無論院長からは雷が落ちる。