たじろぎ | 愛と平和の弾薬庫

愛と平和の弾薬庫

心に弾丸を。腹の底に地雷原を。
目には笑みを。
刺激より愛を。
平穏より平和を。
音源⇨ https://eggs.mu/artist/roughblue

近所に猫がいる。

しっかりした体つきの、今が盛りといった風情の、白地にトラのハッピでも羽織ったような柄の猫だ。


我が家には4年8ヶ月前まで、小さくて黒くてしっぽの短い一人息子がいた。


晴れた日、ウォーキングに向かうと、その道すがら「トラはっぴ」に出会う。

こっちが姿を現すと、やつはじっと睨みかえしてくる。

猫として、当然といえば当然の体勢である。

そんな状態がずっと続いていた。


が、おととい、そのトラはっぴが俺が通りかかると、ゆっくり立ち上がり、こちらへ歩いてきた。

俺は立ち止まった。

トラはっぴはなんらこだわりを見せることなく、するするとこちらに近づいてくる。

俺はしゃがみこんだ。


飼い主の家の窓は、網戸の向こうで開いている。

奥さんに見咎めれないかと、そっちも気になったが、さらに気になるものが、胸の奥から湧き上がってきていた。


その頭を掻いてやるうちに、のどの下を掻いてやるうちに、

なにやら経験したことのない屈託が胸にわだかまりだしたのだ。


俺は立ち上がり、じゃあな、と背を向けた。

そんな自分の変わりように罪悪感のようなものを覚え、振り向くと、

トラはっぴは何事もなかったかのように、そこに佇んでいた。