不思議な香りがする香 | 横浜の香り教室 平安の香りと親しむ平安朝香道

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東急電鉄日吉駅3分にある平安の香りを創り楽しむ教室です。平安時代、貴族や「源氏物語」の主人公光源氏がたしなんだ香り創りや楽しみ方をご紹介。(by平安朝香道 朝倉涼香)

キラキラ不思議な香りがする香

 

 

ご訪問ありがとうございます

平安朝香道の朝倉涼香です

 

 

 

昨日に続き、今日も

蒸し暑い日となりました

 

 

五月のお稽古前から

六月に入って

ほぼ毎日「薫衣香」(くのえこう)を

聞いておりました。

 

 

 

 

 

「薫衣香」は

香材の粉末を蜜などで練り合わせ

炉や釜などで薫き燻し

衣に香りを移す香として

使われていました。

 

やがて空薫物(そらだきもの)

として

使用されるようになりました。

 

 

別名躰身香と呼ばれる香もございます。

ある期間服用すると

身体から芳香を発するようになる

と言われる薫物です。

 

 

お稽古でその香りを

聞いて頂きました。

 

 

奥が深く品のよい香り

 

これは皆様

同様に感じられました。

 

 

一人の門下生の方は

お子さまを小さいころから

保育ママに預け

働いていらっしゃったそうです。

 

その保育ママは

とても香水がお好きで

香水の香りがいつもしていたとのこと。

 

「薫衣香」を聞いて

その方を想い出されたのでした。

お世話になった保育ママは

既に亡くなられていらっしゃるそうです。

 

その方の着けていらした香水と

薫衣香の香りが似ていたのでしょうか?

きっとどこかに共通点があったのでしょう。

 

 

親しい方との別れは

とても哀しいものです。

故人となられた方の香りが

偶然にも薫衣香と重なったのでした。

 

いつもの香り

安心感と安らぎをもたらしてくれますが

その香りを纏った方の姿を失った時には

かなりの喪失感を覚えることでしょう。

 

懐かしく想い出すには

相当な時間が必要になるのでは?

旧懐の香りとなるには

永い時間が必要なのですね。

よく耳にする言葉では

「時間が解決してくれる」

なのです。

 

 

ここで

奈良時代に見られる

「薫衣香」のお話しです。

 

「薫衣香」は

正倉院の庫内に現存はしませんが

正倉院文書の「買物申請帳」には

多くの香料と共に

「薫衣香」の購入の記録が残されています。

(「正倉院の香薬」米田 該典)

 

奈良時代には海外より

「薫衣香」を製品として

購入していたのです。

 

 

正倉院はご存じのように

奈良時代の聖武天皇と光明皇后の

遺愛の品々が納められている倉です。

 

聖武天皇の后の光明皇后は

聖武天皇が崩御された

四十九日の忌日に

聖武天皇遺愛の品々を

東大寺に献納されたのです。

 

 

「国家珍宝帳」の特に巻末に

したためられた文は

現代の私たちにも胸に迫るものが・・・

 

「追感疇昔 触目崩摧」

ついかんちゅうせき しょくもくほうさい
聖武天皇が使っていた物が目に触れると

哀しみで心が砕けてしまう

 

 

夫を亡くした哀しみから逃れる

手段が

「遺愛の品々を東大寺に献納する」

だったのです。

とてもお強い女性です。

 

 

生前聖武の好んだ品々をみるにつけ

ありし日が思い出されて泣き崩れてしまう

薫衣香の香りもそうであったに違いありません。

 

聖武天皇も光明皇后も

慣れ親しんでいらした「薫衣香」

だったのではないでしょうか。

 

正倉院に残る宝物の

球状の銀薫炉や銅薫炉から

その頃既に、香は仏前だけでなく

日常に取り入れられていたと思われます。

 

聖武天皇の居室には

愛用の薫衣香の香り

 

光明皇后にすれば

寝室や衣から香る移り香や残り香が

崩御された後も香って来るのです。

 

懐かしく思うのはずっと先のこと

哀しみに暮れる日々であったと思われます。

 

正倉院に残された珍宝帳から

品物としての「薫衣香」が

存在していたことがわかります。

 

 

思うように香を合わせて

「薫衣香」の創作が出来るようになったのは

もっと後だったのでしょう。

 

平安時代に書かれた

「薫集類抄」に載る薫衣香は

どの薫衣香も

創作者や所持者により

香材が違い同じ香りではございません。

特徴は香材の種類がとても多いことです。

 

不思議なことに

聞くたびに違う香りを感じました。

心の持ちようにより違ってくる。

季節により変化する。

寝かせた年数で変化する。

 

兎にも角にも

七変化の薫物でしたラブラブ

 

 

次回は「源氏物語」に登場する

「薫衣香」をお送りいたします。