寺沢大介「将太の寿司(7)」 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

母の味の秘密

将太は懸命に玉子焼き作りにチャレンジするが、どうしても柔らかく焼き上げることができない。悩んだ将太は貴志の父に会いに行く。「関口君。お願いします。貴志にもう一度、母親の思い出の玉子焼きの味を味わせてください」「お父さん。何か、その玉子焼きを作るためのヒントをご存知ないですか」「玉子焼きを作ると、いつも手がかゆくて困るわ、そういって妻が苦笑いしながら手を洗っていたのを思い出します」

そのヒントで柔らかい玉子焼きを貴志のために作ることに成功する将太。涙する貴志。「お母さんの作った玉子焼きの寿司の味だ」ヤマイモがポイントだった、と種明かしをする将太。「鳳寿司の玉子焼きにも、ヤマイモが混ぜてあるんだ。佐治さんが隠していたからわからなかったんだ」

 

鯛の目きき

征五郎は自分の部屋に将太と佐治を呼ぶ。征五郎は佐治に新人寿司コンクールを知っているか、と聞く。「へい。組合の各店から一人ずつの新人職人を競わせる大会ですね。この大会で入賞すれば一人前の寿司職人として認められるとか」「そうだ。政も秀もこのコンクールに入賞した後、はじめてツケ場に立たせている」最初、佐治は新人寿司コンクールに出れるのか、と喜ぶが、なんでここに将太がいるのか、と不安になる。

言い放つ征五郎。「その新人寿司コンクールに今年はわが鳳寿司から、お前たちのどちらかを出そうと思ってな」魂消る佐治。「何で将太なんぞが一人前にコンクールに出られるんですか。こいつはシャリを炊いたり、玉子焼きを焼いたりがせいぜいだ。魚のことも握りのことも、これっぽちもわかっちゃいないんですぜ。俺は自分ひとりでこの5年間、毎日築地の魚の目ききを勉強してきたんだ。いったいオレの5年間の努力はなんだったんですか」

「落ち着け。佐治。勿論、このわしも将太がすぐにコンクールに出る腕を持っていると思えない。だから二ヵ月後、わしがお前たち二人を試験する。コンクールは三ヵ月後だ。仕込みから酢飯、お茶まですべて自分でする大変な競技試験だ。だから二ヵ月後、仕込みから握りまで、二人の技量を試す。その上で優れたものをコンクールに出す。それならば異存あるまい、佐治。それとも将太に負けるのが怖いかな」「異存ありません」「将太もいいな」「はい」「それでは明日、二人で政について、築地に行ってこい。握りのはじめの一歩。魚の仕入れの勉強から始めるんだ」「はい」

築地市場の広さに圧倒される将太。大政は仕込みで一番大事なのは魚の目ききだ、と断言する。「寿司の味の七割ぐらいまで、ネタの質が決めるという。いかに新鮮な美味しい魚を見つけだすか。その目ききが最も重要なんだ。ここは鯛の専門店だ。大小あわせて沢山の鯛がある。佐治に将太。お前らなら、この中のどの鯛を選ぶ」必死で鯛を見る将太。

「よく見ると、ここには2種類の鯛はある。色の浅黒い鯛ときれいな桜色をした鯛だ。この黒いほうは養殖だ。養殖の鯛は天然の鯛に比べ、味が落ちる。養殖の鯛は脂が多くて、臭いが強くて、狭いいけすの中で飼われているから、運動不足で身がゆるんでいるんだ。鯛は元々海の深いところに棲む魚で、本来の体色は桜色なんだ。でも養殖のいけすはとても浅いから、そこで飼われた鯛は日焼けして、体色が黒くなる。黒いのはダメだ。桜色の鯛を選ぶんだ」

次に重要なのは鮮度だと考える将太。「そうだ。活け締めの鯛だ。釣り上げてすぐ血抜きした魚は鮮度が長く保たれる。これを活け締めと言って、市場でも値が凄く高いんだ。あとは何だっけ。目だ。父ちゃんに聞いたことがあるぞ。新鮮な鯛は透明な目をして、その上に青紫色の斑文があるんだ」厳選して将太は桜色の鯛を選ぶが、佐治は黒い鯛を選ぶ。大政は佐治をほめる。「その鯛がこの店で一番の鯛だ」

納得がいかない将太に、大政は二人の選んだ鯛で寿司を握ってもらう。自分の選んだ鯛のほうがまずいことに気づく将太。「でも、なんで。僕の天然の鯛が、養殖の鯛に負けるなんて」バーカと嘲る佐治。「お前の鯛が養殖もので、オレの鯛が天然ものだ」「何ですって」「お前、いったい何を基準に鯛を選んだんだ。まさか、身体の色で天然と養殖を区別したんじゃないだろうな」「え」

「最近は養殖技術は発達している。鯛の身体の色なんていくらでも人工的につけられる」「あ」「鯛の天然養殖を区別する鍵は、身体の色じゃねえ。尾っぽなんだよ。お前の鯛とオレの鯛の尾っぽの違いをよーく見やがれ」「あ。僕の鯛の尾先は擦り切れている。佐治さんの尾先はあんなにきれいなのに」「養殖の鯛はいけすで飼われてるから、いけすの網に尾先が触れてこうなる。オレの鯛の体色をよく見てみろ。あれは養殖に日に焼けた黒さじゃないぜ。背中の黒光りする稀なる天然の鯛。こいつこそは鯛の中の鯛だ」「あ」

勝ち誇る佐治。「魚のイロハもわかんねえガキが一人前に職人面するんじゃねえ。貴様みたいな半端者はとっとと故郷へ逃げ帰ったほうが身のためだぜ」打ちひしがれる将太。(完敗だ)