「あら、すーさん、行ってらっしゃい!気をつけてね!」
今日も笹焼彩子さん、つまり大家の声で俺は起こされる。
このすーさんは203のすーさん、タクシー運転手の多摩木さんだ。
ここに引っ越してくる前に大きな会社をクビになったとか言って、いくつも面接に行った結果、何とか入れたのがタクシー会社らしいが、まだ他の仕事も探してるんだってこった。彩子さんがそんなことを言っていた。
他の住人のことなんか正直どうでもいいし、第一住人のことをべらべらしゃべるのはどうかと思うが、彩子さん本人は勿論、多摩木さんも大して気にはしていないらしい。俺はといえば、慣れた。ただ一言、慣れた。慣れるしかないということを学んだ、と言ってもいい。