花いろ月 喰らう 〜ハンゲショウ〜 | 嵐好き・まるの ブログ

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まるです。

Over50の葉担櫻葉erです。
徒然におはなしを書き、投げ込んであります。
基本は読み手。
色々なブログに顔を出しては、叫ばせていただいております。

どうぞよろしくお願いいたします^ ^



今日は、
紅花栄(べにばなさかう)。

七十二侯のその名の通り、
山吹色の紅花の花や、
中紅色や、紅色に咲き狂う柘榴や、百日草たち。

その草花に見送られるように、

5月の満月。
Flower Moonが、
満を持して山々の影から姿を見せる。






薄く桃色にいろづいたまんまるの月が、
ゆっくりと

まだ宵にもならず
青とピンクに雲を染め上げる夕陽の反対側に上がるはずなのに。


本日出てきた月は、
その紅花に染められたかのように、


そこはかとなく紅く赤銅色。


出てきただけで、
俺を不安にさせる。




「こわい?」


早めの夕飯を食べ終えて、


縁側で月見と晩酌と洒落込んだ俺たちの前には、

輪切りにした茄子の田楽と、
ハーブと塩とオリーブオイルで和えた
きゅうりとプチトマトとアボガド。
クリームチーズとサーモンと
いくらとクラッカーのカナッペ。
そのまんまトースターにいれて
とろとろにしたカマンベールチーズに蜂蜜と、


まんまるい月にちなんだつまみと、
月の光を盆に映したような、
ましろな冷酒が置かれている。


今日の酒は 月華。
今日のFlower Moonの満月にちなんで、
マサキがわざわざ取り寄せた。




「あまりに月が紅いからさ。
びびる。」



ぐい飲みの酒をぺろりと舐めるように口にして、


ゆっくりと
一分間に0.5度ずつ斜めに上がる
月を睨みつける。



いつものスーパームーンや、
満月と違い、
俺をせせら笑うように紅い月は
少しずつ欠けて姿を変えながら、
俺の心を不安に導く。




「大丈夫。」

空を見上げてにっこりとマサキが笑う。



後ろを振り替えれば、
まだ桃色の雲。


薄くたなびき、
龍の尾となる。


雲を蹴散らすのか、
雲にまとわりつくのか、
上空で強く吹く風。



遠くて見えないが、
サトシとカズだな。






水龍に風。

ふたりがくるくると踊るように、
夕焼けのカーテンをおろしていくと、
夜が当たり前のようにやってきて、
ゆっくりと闇が俺たちをつつむ。




「おいで。
翔ちゃん。

月のショーを、特等席でたのしもう?」



マサキが、
長い脚と脚の間に
俺を抱き込んで、
優しく後ろから抱きしめる。



「一緒にいるよ。大丈夫だから。」


マサキの言葉は、
優しい呪い(まじない)のようだ。





ああ、
月が欠ける。


少しずつ欠けていく。






おかしい。





俺の中の何かが狂う。





「マサキ?
俺。変?

あの、紅い月が俺を変にしてる?」



背中の後ろのマサキの方を振り返って、
恐る恐る聞くと、
マサキが優しく笑う。




「あ、今日は、
火星も紅く隣に上がってるからね。



あの月の赤銅色ってさ。
鉄分が錆びた赤黒い血の色だよね。

タンニンが多い深い赤ワインみたいに
人を狂わせるみたいなね。




今日は、水のサトシと、
風のカズも来てくれてる。


紅い月にあやつられて、
翔ちゃんの血と気と水がまわるよ。


怖がらないで。
翔ちゃん。



俺がちゃんと導くから。」




マサキの声にあやつられているのか、

くらくらする。


これは目眩?
いや、
幻?







月が細くなるにつれて、
俺の意識が朦朧とするのに、




逆に、
体の中の血と細胞がざわつく。


何かが変わっていくと、
俺のシナプスが、
目覚まし時計のようにアラームを出し続ける。






「マサキ…。」



「くふふ。

大丈夫。

これ、飲んでごらん。」




ぐい飲みの中には、
月の光をいっぱい映した
ほのかに紅い冷や酒。




ぐいと一口、

口にすれば、


風が吹く。
大気に水が含む。








一瞬、
世の中がぐらりとしたかとおもうと、






月が消える。












なにも光はなくなり、


全てのものが闇に全部溶け込んでいく。








湿気を帯びた風だけが、
闇の中、
俺と、
俺を抱きしめたマサキを
くるりと取り囲むかのように回旋すると、



「あ、マサキ…。」







俺の意識はそこでプツンと切れた。
























「あ、起きた?」




優しくマサキが俺を抱いて覗き込む。



夜も深まったまっくらな庭。


照らすのは少しずつ、
満月に戻ろうとするかたちが歪な紅い月だけだ。





「マサキ。


なんか。



俺?

へん?」




さっき意識が途切れる前までは、
不安で仕方がなかったけど、

今は熱い。

燃える。

まるで血が俺の中で、
鬼ごっこをしているかのようだ。






「うん。
鏡見てみる?」


マサキに抱き抱えられるようにして、
姿見までいくと、


紅い。

俺の目が紅い。





「マサキ?
これって?」



恐る恐るマサキの方を振り返れば、
マサキが俺を嬉しそうに抱きしめる。



「ちゃんと、
体が変わったんだよ。

翔ちゃんが、月を喰らったからね。」






「へ?
なにそれ?」


マサキがゆっくり笑う。



「サトシも、カズも来てたでしょ?
水と気と、
そして、血と。


血と水と気が回れば、
体が変わる。

あるべき自分となる。

あの、
紅い月が、
翔ちゃんの精霊としての気を吹き込んだからね。



今日の月食は、
翔ちゃんが文字通り、
月の力を食べたから
あんなに見事に欠けたんだよ。」





血が燃える。


そして、
体が燃える。



紅い目の俺が、
姿見から呆然として、
マサキを見つめている。



これはなんだ?



俺は月の力をもらった?

それを仕組んだのは、
こいつ?







「マサキ、

お前?


いったい…?」





燃えたぎる血を持て余しながらもマサキに尋ねる。





「くふふ。
わかってるくせに。


俺は俺だよ。
翔ちゃんの、生涯の伴侶。」





マサキがゆっくりと、
俺の手を取って縁側に向かう。

マサキに取られた手は、
もう白い肌が透けるほど、
血の赤さが写し込むくらいに、
熱くなっている。





「ほら、
夜のちいさな守り人たちが、
翔ちゃんが変わったことを見に来てるよ。


みんな恥ずかしがり屋だから、
姿は表せないだろうけど、


その紅い美しい姿を見せてあげて?


きっともうすぐ力も使える。

もうすぐだよ。
その日は。」


マサキは俺を優しく導く。



縁側で俺を
後ろから抱きしめる
マサキと座れば、

ざわざわと、
夜の狭間から、
不思議な音。


それはマサキと俺への祝福か?





「夜は長い。

これからだよ。


その熱い燃える血と、
その翔ちゃんの聖なる雫。

俺に注ぎ込んでね。」


マサキが、ぺろりと酒をあけると、
俺に妖しく微笑んだ。













⭐︎つづく⭐︎








本日は
紅花栄。


そして、

花いろ月の
皆既月食の話でした。


翔ちゃん。
半覚醒。



紅い月を喰らいました。





もうすぐ、
ほんとの最終回です。

今年の半夏生は、
7月2日。