GNSSによる干渉測位に分類される
・RTK(Real-Time Kinematic:リアルタイムキネマティック)
・PPK(Post-Processing Kinematic:後処理キネマティック)
は、UAV写真測量でも、撮影位置の測位などの目的で広く使われる測位方式です。
その中で、特に仮想基準点方式などネットワーク型の場合に多いように思いますが、
「PPKはRTKより高精度」という趣旨の記述をよく見かけます。これは本当なのでしょうか?
もちろん、リアルタイムの通信がうまくいかない状況では、当然RTKが不利ですが、通信に問題がない場合でも、PPKはRTKより高精度なのでしょうか?
私の理解ではNOです。
RTKドローンからログを取り出して自分でPPK処理するのは「通」な感じはしますし、
人情としては手間暇かければ精度が上がりそうと思いたくなりますが、
ただ観測データを後処理ソフトに突っ込むだけでは、銀が金になることは期待できません。
詳しくは、次のように考えます。
確かに後処理であるPPKには、運用上のみならず精度上も、原理的に有利な点があるでしょう。例えば、
○ 各時刻より後の時刻のデータも参照した、フィルタリングなどが出来る
○(時間をかければ)測位処理の設定のチューニングができる。
○(公開を待てるなら)精密暦など、後で公開される情報を使える
このようにPPKは、原理的にはRTKより高精度を「目指せる」と言えます。
十分な知識と時間と情報があるならば、RTKより高精度を得ることが可能のはずです。
一方で、RTKもPPKも測位処理のアルゴリズム次第・設定次第のところがありますので、
RTKとPPKに異なるソフトウェアを用いる限り、どちらが高精度になるかを予想するのは困難でしょう。また、異なるソフトで得られたRTKとPPKの測位結果を評価して、PPKの方が高精度だと述べるのは、適切ではないと思います。その比較には、RTK VS PPKという測位方式の違いだけでなく、アルゴリズムや設定の違いが大きく影響するためです。
例えば、RTKドローンであるDJI Phantom 4 RTKは、特定の飛行ミッションでは、RTKによる測位結果に加えて、PPKのための観測データ・航法データもSDカードに残してくれます。このデータを利用し、有償のソフトウェアやRTKLIB, GSILIBなどの無償のソフトウェアで、PPKの測位処理ができます。
しかし、そのPPKの測位処理のアルゴリズムや設定(※)を、Phantom 4 RTKが行うRTK測位処理のそれと揃えることはできません。用いる衛星の判断基準すら、揃えるのは困難でしょう。そもそも、Phantom 4 RTKが行うRTK測位処理の中身を詳しく知ることはできないためです。
結果、両者のアルゴリズムや設定次第で、PPKであってもRTKを大きく上回る誤差が生じます。よって、Phantom 4 RTKが保存したRINEXファイルをRTKLIBでPPK処理すれば撮影位置の座標の精度が上がる、とは限りません。なんとなく、手間暇かけてPPK処理すれば精度が上がりそうと思いたくなりますが、全く十分な根拠がありません。
また、アルゴリズムも設定もバラバラの両者の結果を比べても、測位方式による精度の違いの評価にはなりません。従って、この場合の比較の図式は、
「Phantom 4 RTKによるRTK測位」 VS 「ある設定にしたときのRTKLIBによるPPK測位」
に過ぎず、実用上は意義がありそうですが、RTK VS PPKの公式試合とはみなせないわけです。
なお蛇足ですが、この例の場合、空中での真の位置を求めるのが難しいので、そもそも測位誤差の評価自体が困難です。簡単のため、緯度・経度・楕円体高の推定値(測位結果)に付与される標準偏差の推定値を用いたくなりそうですが、これもまた、アルゴリズム・設定が揃っていない状況で比較するのは危険だと思います。
※ GNSSの測位処理にも、SfM解析と同じように数多くの設定項目があり、例えば仰角マスク、S/N比マスク、異常データの検出・除外の設定、整数値バイアスを決めるためのアルゴリズム、受信機の運動のモデルなどがあります。しかも、SfMで最適な設定が状況次第であるのと同様、例えば「仰角マスク」の最適値も状況次第です。