MVSによる水深過小評価倍率に関する研究 | 山口大学 空中測量(UAV写真測量)研究室の技術ノート

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【このテーマの記事は、学術誌や学会等で発表した内容の紹介です。】

 

【プロローグ】

UAVなどによる川・海の浅水底の写真測量では、水面における光の屈折により、水底の点の標高などを実際よりも高く推定してしまいます。言い換えれば水深を実際よりも浅く推定してしまいます。

 

例えば、河道の空中写真を撮影し、MetashapeやPix4DmapperなどのSfM-MVSソフトウェアで解析する状況を考えます。SfMにより正確なカメラパラメータを得た後(実際はそう簡単ではありませんが)、MVSにより密な点群を作り、密な点群に基づきDSMを作ったとします。

 

この密な点群の各点や、DSMの各画素に格納されている河床高(標高・楕円体高などの鉛直座標)は、屈折を無視した三角測量により得られた「見かけの河床高」であり、実際の河床高よりも大きくなります。さらに、水面高と見かけの河床高との差である「見かけの水深」は、実水深(真の水深)と比べて、1.33倍以上も小さくなります。

 

 

上図は、水面を通した三角測量に対する屈折の影響の模式図です。ただし、画像が2枚しかなく、しかも2つの画像の撮影位置と目標点(ここでは、MVSなどで座標を推定(三角測量)される水中の点を指す)が「水面と直交する平面」上にあるという、最も単純な2次元的状況の図です。

 

実水深と「見かけの水深」の比を、我々は「浅く見える倍率」「水深過小評価倍率」などと呼びます。

SfM-MVSソフトウェアから得られる「見かけの水深」にこの値を乗じると、実水深に補正できることから、「最適屈折補正係数」と呼ぶこともあります。上図での値は、左のケースで1/0.66 = 1.5、右のケースで1/0.56 = 1.8 程度です。


「浅く見える倍率」は、目標点と、その点の三角測量に参加する画像群の撮影位置との関係により、上図のように目標点ごとに様々な値をとります。一般に、撮影位置が目標点の直上付近に分布していれば、「浅く見える倍率」は小さくなり、理論的な下限である「水の空気に対する相対屈折率」(約1.33~1.34)に近い値をとります。

 

もし、MVSで得られた点群の個々の点(目標点)について、その点に関する三角測量に参加した画像群のマッチング関係と三角測量のアルゴリズムが得られれば、浅く見える倍率は理論的に計算できます。しかし通常のMVSソフトウェアでは、そもそも前者を出力できないため、「浅く見える倍率」を理論的に(演繹的に)求めることが出来ません。ここで、マッチングが難しい水中の点については特に、ある目標点を「視野に収めること」と、その目標点の「三角測量に参加する」ことには、雲泥とは言いませんが大差があることに注意が必要です。

 

そこで私たちは、CGなどを用いたシミュレーションにより、UAV写真測量で、SfMが完璧に出来た場合のMVSについて、「浅く見える倍率」の空間平均値の挙動を研究してきました。十分なオーバーラップ率(重複率)で撮影を行っていれば、個々の目標点に関する完璧な補正はできなくとも、全点の「見かけの水深」に適切な補正係数を一律に乗じることで、実用上十分な補正が出来る場合が多いためです。

 

国際学術誌を検索しても、この「浅く見える倍率」の挙動に関する研究はあまりありません。

そこで以下、このテーマに関する当研究室の研究履歴を、論文や学会発表にリンクしながら紹介していきます。

 

【「浅く見える倍率」に関する当研究室の研究履歴】
 

1. オーバーラップ率が上がると、「浅く見える倍率」が空間的に一様に

 

こちらの論文:

神野有生, 赤松良久, I. G. Y. Partama, 乾隆帝, 後藤益滋, 掛波優作, UAVとSfM-MVSを用いた河道水面下測量技術における水面屈折補正の高度化, 河川技術論文集, vol. 23, pp.185-190, 2017.

の第2章ではでは、各目標点に関する「浅く見える倍率」(最適屈折補正係数)が、

  • 目標点と、その三角測量に使われた画像群の撮影位置との、位置関係により異なる。
  • 目標点の三角測量に十分多くの画像が使われるとき、画像数や撮影位置による変動が小さい(空間的に一様になる)

ことを、数値シミュレーションで示しました。後者は、空間的に一律な補正係数を用いる論拠となります。

 

 

2. CGシミュレーションによる空間平均値1.42

 

「浅く見える倍率」を空間的に一様とみなせるとき、もし水中で数点の実水深を測ることができるならば、それに合わせこむように補正係数を設定するのがベストです。ただし、水中に踏み入っての測量は手間がかかることであり、UAV写真測量の簡便さを少々損なうことになります。

 

そこで、こちらの論文:

 

神野有生, 米原千絵, I. G. Y. Partama, 小室隆, 乾隆帝, 後藤益滋, 赤松良久, UAVとSfM-MVSを用いた河床冠水部の写真測量のための水面屈折補正係数に関する検討, 河川技術論文集, vol. 24, pp.19-24, 2018.

では、それぞれの場面における最適値ではなくとも大きくずれてはいないような、広く使える補正係数はないものか、検討しました。具体的には、CG画像と広く用いられているソフトウェアを使って、高度水深比とオーバーラップ率(重複率)を20通りに変えたシミュレーションを行い、「浅く見える倍率」の空間平均値を求めました。

 

その結果、20ケースとも「浅く見える倍率」の空間平均値は1.409 - 1.429という狭い範囲に収まり、その平均は1.42でした。そこで、高度水深比や重複率によらず使えるかもしれない値として、1.42を提案しています。

 

 

ただし、これらのシミュレーションは、SfMにより正確なカメラパラメータを得られた場合のものです。

現実のUAV写真測量では、水面の存在する領域において十分正確なカメラパラメータを得ることは、

相当な撮影と解析の工夫がないと難しいものです。カメラパラメータの誤差によって「浅く見える倍率」は変動し、理論的下限値1.33すら下回ることがあります

 

3. 波の影響

 

つづく