玄関を入ってすぐの六畳間、縁側に面した八畳間、一畳半ほどの台所、トイレと言うよりは便所、かまどうま産地の風呂場、そして庭には踏切と東北本線。それがタロが生後2週間から一年少々を暮らした幼少の家だった。家賃3万円。
前回、ここを出たという所まで書いたのだが、もうちょっとここでの話を。
さてこの外壁を水色トタンで補修してあるボロ家、普通の家ならそこって桜や柿の木が立ってたりするとこだろってな距離に踏切がある、ということなのだが、ということは真夜中過ぎまでチンチンゴーゴーに悩まされるということで、タロが来る一年弱前に引っ越したばかりの頃は、いくら騒音(ステレオ&ギター)出し放題OKというメリットがあるとはいえ、やはり、テレビや会話はことごとく流れが途切れるわ、なかなか寝つけないわということになり、こりゃあやっぱり選択ミスだったかなあと思って当然なんだが、(文章長すぎだあ)、あら不思議、そんな記憶はこうやって昔のことをホジホジしてやっと、そうだ!最初はそうだったのだ!よなあ……と耳カスほどに確認できる程度だったりする。つまりうるさくて困ったあ!という記憶は耳カスほどなのだ。早い話が、人間の感覚って不思議、チンチンにもゴウゴウにも速攻慣らされてしまったのだ、ということ。
ただひとつ言えるのは、思うに、それがとんでもないゴー音だったのがかえってラッキーだったんじゃないだろうかってこと。ほら、蚊の音はやんなっちゃうぐらい気になっちまうけど、ヘッドフォンでハードロック聞いてるといつの間にか眠くなったりするってあるでしょう。あれだと思う。チンチンとゴウゴウ、ワンセットの轟音に「包まれる」ことに、25才と20才の若夫婦はじき慣らされてしまったのだ。
けれど、結局最後までこれに慣れることの出来ない頑固な男がいた。
タロ。
とにかく列車が怖い。踏切側に面した玄関でゆったりしていても、遠くから列車の音が聞こえてくるとあわてて部屋へ戻ってくる。大恐慌。大恐怖。
25才のバカ男(ばかお)はそんなチビ野郎がちょっと面白かった。で、ある日、玄関でモゾモゾやってるタロをチンチン鳴り始めた時、肩に乗せてしまった。さあ、君が怖がっている電車の正体を見せてあげよう、である。
踏切のチンチンに、肩の上でジリジリし始めるタロ。体を右へ左へ回し始めた。おお、やはり怖がってるなあ、と思った瞬間、ピタッと肩の上の動きが止まった。固まったのだ。そして列車が来た。
ギャッ!!……(半濁音。ニャとギャの真ん中ぐらい)
気がつくと、たたきの上でひくひくやってるタロ。前足を内側に曲げたまま。
パニクったタロは、うわーーーーッ!と俺の肩からダイブしたのだった。
「捻挫しちゃったじゃなーい!」、妻の怒号。
この手でタロを傷めつけた最初でした。
↓恨みの目線
まったく、笑い話じゃないよねえ。
ゼツボウのゼの字も知らないバカ男だったのだ。