今週は各地で成人式がありましたが、私が好きな作家「柳美里(ゆうみり)」さんのご挨拶が私が好きな方のブログに載っていたのでシェアさせて頂きます。
福島県南相馬市の成人式を訪れた際のご挨拶です。
成人おめでとうございます。
わたしは柳美里という者です。小説を書いています。書くことを仕事に選んで、今年でちょうど25年になります。18歳のときに最初に書いて発表した作品は、『水の中の友へ』という芝居の戯曲でした。なぜ小説ではなく戯曲だったのかというと、15歳のときに高校を退学処分になり、役者をめざして「東京キッドブラザース」という劇団に入ったからです。演出家の東由多加さんは、私にこう言いました。
あなたの家族のことも、これまでの出来事も、人には知られたくないマイナスのことだったでしょうが、演劇をやっていくのなら、すべてはプラスにひっくり返るでしょう。あなたはこれまでの悲しみ、苦しみを誇りにしたほうがいい。
わたしは、在日韓国人として生まれ、小学校、中学校と烈しいいじめに遭いました。
父はパチンコ屋の従業員で、わたしの鼻の骨を折り、母の鼓膜を破るほど暴力的な人で、母はキャバレーのホステスで、家に帰ってこないこともたびたびでした。結局、父と母はわたしが10歳のときに別れました。
わたしは中学2年のときに、精神のバランスを崩し、学校を無期停学になって精神科に入院しました。何度か家出をして、自殺を試みたこともあります。そして、15歳のときに、この言葉に出会ったのです。
「これまでの悲しみ、苦しみを、あなたは誇りにしたほうがいい」と。
悲しみや苦しみに直面すると、なぜ生きているんだろう、なぜ生きなければならないんだろう、という問いを、自分自身に突き付けます。それはとてもつらいことです。けれども、悲しむこと、苦しむことは、物事を考えるうえでの切り口になります。生きることは何かという、その問いが、生きる姿勢を支えてくれるのだと、わたしは思います。
去年の3月11日から、未来が切り落とされ、希望が切り刻まれる瞬間の連続だったと思います。
わたしは、みなさんに同情はしません。とても同情するなんてことはできません。みなさんはこの10か月間、ひとりひとりの頭で悩み、ひとりひとりの心で悲しみ、苦しみぬいてきたからです。
わたしは4月22日、20Km圏内が警戒区域に指定される日に、富岡町の夜の森公園に行き、満開の桜をみました。誰もいない浪江町の駅のホームを歩きました。7月23日、相馬野馬追の騎馬行列をみました。24日は、太田神社で行われた例大祭をみました。年末年始は、三嶋神社、太田神社、男山八幡神社にお参りをしました。
みなさんには、誇るべきものがあります。そして、みなさんの前には今、大きな壁があります。決して安心してもたれかかることができるような壁ではありません。けれど、みなさんが誇りさえ手放さなければ、きっといつか、この大きな壁を乗り越えられる、壁を背にして歩き出せる、壁をふり返られるときが必ず来ると思います。わたしは、そのときまでみなさんの悲しみに、みなさんの苦しみに、みなさんの誇りに、寄り添いたいと思います。
成人、おめでとうございます。
毎年テレビでは成人式で暴れるニュースが放映されますが、今年被災地での成人式が流れてましたが、皆さんが大人の表情をされていました。
人間というのは、深い悲しみや苦しみからの方が学びが多いといいますが、
昨年苦労した新成人達は、感謝の気持ちと共にこの日を迎えられた様子が映し出されておりました。
「悲しみや苦しみを誇りに生きる」
同じ日本人として、乗り越えた若者達を誇りに思います。まだまだ大変ですが、幾つもの壁を乗り越えて大人なっていくのですね…