ミステリ史上に残る大トリック!

※初読2014/5/31

※再読2022/5/2

 

日本ミステリ界に新本格ブームを
巻き起こした名作ミステリ。

『十角館の殺人』
綾辻行人

(1987年)日本


叙述トリックを中心に
日本のミステリを漁っていこうとしたら
この作品を避けては通れないということで
改めて綾辻作品に触れることに。

 

あらすじ

「人は神にはなれない」
これから行う殺人の全容を書いた紙を
壜につめて海に流すひとりの男の姿から
この物語ははじまる。

3月下旬。
大分県J崎を離れ
十角形の奇妙な形をした館が建つ
角島を訪れた大学のミステリ研究会メンバー。
彼らは古典ミステリ作家にちなんだあだ名で
お互いを呼びあっていた。

エラリイカーポウルルウ
アガサオルツィヴァンの7人。

角島には半年前に全焼した青屋敷があり
十角館を建築した中村青司
そこで四重殺人に巻き込まれて
焼死したという。
犯人と思われる庭師の行方と
夫人の消えた左手首……。
ミステリ好きの彼らが興味を示すには
うってつけの事件だ。

一方、本土でも異変が起こっていた。
島に行かなかった元ミステリ研究会員の
江南(かわみなみ)孝明のところに
「お前たちが殺した
 中村千織は私の娘だった」
と中村青司からの手紙が届く。

死者からの手紙を不審に思い
青司の弟・中村紅次郎を訪ね
そこに居合わせた島田潔と出会う。

角島に着いた2日目の朝。
何者かが置いた7枚のプレートを目にする。
「第一の被害者」「第二の被害者」
「探偵」「殺人犯人」――。
誰かのイタズラと
その時は考えていたのだが……。

江南はミステリ研究会の
守須(もりす)恭一を加えて
島田と3人で半年前の
四重殺人を調べるうち
死んだと思われた中村青司が
生きている可能性もあると気付く。

角島の3日目の朝、
第一の悲劇が起こる。

オルツィの部屋の前に
「第一の被害者」のプレートが貼ってあった。
医学部のポウが中に入り
オルツィが絞殺されていることを告げる。
左の手首が切り取られていたのは
青屋敷の四重殺人に見立てたのか?

続けて起こる第二の殺人。
コーヒーを飲んだカーが
突然苦しみ出し死亡する。
無作為に取ったコーヒーの中に
亜ヒ酸の入ったものがあり
死に至らしめたのだ。

コーヒーカップに目印らしきものはなく
狙われたのは

カーではない可能性もあり

誰にでもカップに毒を塗る機会があった。
疑心暗鬼になるメンバーたち。

はたして
半年前に死亡した中村青司は
生きていて
彼らに復讐をしているのか。

それとも
このメンバーの中に
冷酷な殺人犯人が
潜んでいるのだろうか――?

 

解説

角島を訪れた
大学のミステリ研究会メンバー7人が
次々と殺され、
本土に残ったメンバーには
死者からの手紙が届く。
島と本土でそれぞれの犯人を捜す、
孤島のクローズドサークルもの
本格ミステリー。

この作品は綾辻行人のデビュー作。
物語終盤で
ミステリ史上に残る
大どんでん返しが待っている。

新装改訂版ではその衝撃を増すために
あの1行」をページをめくって
すぐの位置にもってきている。
今読むなら
新装改訂版をおすすめしたい。
不意打ちをくらって
あまりの衝撃に
打ちのめされるだろう。

「イニシエーション・ラブ」の
ラスト2行目が読んだ後に
じわじわ来る系なら
「十角館の殺人」のあの1行は
読んだ瞬間に
全ての事実が繋がって真相がわかる系。
やられた!そういうことか!
と納得するでしょう。

この作品の趣向がアガサ・クリスティの
「そして誰もいなくなった」であるのは
間違いないですが
海外の古典ミステリを読んでいる人ほど
作者の仕掛けにはまりやすい。

俺は「そして誰もいなくなった」の犯人や
コナン・ドイルやモーリス・ルブランなど
海外のミステリー好きなので
まんまと騙されました。

 

