真夜中の現場検証 | 愛と平和の弾薬庫

愛と平和の弾薬庫

心に弾丸を。腹の底に地雷原を。
目には笑みを。
刺激より愛を。
平穏より平和を。
音源⇨ https://eggs.mu/artist/roughblue

 昼メシにしようと、午前11時、河原町へ向かっているところへ無線が鳴り、舟丁・急患センターから南中山まで=4,010円。今度こそ昼メシだと河原町へ戻る途中で片平から荒井まで=2,250円。12時40分、やっともやしラーメンを腹におさめて駅へ入ったら七北田=2,890円。とっとと駅へ戻ろうってんでトンボ帰りをうったら市名坂でお客様、一番町まで=2,490円。

 この時点でほぼ形はついた。あとは余裕で駅の人。最終の客もつけようと思って11過ぎても駅へ。いつもなら11時過ぎたら駅へは入らないんだが、今日は余裕の人、「回ってこなくてもいいかんね。時間つぶし時間つぶし」。案の定、最終の新幹線から降りてきた客は10台以上前で切れる。0時10分、「いいけんね、いいけんね、時間つぶし時間つぶし」と潰れた十字屋の前へ。……そこへ無線。

 真夜中のビジネスホテル。飲んだ客が出てくる場所ではない。はて……。

 出てきたのは50代と思しきご夫婦。旦那さん、ダッポリした巨体に真っ赤なコート。赤熊?

 「○○ホテルの並びにバス停あるでしょう?そのあたりに……」

 ご夫婦のどちらだろう、口臭がはなはだしい。それとも俺自身の臭いだろうか。なぜかとにかく臭い、などと思っていたらご主人が何やらブツブツ。話しかけられたのかと思ったが、よく聞こえない時は無視するべしと決めている俺。しばらくしたら同じ声色が、「よんじゅう……」。角を曲がったところでまた、「ここもよんじゅう……」。

 ご指定のバス停のあたりに到着。「あとホテルに戻りますから、ちょっと待っててもらえますか?」。否やもなし。

 ご夫婦、ふたりして車を降りると、奥さんは我が視界の前方、バス停のあたりから車道上を見ているのか、向こう側のビルを見ているのか、やけにしっかりした目つきで空を睨む。旦那さんは車の後方に回り、ファインダーを空に向け、路上に向け、写真を撮っている。しかしフラッシュをビカビカ光らせながら撮っているその姿、どう見てもプロのカメラマンではない。

 十数枚も撮ったろうか、15分ほどで車に戻ってくる。

 「そのへんでUターンして反対側を50キロで走ってもらえますか?」

 意図が読めない。が、とりあえず、Uターン、「どのあたりの車線、走りましょうか」。「真ん中を」。

 少し走り、再びUターンすると旦那さんが聞いてくる。

 「あのタクシーはあそこで何してるの?」

 旦那さんが言ったのは客待ちしているタクシーたちのことだった。客待ち行為を説明し、

 「いつもならもっと並んでるんですけど、今日は日曜だから少ないですね」

 「12月は車、多かったんですか?」

 話が切り替わっている。路上の車の量のことらしい。

 「ええ、12月はギリギリまですごい多かったですね」

 「このぐらいの時間でも?」

 「ええ、一時ぐらいまでは、けっこう、多かったですね」

 「このぐらい(50キロ)だったら急に止まれますか?」

 また話は切り替わっている。

 「まあ、このぐらいだったら、ええ、止まれますけど、でもその時その時の道路状況で違ってきますけど……」

 「止まることはできますよね」

 きめつけた口調。

 「ええ、まあ、止まれます」

 よんじゅう、よんじゅうの呟きは交通標識の数字のことだったらしい。写真は「現場」の同時刻の路上の様子を撮っていたのだ。どなたが事故に?の質問を俺は喉の奥にどうにかこうにか飲み込んだ。