近所に猫がいる。
しっかりした体つきの、今が盛りといった風情の、白地にトラのハッピでも羽織ったような柄の猫だ。
我が家には4年8ヶ月前まで、小さくて黒くてしっぽの短い一人息子がいた。
晴れた日、ウォーキングに向かうと、その道すがら「トラはっぴ」に出会う。
こっちが姿を現すと、やつはじっと睨みかえしてくる。
猫として、当然といえば当然の体勢である。
そんな状態がずっと続いていた。
が、おととい、そのトラはっぴが俺が通りかかると、ゆっくり立ち上がり、こちらへ歩いてきた。
俺は立ち止まった。
トラはっぴはなんらこだわりを見せることなく、するするとこちらに近づいてくる。
俺はしゃがみこんだ。
飼い主の家の窓は、網戸の向こうで開いている。
奥さんに見咎めれないかと、そっちも気になったが、さらに気になるものが、胸の奥から湧き上がってきていた。
その頭を掻いてやるうちに、のどの下を掻いてやるうちに、
なにやら経験したことのない屈託が胸にわだかまりだしたのだ。
俺は立ち上がり、じゃあな、と背を向けた。
そんな自分の変わりように罪悪感のようなものを覚え、振り向くと、
トラはっぴは何事もなかったかのように、そこに佇んでいた。