感想

クリスティの

『そして誰もいなくなった』を
先に読んでおくと
良い感じに騙されます。

白と黒が反転する
本物のどんでん返しを
味わいたいなら
間違いなく読んでいなければ
いけない作品でしょうね。

粗さもある作品ですが
デビュー作の勢いみたいなものは
すごく伝わるし
「あの1行」のために
すべてを懸けてるなって感じました。

 

【2022/5/2追記】

Kindle版で8年ぶりに再読。

前回は気づかなかった

犯人の行動に気づいて

今回も面白く読めた。

解説も手を加えています。

★★★★★ 犯人の意外性 
★★★☆☆ 犯行トリック   
★★★★☆ 物語の面白さ  
★★★☆☆ 伏線の巧妙さ    
★★★★★ どんでん返し

笑える度 -
ホラー度 △
エッチ度 -
泣ける度 -

総合評価(10点満点)
 9点  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


※ここからネタバレあります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1分でわかるネタバレ

<事件概要>

日付:1986年3月26日~4月2日/エピローグは不明(おそらく5月)

場所:大分県S半島J崎から5キロの角島の「十角館」/大分県O市/S町/別府市鉄輪

 

〇被害者 ---●犯人 ---動機【凶器】
オルツィ ---●ヴァン ---憎悪【絞殺:ナイロン紐】
カー ---●ヴァン ---憎悪【毒殺:亜砒酸】
ルルウ ---●ヴァン ---憎悪・口封じ【撲殺:石】
アガサ ---●ヴァン ---憎悪【毒殺:青酸口紅】
ポウ ---●ヴァン ---憎悪【毒殺:青酸入り煙草】
エラリイ ---●ヴァン ---憎悪【焼死:火災】
 

※本名

エラリイ 松浦純也(21)
アガサ  岩崎杳子(21)
ポウ   山崎善史(22)
カー   鈴木哲郎(21)
ルルウ  東 一 (20)
オルツィ 大野由美(20)
ヴァン  守須恭一(21)
ドイル  江南孝明(21)

<結末>
ポウが毒煙草で死亡。

これで残りはエラリイとヴァンだけ。

エラリイは中村青司を探して

ヴァンと二人で地下室に下りるが

そこで失踪した庭師の

白骨死体を発見する……。

 

翌日、十角館が

全焼したと連絡が入り

江南と守須と島田がS町に集まった。
警察は死体の状況から

エラリイが全員を殺して
自殺したと推測する。
しかし死体は六人しかない。

最後に生き残った者がいる。

それはヴァンであり守須だった。
守須が本土と島を行き来して
アリバイを作りながら全員を殺した。

自分の罪を告白した手紙を
瓶に詰めて海に投げたが、
それが戻ってきたことに運命を悟り
彼は島田に全ての罪を告白する。

 

あの一行で世界が反転する

この作品は叙述トリックの金字塔。
たった一行の記述で
全ての意味が繋がって
鮮やかに真相が開ける。

それがこれだ。

「江南君にも、研究会に入っていた時分にはあったんですかな、同じようなカタカナの呼び名が」
「ええ、まあ」
「何といったんです」
「恥ずかしながら、ドイルです。コナン・ドイル」
「ほほう。大家の名ですな。守須君はじゃあ、モーリス・ルブランあたりですか」
警部は調子に乗って尋ねた。
守須はわずかに眉を動かしながら、「いいえ」と呟いた。それから、口許にふっと寂しげな微笑を浮かべたかと思うと、やや目を伏せ気味にして声を落とした。
ヴァン・ダインです」(P.401-402)


この瞬間、
あっ!となった読者も多いはず。
守須とヴァンが同一人物だった

人物誤認の叙述トリックです。

だいたい①ニックネームで
呼び合うことからして
怪しい
のだが、
この本が出た1987年には
叙述トリックが一般に
認知されていなかったことも大きい。

 

ポイントのひとつは、
孤島にいる七人と同一人物が
島の外にいるはずがない
という
思いこみを利用していること。

ほぼ同時刻に島にヴァンがいて

本土に守須がいるのだから

別人だと思うのが当然である。

実はヴァンは夜中に島を抜け出して

ゴムボートで本土に帰ってきて

江南や島田と会話していた。

 

これを補強するため守須は

★②三枚の磨崖仏の絵を用意している。

国東半島の磨崖仏をデッサンして

薄く色を付けた一枚目、

全体に色を重ねた二枚目、

完成段階の三枚目。

いずれも同じ構図の絵で

守須は一日目の夜に

一枚目の絵をイーゼルに掛けて

江南に見せておき、

二日目の夜に二枚目の絵を見せた。

そうすることで

日中は絵を描いていた

というアリバイができる。

 

