それは突然のことであった。
後ろで誰かが立ち上がり倒れたような気配がしたが、手術の山場をしっかり見届けようとして、前に体重を一杯にかけて乗り出していた自分は、堪らず前にはじきとばされて、あっというまもなく下の手術場へドスンと転落してしまったのだ。
何ということだ・・・・・・。
頭が真っ白になってしまった。
落下した場所が、機械出しの看護婦さんの足元で幸いであった。
自分は反射的に受け身の体制を取り、大けがを避けることはできたが、神聖な手術場の雰囲気を乱し、無菌的状態を汚染したことについて、どのような叱責の罵声が頭から下るのか、心配と緊張感で真っ青になった。
中山教授は一瞬ギョロリと私の方を睨んだが、泰然自若として、こちらを振り向こうという動きも見せず、一言も発せず、素知らぬ顔で手術を続けていた。
やはり、大外科医は違う、手術中の集中力はすごいものだ。
転落した痛みを忘れ感動に暮れていた。
これは学生時代の忘れがたい思い出の一齣となっている。