その人の第一印象はなんとなくヌメッとしていた。
変に言葉を交わすとこっちがヌメッとした嫌な感じになりそうな気がしたのだ。
そしてその印象は最後の最後まで変わることはなかった。
こっちはタクシーの運転手、あっちは乗客という関係で、たまに何かお褒めの言葉をもらった時でも、彼の口から出た言葉はこっちに心地よく響くことはなかった。
いつもどこか冷たく湿った、不用意に爬虫類に触ってしまったような不愉快さを感じさせた。
言い換えると「胡散臭い人」、そんな感じだった。
彼は見た目にも妙な雰囲気を漂わせていた。
人間の着ぐるみを着ているようだったのだ。太っているのに油っ気がなかった。
ぶかぶかとした体形で、表面が妙に乾いた印象で、だからまるで真ん丸な顔をした、人間の着ぐるみをまとっているように見えたのだ。
しかし常連の客として接し続けて何年か経った頃、その風貌は一変した。何か特別な(あの「ライザップ」とかいうような)鍛え方をしたんだろうが、ビシッと引き締まって乗ってきたのだ。
あ、着ぐるみを脱いだんだ、と思った。
どこまで胡散臭い人なんだ。そうも思ったものだ。
こっちは運転手であっちは客だから話し方は当然、常に「上から」だった。
鷹揚に構えた懐の広い上からではなく、人を人とも思わぬ傲慢な上からでもなく、どこか無理をしての「上からぶった」上からだった。隙だらけの上から、とでもいうような。
そんな上から言い放つ感じもやはり胡散臭い印象だった。
何か子供を相手にしたイベントの仕事をしているようだったけれど、大きな会社を切り盛りしているわけじゃなく、女性を一人、若い男の子を一人だけ雇って、ほとんどの交渉事を一人で取り仕切っている感じだった。ほとんど個人しか相手にしていないような電話での受け答えだったけれど、いったいこの人は子供を相手にどんなイベントを開催してるのか、まったく見当もつかないところがまた胡散臭かった。
とにかく何から何までが胡散臭さの塊みたいな人だったのだ。
だからある日ニュースで、見慣れたビルがテレビ画面に映し出された時、ああ、とすぐに俺にはわかりました。ああ、あの人だ。
そのニュースで言っていたことが「犯罪」という範疇に入れられることなのか、たんなる「大きな失態」なのかは俺にはわからないけれど、ニュースから伝わってくる不快さとあの「胡散臭さ」はストレートに結びついたのだ。