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「何事?」
つれなく雅が潤に言い放つ。
無理もあるまい。
我が好いた御人との逢瀬、
邪魔をしようものなら
馬に蹴られてどっかに飛んでいって欲しいのが本音である。
さっさと用だけ伝え
ついでに、
そこの 図々しく居座る智と和も連れて
どっかに行って欲しいのが本音ではあるが、
流石にそこは商売人。
自分の口からは言いはしない。
「それが、雅。
与力の櫻井様しか、
多分、裁けないかと思う。
どうせ、明日には櫻井様の耳にも入るんだし、
それなら、先にお耳に入れておいた方が。」
何をいけしゃあしゃあとその口が。
雅は横目で潤を睨みつける。
元はと言えば、
雅の幼馴染というか、新枕の相手。
こいつのおかげで
どれだけもてあそばれたか。
それに、
お江戸の厄介ごとのほとんどは、
この智とねうねうと和、そしてお前と俺が
解決してきたんはずだが。
こいつが慌てて来たっていうのなら、
俺たち目当てなはずじゃないのか。
睨みつけた雅の意図を組んだように、
潤が、
「実は
俺の芝居小屋で働いている弟分の藤井が
困っているんだよ。
ちょっと話を聞いてやってくれ。」
俺たちが影のお勤めをしていることなど
絶対触れてくれるなよと
言わんばかりの視線をよこし、
潤は、先ほどから後ろにいたのであろう藤井を
櫻井様と雅の前に差し出した。
…
「お初にお目にかかります。
私、松本潤之烝様の弟子に当たります
藤井の流星と申します。」
藤井は、
潤に負けず劣らずの器量を、
隠すかのように深く頭を下げる。
「あぁ。あぁ。
もう能書きとかどうでもいいから、
さっさと話をしておくれ。」
顔に似合わずせっかちな雅が
さっさと話を急かす。
ま、早く愛おしい御人と
二人っきりになりたいのだから、
事を急くのも当たり前ではあるが。
「は、はい。
あの。
要は私の財布の根付がなくなりまして。」
「財布ではないのかい?」
櫻井が鋭い目つきで睨む。
「それが、
おかしいのでございます。
先ほどそこの天神さまに
松本さまも含めた芝居小屋の皆さんと初詣に行ったところ
そこで財布が無くなっているのに気がつきまして。
これは掏摸(すり)にやられたと、
そこの境内を探していたところ、
いつの間にか根付だけ盗られて
財布が戻っておりました。
そして芝居小屋の皆さんと、
その掏摸を探し出してやろうとしていた時に、
他にも
根付だけが無くなったという野郎がわんさかいたんです。」
⭐︎つづく⭐︎