ボッティチェリ展を記念して・・・ボッティチェリの「誹謗」とその時代背景(2) | フィレンツェ観光ガイド 加藤まり子 in 東京

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フィレンツェ観光ガイドの資格を2016年に取得しました。
現在は都内で美術の鑑賞の仕方を教えています。
詳しくはホームページから。
http://mariko-no-heya.com/

 

Buon giorno みなさん♪

 

フィレンツェは雨の日曜日。

こんな日は美術鑑賞に限ります♪

 

ということでボッティチェリの「誹謗」の解説の続きを紹介したいと思います。

 

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先日の記事ではこの絵画の概要を説明しました。

今日はこの絵画が描かれたフィレンツェの時代背景を紹介したいと思います。

 

 

 

ボッティチェリといえば「ヴィーナスの誕生」や

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「春」といったギリシャローマ神話を復活させたルネサンスの画家として有名です。

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どちらにも共通するのが少しメランコリックな画調に美しい色彩、そして理想化された世界を描いていることです。

 

 

「春」が描かれたのが1478年ごろ、そして「ヴィーナスの誕生」が描かれたのは1484年ごろと言われています。

 

1445年生まれのボッティチェリは30代。経験と創造力が一番発揮される年代だと思います。

 

そしてその頃のフィレンツェはロレンツォ豪華王が権力を掌握していました。

彼は政治だけではなく、新プラトン主義というルネサンスの基礎となる哲学を保護し、たくさんの芸術家を育てました。

 

ボッティチェリもその一人です。

そういったフィレンツェの新しい空気の中で生み出されたのが「春」や「ヴィーナスの誕生」です。

 

そのような自由な空気がこの時代のボッティチェリの作品には感じられます。

 

 

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ここでもう一度「誹謗」をみたいと思います。

 

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ロバの耳を持った王、それに囁く2人の若い女、

頭巾をかぶった怪しい男、美女が裸の男の髪を引きずっている様

老婆の表情、そして裸婦の硬い肉体・・・

 

どれをとっても「春」や「ヴィーナスの誕生」の甘さがありません。

なんというか「愚」や「やるせなさ」「暗さ」といったものが目につくような気がします。

 

ボッティチェリはどんな気持ちでこの作品を描いたのでしょう?

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いつ見ても素敵♡

 

「誹謗」が描かれたのは1495年ごろ。

フィレンツェの新しい芸術の庇護者であったロレンツォ豪華王は1492年に亡くなっていました。

そして代わりに台頭したのがサヴォナローラです。

 

GirolamoSavonarola

(Wikipediaより拝借)

 

1490年にフィレンツェのサンマルコ寺院に来たサヴォナローラ。

彼はフィレンツェの異教的で享楽的な文化を徹底批判します。

こんな生活をしていたら今に天罰が下るぞ、と。

その言葉を反映するかのようにロレンツォの死、そしてフランス軍のフィレンツェ侵攻が始まります。

これに怯えたフィレンツェ市民たちはメディチ家を見放しサヴォナローラに従います。

 

サヴォナローラの信奉者の中にはボッティチェリもいたと言われています。

新プラトン主義に基づいた異教的な絵を描いていたボッティチェリですが、サヴォナローラの説教を聞いて改悛したとされています。

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1490年ごろに完成したボッティチェリの「受胎告知」

それまでの甘くてメランコリックな雰囲気に加え、少し不穏な空気が感じられます。

 

 

「誹謗」が描かれたのは、ロレンツォというバックボーンを失い、外国から攻め込まれ、それまでの行いを批判する修道僧の登場、というフィレンツェ市民が不安いっぱいになっていた頃だったのです。

 

自由を謳歌するロレンツォの時代から、政治的不安の満ちた1490年代へ・・・

そんな時代を反映するかのように「誹謗」にはそれまでの作品にあった甘さが一切排除されているのです。

 

 

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一つの作品をとってもその時代背景を知るといろいろなことが見えてきます。

そう、芸術というのは毎日の生活からかけ離れたものと思われがちですが、政治や経済と密接な関わりがあるのです。

スペイン内戦がなければゲルニカは生まれず、経済的余裕がなければ絵の具もキャンバスも買えません。

 

そういった社会的背景も絵画は映し出しているのです。

そして、画家の人生も色濃く反映していると思います。

 

今回は時代的背景を紹介しました。

次回は1490年以降のボッティチェリの人生の側面から「誹謗」をみたいと思います。

 





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