これは極めて私的な楽しみだが、毎年秋から冬の時期になると、妙に恋しくなるものがある。人肌ではなくては、温かい日本茶と煎餅とモダン・ジャズなんです。意外と思われる方もいるかと?そうなんですよ、このブログを始めるまでは、仕事関係者でも私のこの趣味を知る人は限られていた。なぜなら、音楽の仕事を生業としても、ジャズだけは趣味のままで楽しみたいとの思いから秘密にしていた。ま、あえて言う必要もなかったし、仕事にする気はさらさらなかったからそれでいい。
そもそも私がジャズに熱中したきっかけは学生時代、長年慣れ親しんだポップスやヒット曲がつまらなくなり、かと言って音楽は聞いていたいから、近しいジャズ好きの友人に感化され、さらにその種の専門の喫茶店通いにのめリこみ、レコードを買いあさった。マイルス・デーヴィスから、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、クリフォード・ジョーダン、エリック・ドルフィー、ポール・チェンバースなどなど、作品やアーティスト名を挙げれば限りがない。
そしていつ頃からかは忘れたが、なぜか夏の喧騒感が日々薄れゆく秋、寒さを感じる初冬に、窓や扉を締め切った部屋で、いつもより音量をあげてジャズに浸る習慣が定着した。ジャズを楽しむお供が珈琲でなく、日本茶と煎餅、これも揺るぎない。
この楽しみはレコード選びから、エロル・ガーナーも悪くないし、クールな女性ヴォーカルのクリス・コナーもいいな。でも今年の口火は1957年録音のアート・テイラーがドナルド・バードらを従えた『テイラーズ・ウェイラーズ』を選んだ。もちろんかけるのはアナログ・レコードに限る。この音の温もり感がなんともいえない。
今回はそのアナログ・レコード収集についての3回目、どうしたら目的の盤を探せるか。あわよくば低価格でというのが今回のテーマです。そんなうまい話があるわけないと思っている人もいるでしょう。ごもっとも、ただし探しているレコードを見つけ、なるべく安く買う秘訣は、誰もが出来そうで実践しない原始的な方法である。最近ではインターネットを使って探す、買い物をする人が多いが、これだと楽だが高い買い物をすることを覚悟しなければならない。
楽で便利、目的の商品を探す手間暇も省ける。湯水のようにお金を使える、価格なんて気にしない人はそれでもいいでしょう。だが、レコード収集=量より質(中味)の充実は、探す手間暇を惜しまないこと。そして「時間と自分の足」を使って探すことが「楽しい」と思えるようになって欲しい。
手間暇をかけることでインターネットや書籍では得られない知識が身につく。レコード店の特色を把握する。入荷状況、値付け、店員の知識や好み、店の品揃えでの特色、そして多くの商品を実際眺めることで、オリジナルか再発かなど、自身の目を通した情報を得る。おいおい話すが、書籍同様、アナログ・レコードにも初版、再販、再再販があり、その見極めは各社さまざまである。という知識はインターネットでは得られない。
レコード収集や購入のレベル・アップは、とにかく足繁く店に通い、数多くの盤を眺めることだ。さまざまなアルバムのジャケットやそのクレジットに目を通すだけでも得る知識は少なくない。無名のアーティストのアルバムをサポートした有名ミュージシャンやプロデューサー、英米以外の国で制作、発表された人気歌手の作品。人気アーティストが不遇時代を過ごした二流バンド在籍時のアルバムなどなど。時にはお買い得のアルバムから購入した無名ミュージシャンの作品がなかなかの力作だったりということもある。
私個人の経験から、案外一発屋的なデュオや男女無名のシンガーソングライター系、とくに70年代ものに掘り出し物がある。たとえチャートにはいっていなくても、聴きごたえのある作品が眠っている。とかく知名度や人気、あるいはヒットや好セールスがアルバム選びのポイントになるかと思うが、それだけで絶対ではない。
現代はとかく楽な探しものや買い物をしたがるが、これでは、とくにアナログ・レコードの収集にはマイナス。たとえ面倒と思い、ダサイといわれようが、地道に自分の目と足で可能な限り店の餌箱をあさることこそ収集道のあるべき姿だ。
私自身の経験から、とくに日ごろは行かない、たまたま通りかかった裏路地の小さな店などは、必ずチェックしよう。意外なお宝盤が大手のチェーン店より格安な価格で売られていることがある。私の場合はかつて1万円で売られていたエルヴィス・プレスリー初版の米盤オリジナルのクリスマス・アルバムを1500円で購入した。
打合せに行く途中で通りかかったレコード店での今も信じがたい出来事、しかも前出のアルバムよりジャケット、盤とも状態がよく納得以上の買い物で、長い収集歴の忘れられない1枚になった。それもこれも、レコード店に足を運ぶことが実を結んだと思う。とにかく楽をしては格安で、目的のレコードを入手することは無理。