彩子さんはおばあちゃんと高校で同級生だった。だから同い年の48才。
積み重なった運命の果てに今はそれぞれに、いくつかのアパートの大家さんと育児施設の園長という立場に落ち着いている。
「時は金なりとか言うじゃない」
日曜の昼下がり、彩子さんの部屋の前のベンチに誘われて二人で一服してたら彩子さんは言った。
「時間はお金とはやっぱり関係ないよね」
煙が俺たちを取り巻いて、蒸した空気の中に流れていった。
「でも急いでる時、タクシーに乗ったりすると時間を金で買ったような気になったりはするかな」
俺は思うままに言ってみる。
「そんなの全然、関係ない。お金で時間は買えないって、絶対。それにそんなこっちゃない」
「ふんむ……」
なんと反応したらいいのか、俺はまるで虫にでもなったような気になった。
「時はね、金でもゴールドでもないのよ、絶対、残念なことにね。生き物をお金で買っちゃダメなのと一緒」
俺は近所で飼われている片目のコリー犬を思い浮かべる。
あれはなんで片目になっちまったんだろう。
「時間には優しくしてあげなさいよ、すーさんは、ね」
「優しくっすか」
「そ。優しくね」
そんなことを言ってからニッと向けてくる、彩子さんの笑顔は世界一だと俺はいつも思う。