これは島に行かなかったという

自分のアリバイのための行動なのだが

読者には二人が別人に見えて、

“江南を騙すために仕掛けたことが

読者をも欺く仕掛けになる”という

絶妙なテクニックになっている。

ゴムボートで犯人が
島に上陸している形跡
があっても
「中村青司が生きている」説
邪魔をして守須に結びつきにくい。

すぐ近くの猫島なら
ゴムボートで行けそうだが、
本土までというのは
無理だろうという思いこみもある。

もうひとつが、
守須という名前から
海外ミステリ好きは
モーリス・ルブランを
連想してしまう
ことだ。

これは
コナン・ドイルの江南という
対になる人物がいる
ために
一言も言われていないのに、
守須=モーリスだと錯覚させられる。
ミステリ好きだからこそ
引っ掛かる罠だろう。

 

守須の初登場シーンには

「お前たちが殺した千織は私の娘だった」

という⑥告発文の文字を

複雑な気分で眺める姿がある。

自分が書いた文だが

送られて来た手紙のように見せている。

 

優秀なミスリードとして、
★⑦アガサの死体発見時の
リアルな驚き方(P.311)が

彼が犯人ではないと
思わされるのもポイント。

口紅に毒を塗っていたが

いつ発動するか自分でもわからないので

急に死体を見てリアルに慌てて

しかも嘔吐いてしまうのは

演技でやろうとしてもとてもできない。

 

 

他のミスリードとしては

中村紅次郎を疑わせるものがある。

彼が千織の実の父親だったり(P.287)

二日目(殺人の前日)の夜に居留守だったこと。(P.165)

そのせいで

紅次郎が島に行って殺していると

島田は推理してしまった。

 

エラリイを疑わせるものでは

オルツィ殺しの時に

いつの間にか窓際にいて

そこに鍵があったと言ったこと。

持っていた鍵をそこに置いて

自分で見つけたトリックを疑わせる。

 

『そして誰もいなくなった』を下敷き

閉鎖された環境で次々と
人が殺されていくタイプの小説を
クローズド・サークルという。
その中でも
孤島にとり残されて
外界と連絡もとれない状況下で
犯人に襲われるミステリーを
「孤島もの」といい、
その典型的な代表作が
アガサ・クリスティーの
そして誰もいなくなった

俺はこの作品を知っているために
序盤である勘違いをしてしまった。
オルツィが生きていると思ったのだ。

連続殺人の中で
犯人が一度死んだと
思わせるパターンは多い。
バールストン・ギャンビット(先攻法)という。
これを作中で

守須が指摘している(P.173)のが面白い.


オルツィの場合、
絞殺されて顔がはれて
見られたものじゃなかった。
――とポウだけが言って
誰にも死体を見せずに部屋を封鎖した。

つまりポウしか
オルツィの死を見ていない。
ポウはオルツィと
幼馴染だった
という情報から
オルツィがポウに協力させて
仲良しだった千織のかたきを
討とうとしているのだと思った。

オルツィの切られた手首も
ポウしか見ていない。
カーも手首を切られているが
他の人の目に触れたのは
こちらだけなのも怪しかった。

結局は
作者の掌の上で
踊らされていたのですね。

 

ヴァンを守須だと見抜けるか?

最大の手掛かりは

【煙草の銘柄「セブンスター」】
守須が初登場シーンで

セブンスターを吸っている。

O市駅前の目抜き通りを抜けた、湊に近い一角。<巽ハイツ>という独身向けワンルームマンションの、五階の一室である。
手紙を元通り封筒の中にしまうと、守須は軽く頭を振りながら、テーブルのセブンスターに手を伸ばした。
ここしばらく、煙草を吸って美味いと思ったことはまったくなかった。だが、ニコチンに対する欲求だけはどうしても消えない。(P.108)

  ↓
そして

ヴァンもセブンスターを吸う。

六人が荷物を持って各々の部屋に消えると、ヴァンは自分の部屋のドアに凭れかかり、象牙色のダウンベストのポケットからセブンスターを取り出してくわえた。そうして今さらのようにしみじみと、薄暗い十角形のホールを見渡す。(P.31)

