はれるや荘の彩子さん 3確かにわたしの夫はいつだってぼーっとした人だった。まったく変わっていない。 そしてその子の正大は父親にそっくりの性格をしていた。だからあの日も……。 そっくりの父と子が二人歩いている舗道に老人の車は突っ込んできた。そしてぼーっとしている小さいほうだけが死んでしまった。大きいほうはそれから自分を取り戻すことができなかった。それでいいとわたしも思った。三人ともいなくなってしまえばそれで済むことだ、と思った。でも消えたのはこの人一人だった。ぼっと、煙みたいに。ひどい話だ。