2005年12月某日、胸の奥にカサカサうごめくものを感じながらも俺は言った。
「年末年始用にラガー買ってもいいかな?」
妻が否などと言うはずもなかった。なぜこんな一言を言うために俺はいちいち胸の奥をカサカサ言わせてるんだろうと自らの小心に苛立った。
カサカサの原因はわかっていた。値段の差だ。2005年春あたりから買い始めたSuper Blueが一箱約2300円、それまで飲んでいたキリンラガービールが一箱約4200円。ほとんど倍なのだ。
「まともに稼いでから言うことだ」
言われるはずもない言葉、それが俺の胸の奥に重なっている。晩秋の舗道の落ち葉のように幾層にも重なりカサカサカサカサ、気がつくと音を鳴らしている。
この落ち葉の深さこそが俺と妻との距離なのだろう。無理して掃き清めようとも思わない。掃き清めないほうがいいのだ、とも思う。
大晦日の夜十時、湯がかれたそばの椀のそばにはキリンラガービールがあった。本当は麦酒の味がない、いわゆる発泡酒のほうが好みの妻と半分ずつ小さなグラスに注いだ。
大食いの気分でない時は小さなコップに注いで飲むのが好きだ。むかしラーメン屋に行くと必ずといっていいほど出てきた、ビール会社のマークやロゴの入ったコップ、あれなら尚いい。
5月後半に平泉方面へ「火怨&炎立つツアー」を決行した。その時旅館で飲んだビール以来のビールは舌に立った。発泡酒では得られない感覚だ。少なくとも俺にはそう感じる。立った感覚がやがて舌全体へゆったり豊かににじんでいく。
熱い季節に一気に飲み干すのは発泡酒でかまわない。でも好きなのはやっぱりビールだ。