 

「あ、ありがとう」
カップを受け取ると、ヴァンは吸いかけのセブンスターを灰皿に置いて、手を暖めるようにその十角形を包み込んだ。(P.218)

  • 二人とも煙草をよく吸うが他にも煙草を吸う人物が多いためとてもわかりにくい。エラリイはセーラム、ポウはラークを吸っている。
  • ちなみに⑬江南もセブンスターを吸っている。(P.168)一応ミスリードなのだろうか?
  • 余談だが、『そして誰もいなくなった』の島に渡る前にある旅館の名前が<セブンスターズ>という。
  • P.218のヴァンがカップを手で包み込んでいるのは、④カップの形を確認しているという伏線。十角形のカップの中に混ぜてある十一角形のカップにだけ毒を塗っているため、手で包み込んでしっかり凹凸の数を確認しているのである。

 

【部屋に鍵を掛けるヴァン】
ヴァンは自ら脱水症状になり
発熱を伴う風邪を装ったが

これはポウが医学部だから

仮病だとバレてしまうための策。

わざと体調を崩してまで

ヴァンがやりたかったのは
初日の夜に本土に戻って

江南に会ってアリバイを作ること。

そのために風邪を装って

早めに部屋に引き上げる必要があった。

その際、ヴァンは部屋に鍵を掛ける。

「悪いけど、先にもう、寝させてもらっていいかな」

「ああ。そのほうがいい」

「うん。じゃあ……」

テーブルに両手を突いて、ヴァンはゆっくりと椅子から立ち上がった。

「みんな、構わずに騒いでくれていいから。物音は気にならないほうだし」

おやすみの挨拶を交わして、ヴァンが自分の部屋に引っ込む。ドアが閉められ、薄暗いホールが一瞬、静まり返った。カチッ、と小さな金属音が響いた。

「嫌らしい奴だな」(P.69)

  • 見送った一同が不審に思ったのも仕方ない。しかしヴァンにとっては抜け出して部屋に居ないから、入って来られたら困る。そのために鍵を掛けた。これも重要な伏線。


【プレートのレタリング】
プレートをレタリングする技術から
絵心がある人物が怪しい

エラリイが推理(鋭い)。
真っ先に日本画を描く趣味のある

オルツィが疑われた。
その後で
エラリイ、ポウ、ヴァンにも
多少の絵心はあると言い直している(P.130)

  • ヴァンが守須なので、絵を描くことを知っているはずだが……。

 

【江南からの電話】

本土の一日目、

守須のところに

江南から電話が掛かってくる。

「昼頃にも一度、電話したんだけどな」

「バイクで国東まで行ってたんだよ」(P.109)

  • 昼は島にいましたからね。そうくると思って守須もちゃんとアリバイを用意している。

 

【角島の“つて”】

江南から研究会の連中が

角島に行ったことを聞き

守須が「僕も誘われたけど断った」と答え

寝泊まりの場所は

「つてができたんで、

例の十角館に泊まってるんだ」と言った。(P.115)

  • “つて”というのは、守須の伯父さんが島を買ったこと。江南は知らないのかはわからないが、守須が行かなかったことをつっこまなかったのは助かった。

 

【江南の好奇心】

江南は好奇心が旺盛で行動的、

何かに興味を感じると

居ても立ってもいられなくなる性格。(P.155)

  • 江南の行動的な性格を守須のアリバイ工作に利用される。

 

一日目、二日目のヴァンは

脱水症状で熱があるのだが

守須はそこまで体調が

悪そうな様子は見せなかった。

【四杯の紅茶】

それらしい伏線があるとすれば

本土の二日目で

紅茶を四杯もガブ飲みしていること。

「ふうん。なるほどね」

二杯目の紅茶を淹れて、守須は砂糖も入れずに飲み干した。(P.171)

 

守須は三杯目の紅茶を淹れながら、ゆっくりと言葉を続けた。(P.173)

 

守須は自分のカップに四杯目の紅茶を淹れた。(P.181)

  • アリバイ工作が完成したので早く脱水症状を回復させるために水分を多く採っている。

  ↓

ここに繋がるのが

【急に降りる宣言の守須】

一日目に「安楽椅子探偵」を気取って

乗り気だったのに

二日目には急にこれ以上は

深入りしないほうがいいと言いだした。

「この辺で僕はもう降りたいと思います」(P.180)

