まっすぐに見える曲がりくねった道 | 愛と平和の弾薬庫

愛と平和の弾薬庫

心に弾丸を。腹の底に地雷原を。
目には笑みを。
刺激より愛を。
平穏より平和を。
音源⇨ https://eggs.mu/artist/roughblue

 この道はなんだかまっすぐに見えるでしょう? でもあなたはすぐに気づくはずです。なんてくねくねだらだら、性懲りもなくはっきりしない曲がりくねり方の坂道なんだろう、と。
 それはもしかした道の脇に斜め向きの矢印の標識が立っているからかも知れない。なんだか妙だなと自分でそれとなく気づくのかも知れない。目をつぶっていて何かにぶつかってしまって、あなたはそのことにやっと気づくのかも知れない。
 とにかくこの道は思ったよりも案外狭くて、狭かったかと思うと急に開けて、かと思ったらヘアピンカーブに曲がっていて、なんて、そんなだらしない道なのです。
 でもあなたはそんなことをあんまり何とも思わずに歩いていく。すると、向こうから来た自転車にあなたはぶつかりそうになる。てめえこの野郎! とあなたは怒鳴るかも知れない。言ったつもりだけで、あなたは睨んで済ます人かも知れない。しかも睨んだつもりのその目が相手には泣いているようにしか見えない人かも知れない。そんな人だったりする。なんて最近の自転車のりはモラルに欠けるんだろう、あなたはそう思ってよけただけだったかも知れない。でも、それ、本当にモラルなのかな? あなたが道の真ん中を歩いてたんじゃないかな? そしてあなたはすぐ私の言うことを気にする。言葉にこそしないけれども、心の中であそこもそう言えば真ん中と言えば真ん中だ、とちょっと反省したりする。でもそんなのを認めちまったら負けだ。負けるもんかい! でも絶対こんなことは口にしない。顔はただ暖昧に笑う。
 ああいやだいやだ、こんなにやにや笑いは。今のオレはきっとすごくだらしない、いやらしい顔をしているんだろうな。ちくしょう、いつからオレはこんなににやけたツラの、卑しい目つきの人間になっちまったんだろう。
いや、でも、夕方になるとちょっとは引き締まった凛々しい顔つきになるぞ。今はまだお天とさんは東の空だ、オレはこんなにむくんだ顔をしちゃいるが、夕方になればこれはちょっとしぼむのだ。ちょっとしぼんで頬のこけたいい顔になるんだ。足なんかはむくみ切って靴もパンパンにきつくて早く家に帰って楽チンしたいんだけれどあなたはちょっとしぽんでマシになった顔を誰かに披露したくなって夜の街をうろつく。もちろん誰もまともに相手なんかしちゃくれないけどね。だってあなたは今や文無しだから。
 さてしかしあなたは、この道を降りていく。昇ってると思ってた? 今もまだ下り坂だよ。何言ってるんだいキミ、などと言ったところでここはまごうことなきだらだらくねりの下りです。自転車のモラルを心の中でだけ罵倒したり、だらだら恨んだりしながら降りていく。
 でもね、確かに近頃の白転車乗りはなってないよ、うん、本当にふざけてる。そう言われてキミは喜ぶ。ボクはそこでさらに言う。だってこないだなんかこっちが青なのに目の前をすうっと前だけを見て横切っていくんだぜ、ボクはクラクションすら鳴らせなかったよ、ひどいぜ、クラクションさえ鳴らせずにすうっと横切られた日にゃ、このぎょっとビックリとそのすぐあとに沸き上がってくる怒りを鎮める手段さえ奪われてるんだぜ。クラクションぐらい鳴らさせろよな。オレのクラクションを聞いてお前もびっくりしてから去れってんだよな。どっちかが零点何秒ずれてたらぶつけて殺してたんだぜ、やってらんねえよ!なってないどころか、ふざけてやがる!殺してやりてえぐらいだ!
 でもキミは、賛同者を得られて嬉しいかと言えばそうでもない。うるさい! 黙れ! お前の口調が気にくわない。カンに触る。一人で盛り上がりやがって! オレの言いたいことを全部持っていきやがった。チクショウ……もっとマシな隣人をくれ。このオレの知性や品格にマッチした「友達」をくれ! こんな奴と並んで歩くのは真っ平だ! 汚らわしい! やってらんない! 本当の、オレはどう思ってるかを察しながらしゃべれる、そしてこっちも少しは口を挟める、対等に話せる、そんな友達をくれ! バタバタバタバタまくし立てられてもなぜか許せてしまえる、そんな「友達」をくれ!