心和むシリーズ☆ 天使のような画家フラ・アンジェリコと受胎告知 | フィレンツェ観光ガイド 加藤まり子 in 東京

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フィレンツェ観光ガイドの資格を2016年に取得しました。
現在は都内で美術の鑑賞の仕方を教えています。
詳しくはホームページから。
http://mariko-no-heya.com/


美女イケメンとお色気たっぷりの記事が続いたので、
ここで少し趣向を変えて癒し系の絵画を紹介します





さて、さっそくですが問題です。
西洋美術で一番描かれた女性は誰でしょう?

答えは
聖母マリア
です。

イエスの母マリアは特にカトリック教会で信仰を集めました。

天使がマリアに神の子をみごもったことを伝えるシーンは
「受胎告知」
としてたくさんの絵画の主題となりました。

その中でもフラ・アンジェリコによる作品は初期ルネサンスの傑作です。

こちらがその作品。

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大天使ガブリエルの言葉を真摯に受け止めるマリア。
静謐さが漂います。

フラ・アンジェリコのすごいところは静かでありながら全く重苦しさがないところです。
この絵のマリアもとても穏やかで優しい表情をしています。





この作品が収められているのはドゥオモの少し北にあるサン・マルコ修道院。

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中庭がきれい

フラ・アンジェリコはここの修道士でした。
彼の名前は「天使のような修道士」という意味です。

修道院の各部屋の壁画はフラ・アンジェリコの手によるもの。
当時のままの状態で見ることができます。
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こちらの僧坊にも受胎告知が描かれています。
とてもシンプルですが、だからこそ敬虔な気持になる一枚です。

修道院の中はこんな感じになっています。

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500年前と変わらぬ作り。
当時の修道士たちの生活が偲ばれます。





「天使のような修道士」と称されたフラ・アンジェリコ。
神聖な場面である「受胎告知」は彼の生涯のテーマだったといえます。

フィレンツェから約1時間ほど離れた小さな町コルトーナ。

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映画「トスカーナの休日」の舞台になったこの美しい町にも
フラ・アンジェリコの「受胎告知」があります。


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金色の装飾はゴシック時代の名残を表すもの。


よく見ると、祝福の言葉が天使からマリアに向けられていることがわかります。

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マリアの頭上には精霊を表すハトが描かれています。

そして、もう一つ重要なテーマがこの絵には描きこまれているのです。
絵の左上を拡大すると、こんなシーンが

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あまり「受胎告知」と関係なさそうですが、一体何を表しているのでしょう?

これは、アダムとイブが楽園から追われているシーンなのです。
なぜこんなシーンが「受胎告知」に描かれるようになったのでしょうか?




キリスト教では人はみな生まれながらにして「原罪」というものから免れないとされます。
では、いったい原罪とはそもそもなんなんでしょう

アダムとイブは神から禁じられていたにもかかわらず、禁断の果実を食べてしまいます。
それを知った神さまはふたりに「なんで食べたの?」と聞きます。
ふたりは「ごめんなさい」と言う代わりにお互いに責任をなすりつけ合いました。
それを聞いた神さまはふたりを永遠に楽園から追放したのです。
これが原罪のルーツです。

なんとなく、見たことがありそうな光景ですね。
子供同士のけんか、夫婦げんか、果ては国家同士の揉め事も
突き詰めればだいたいこんな感じではないでしょうか?

それもそのはず、アダムとイブはキリスト教において、全人類の祖先とされるのです。
その子孫である私たちはふたりの犯した「原罪」から逃れられない、というのがキリスト教の教義です。




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イエス・キリストは人類を「原罪」から救うためにこの世に生まれました。
「受胎告知」とはいわばキリストの誕生を描くシーン。
「楽園追放」のシーンを描きこむことによって人が原罪から救われることを強調しているのです。





むずかしい話はこれくらい。
フラ・アンジェリコの描くマリアは他の画家と比べても本当に愛らしいのです。


天使のような修道士による、天使のようなマリアさま


この絵を見て癒されることこそ、原罪からの救いのように思います







聖母マリアのお話しはこの本が詳しいです。
岡田先生、とってもわかりやすい。
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