  • 突然の心変わりに江南も島田も興醒め。だがこれは、明日からヴァンとして島にいなくてはいけないから、勝手に来られると困るため。

 

実は計画が狂う危ない場面があった。

四日目の島で

ポウが各自の部屋を調べて

所持品検査を提案した時だ。

【ヴァンが話をそらす】

ヴァンは部屋を見られたら困るので

「そんなことをしたら危険なんじゃないか」と

入った時に細工をされる危険を指摘した。(P.264)

  • ヴァンの部屋は雨漏りがして元から人の住める状態ではない。調度品もベッドもない。なんとか話を逸らそうとしている。アガサも嫌がったので部屋を調べられることはなかった。

 

【十角館の炎上の知らせ】

守須に電話があり

十角館が炎上したとの知らせが入る。(P.380)

  • なぜ守須が江南より先に知らせを受けることができたのか?ここが守須=ヴァンを見抜く最後のチャンス。電話の相手の名前は出ていないが、おそらく角島の所有者の伯父さん。ヴァンの伯父さんが角島を買い取ったと聞いている。つまり……。
  • 島田警部が守須たちに話を聞きに行く直前に、とどめとばかりに島の管理人の名前が「巽昌章」だと判明する。巽といえば……そう、★⑭<巽ハイツ>守須が住んでいるO市のマンションの名前です(P.108)。ここで推理の手掛りはすべて出揃っている。


その他の伏線としては――。

 

【エラリイの予言】

中村青司の事件に

興味津々のエラリイが言う。

「十角館のほうの床下から、庭師の白骨死体が見つかったりしないかな」(P.41)

  • 十角館の床下から庭師の白骨死体が出てズバリその通りになります。

 

【ポウはヘヴィースモーカー】

ポウがカーにラークを差し出し

「ヘヴィースモーカー」だと言われる(P.51)

  • ポウはとくに煙草を吸う。これが終盤の毒煙草で彼が狙って殺されるための伏線。

 

【西の海岸と釣り道具】

青屋敷の跡地の西にある海岸が

海辺まで下りられる。

ポウが釣りが好きで

釣り道具を持ってきている。(P.66)

  • 西の海岸からヴァンはゴムボートで島に上陸していた。ここで何気なく話題に出てくる釣り道具は、後にテグスが盗まれて、エラリイが引っかかった地下の階段トラップに使われる。

  ↓

その西の海岸で気になる物を

ルルウが発見している。

【波間に漂う白い糸】

ルルウが崖から

船を探して海を見ていた

何か引っかかるものがあったが

それが何か思い出せない。(P.209)

  • ルルウが見た物は「岩から伸びるロープ」で、この岩場にヴァンはゴムボートを沈めて目印に岩の角にロープを結んでいた。ちなみに、何を見たのか直接書いてはいない。

 

【からくり趣味】

島田から中村青司の建築物は

隠し戸棚や隠し金庫など

からくり仕掛けが

随所に造られていたと聞く。

  • コーヒーカップが鍵になる隠し部屋の伏線。

 

【最後の審判】

プロローグで男が

犯行計画を書いて詰めた壜を

海に投げて良否を問う。

エピローグでその壜が

先に誰にも見つけられずに

投げた男のところに戻って来る。

  • 投げた壜が一週間以上経っても誰にも見つからずに同じところに戻って来る確率どうこうではなく、神は最後に守須の良心に委ね、物語の決着を守須自身に決めさせることを望んだということ。
  • 犯罪の告白を壜に詰めて海に投げるのは『そして誰もいなくなった』のオマージュ。

 

欠点は?

