俺が入学、そして入会(入部)した時すでに4年生で、
ともに放送会の中で活動したのは3か月ほどにすぎなかった。
だから、たとえばこっちが一目で可愛いと思えるような女の子で、
あっちが年下の女の子に常に目を光らせているような男子学生ででもあれば別だが、
こっちが男の新入部員、あっちが4年生なんていうからは俺のことなど
まったく覚えてるわけがないのである。
ただもし、俺のバイト先のうしわかという焼き肉レストランで交わした会話を
覚えていてくだされば……いや、覚えてるわけがない。
あら、いずみさわくん、とその人は素晴しい笑顔を俺に真正面から向けてくれたのである。
優しい人なんだ、と思った。怖い先輩だと思っていたのである。
その人はやがてTBCのアナウンサーとして真剣なまなざしをテレビのこちらに向ける人となった。
それがその人にふさわしい姿と、ずっと思っていた。
だから「セージカ」などになってしまうのはなんか違うと思っていた。
その人にとっても立派な先輩には違いないであろう岡崎トミ子さんややたらいろんなところで
いろいろ息まいていたフリーアナウンサーのこんのあずまさんにそそのかされて……と思っていた。
そっかそういう人なんだ、と細い糸が完全に切れた。
でもその人はセージカに四回当選したあと、その職を投げうつことになった。
市長選に立候補したのだった。
うわっ、と思った。
俺の目は節穴だった、と思った。
そしてその人は見事地元の有力者を僅差で倒し、市長さんになった。
街の学級委員、みたいなもんだ。
自分から進んで貧乏くじを引くようなものだ。
少なくとも俺にはそうとしか思えない。でもそれをやる人。
そういう人だったのだ。
今回の選挙は実際、信任投票みたいなものだ。
自民党の勝手で行われた税金の無駄遣いみたいなもんだ。当然投票率も低かった。
でもあの笑顔が俺の中には永遠のものとしてあった。
だからもちろん投票にも行ったし、あっというまに当選が決まってうれしかった。
やつれたり、ぷっくりしたりやたら忙しい市長さんだけど、
ずるさのかけらも持たないかずこさんをすっと俺は応援したいんです。