駅からどしゃ降りの中を走ってきた。部屋に駆け込んだ直後、誰かがドアを叩く。
「はーい!」めんどくせーなあと思いながら叫んだら、「隣り隣り!」って。
隣り?ってことは大家、彩子さんだ。
「ゆーこちゃん、お風呂においでよ!」
大家が?店子に?風呂においでよ?
ありえない、と普通なら思うんだろうと思うと笑える。
ほんとに笑える。
「行く行く!」
答えて、わたしは着替えのジャージをわしづかみにして部屋を出る。
わたしがすぐに部屋を出るのをわかっている彩子さんは、自分の部屋のドアを押さえてこっちを見て待っていた。
ずぶ濡れの服を着たままのわたしを見て、彩子さんはにっこり笑う。切なく笑う。本人は全然切なくなんてなってないのはわかってる。でもなんか切ない顔で彩子さんはわたしにニタッと笑っている。
「おつかれさん」と言いながら彩子さんはわたしを部屋に入れてくれる。