俺のことを自分と同じ、出張中のサラリーマンだとでも判断したんだろう、おやじは気安く話しかけてきた。
「寒い節はもちろんだけど、さわやかな季節の温泉ってのもまたいいよねえ」
同感だった。くたくたに歩きつかれたあと、まだ明るいうちに入る温泉は、外気の気持ちよさとあいまってこれもまた一興ではある。
またすぐに話しかけてくるに違いないと俺は少々窮屈な気分で身構えたが、おやじはふう~と大きな息をついたきりとなった。話しかけてもつまらない奴だ、とでも判断されたに違いなかった。言葉こそ返さなかったものの、俺としては最大級、ショーケンばりの開けっ放しの笑みで応じたつもりだったのだが。
今どきはこんな時に殺意を抱く奴もいるんだろうなあ。そんなことをふと思う。おやじの立場でも、俺の立場でもきっと現代の人間はさささっと殺意を抱き、もう一発いやな気分に拍車をかければそれは現実となるのだ。
でも、とも思う。人間なんて今も昔も同じぐらい殺しあっちゃいないか。
う~ん、そうかもしれないなあ、とショーケンがさらに気持ちよくなった時のように、極めつけにだらしない笑みを青空に向け、俺はニタついた。