  • 守須と中村千織の関係が隠されていてまったく手掛かりがない。他のメンバーに気づかれないように付き合っていたと言うがそんなこと可能なのか?親友のオルツィは気づきそうだが。
  • 動機が納得いかない。レイプされたとかなら恨むだろうが、誰がどの程度関与したか不明なので逆恨みもいいところ。飲まされたと言うが飲んだのは本人の意思で断ればいいだけ。
  • 三次会まで残っていた千織の目的や、席を外した守須の用事が明らかになっていない。三次会まで一緒にいたなら彼女の様子がおかしいことに気づいて早く切り上げるように促したり、もっと彼女に気をつかえよと思う。
  • 千織を死に至らしめた復讐なのに全く罪悪感を与えていない。手紙はすれ違いに投函されているからなぜ自分達が殺されるのかわかってないまま殺されている。
  • 手首ってそう簡単に切れるものなの?何度か叩きつけたら音が出ると思うが。とくにカーの手首切断は全員が夜遅くまで議論してやっと寝付いた後のことなので、警戒しているから音で気づかれる危険が高い。
  • 大学の実験室から毒薬を簡単に持ち出しすぎ。簡単に毒を塗りすぎ。
  • 口紅に青酸を塗りつけて致死量の毒を与えるにはかなり無理があるかなぁ。匂いで気づくだろうし飲みこまなければいけないから食べたり飲んだりが必要では?
  • ヴァンの部屋はベッドがない。雨漏りでくつろぐこともできない。つまり部屋の中を見られたら、変だと思われてしまうリスクが高い。
  • 毒を持ち歩いているのはさすがに?
  • 全員ミステリーファンなのに各自のアリバイを聞こうともしない。とくに『そして誰もいなくなった』を知っているはずなのに誰もオルツィの死を再度確認しないのは解せない。
  • ゴムボートを畳んで水中に隠すトリックが実際うまくいくか疑問。
  • 中盤まで冴えていたエラリイが終盤でアホ化するのはちょっとひどい。ヴァンと二人になっても相手を疑わず、庭師の白骨死体を見ても中村青司は別の死体を用意して生きていると言うし、睡眠薬入りのコーヒーも疑いなく飲むし……。
  • どうやって鍵のかかった部屋に入った?の答えが「マスターキー」はせこい。あるだろうとは思ったけど、存在するかわからない物がトリックに関わると推理できない。ヴァンに「昔はマスターキーがあったらしいが火事で紛失した(嘘)」とか言わせる伏線がほしい。
  • Kindle版だと「あの一行」の位置が違う。(P.320)

 

名前引き継ぎの罠

衝撃のどんでん返し!のはずが

実は“ある勘違い”をしてしまうと

「あの一行」の意味がわからずに

混乱してしまうことがあります。

 

その原因は

ミステリ研究会のニックネームが

先輩が卒業の際に

選んだ後輩に作家名を引き継ぐ

というシステムがあるから。(P.56)

 

つまり、

守須が「ヴァン・ダインです」と

かっこよくキメた場面を

ミス研を辞めた守須が先輩で

島に行ったヴァンは

名前を引き継いだ後輩なんだ

……と思ってしまう人もいるようです。

(一応ヴァンは理学部三回生と最初に書いてあります)

 

「卒業の際に」と

書いてはありましたが、

辞めて引き継ぎが

あってもおかしくないし……。

う~ん、

これはどうしたらいいものかなぁ。

エピローグで真相に気づくにしても

「あの一行の衝撃」が

薄れてしまうのはもったいない。

 

それに加えて「あの一行」を

「最後の一行」だと思って、

もう一度どんでん返しが来ると

思ったのに何もないから

拍子抜けする人もいるらしい。

これは『イニシエーション・ラブ』など

最後に仕掛けがあるものが

有名になった影響でしょうか。

 

その他の補足情報

有名な話であるが補足。
この作品の
メイントリックの発案者は
京大推理小説研究会に所属し
後に妻となる
小野不由美さん。

第29回江戸川乱歩賞に
応募して落選した際は
『追悼の島』というタイトルであった。
小野不由美は図案にも加わっている。

ペンネームの発案者は島田荘司氏。
作中の登場人物、
島田潔は島田氏の名前と
探偵・御手洗潔から由来。

オルツィの大野由美は
綾辻行人氏の奥さんの
小野不由美さんの名前が元ネタ。

エラリイの松浦純也は
法月綸太郎さんの本名・山田純也から。

カーの鈴木哲郎は
我孫子武丸さんの本名・鈴木哲から。

千織は我孫子武丸さんの奥さんの名前から。

角島の所有者として
巽昌章氏がそのまま登場している。

新装改訂版の表紙は
漫画家の喜国雅彦氏が担当している。

 

エラリイがアガサにトランプマジックで

「ハートの4」を当てるが

『ハートの4』は

エラリー・クイーンの小説のタイトル。