はれるや荘の彩子さん 6 | 愛と平和の弾薬庫

愛と平和の弾薬庫

心に弾丸を。腹の底に地雷原を。
目には笑みを。
刺激より愛を。
平穏より平和を。
音源⇨ https://eggs.mu/artist/roughblue

駅からどしゃ降りの中を走ってきた。部屋に駆け込んだ直後、誰かがドアを叩く。

「はーい!」めんどくせーなあと思いながら叫んだら、「隣り隣り!」って。

隣り?ってことは大家、彩子さんだ。

「ゆーこちゃん、お風呂においでよ!」

大家が?店子に?風呂においでよ?

ありえない、と普通なら思うんだろうと思うと笑える。

ほんとに笑える。

「行く行く!」

答えて、わたしは着替えのジャージをわしづかみにして部屋を出る。

わたしがすぐに部屋を出るのをわかっている彩子さんは、自分の部屋のドアを押さえてこっちを見て待っていた。

ずぶ濡れの服を着たままのわたしを見て、彩子さんはにっこり笑う。切なく笑う。本人は全然切なくなんてなってないのはわかってる。でもなんか切ない顔で彩子さんはわたしにニタッと笑っている。

「おつかれさん」と言いながら彩子さんはわたしを部屋に入れてくれる。