寺沢大介「将太の寿司(6)」 | ロロモ文庫

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友情の酢飯

講談社の田中が鳳寿司に電話する。「今晩の予約の確認?特上寿司50人前?今晩10時?」シンコが間違って予約を受けてしまい、激怒する佐治。「あと2時間しかない。今日の魚はほとんど使い切ってしまった。うちの信用はムチャクチャだ」征五郎は50人前の寿司を届けると田中に約束する。「なじみの店にかたっぱしから電話を入れろ。いいネタをまわしてもらえ。政に秀に安はネタを集めて来い。雅子は50人前の器を用意して、配達の準備だ。慎吾と将太は酢飯を作れ」

シンコは佐治に土下座して酢飯の作り方を教えてくれ、と頼むが、佐治は冷たく断る。元気のないシンコを激励する将太であるが、シンコはますます落ち込む。「僕は何をやってもダメなんだ。僕の実家は山口の山の中の農家で、両親はもう年で、農作業は身体に辛い。兄ちゃんたちは出稼ぎに出て、家計の助けをしてるのに、僕一人がこうして東京に修業へ出してもらってるんだ。もし、ここをクビになったら、どうしたらいいかわからないよ」

将太はご飯は完璧に炊き上げる。「でも、あわせ酢は」「大丈夫。考えてたことがあるんだ」「え」「ヒントはあの白魚だ」将太はご飯の中に塩を入れる。酢飯を食べてその優しい甘味に驚くシンコ。「白魚を煮るときに、親方はほんの少し塩を加えた。この塩が隠し味になって、白魚本来の甘さを一層かきたてるんだ。甘さを加えるんじゃないんだ。塩のしょっぱさで、米の持っている甘味をより引き立てるんだよ」「そうか。スイカを食べる時、塩をかけると、確かに甘味が増すもんな」

なんとか鳳寿司は五十人前の寿司を作って、ピンチを逃れるのであった。

 

玉子の思い出

将太が鳳寿司に来て一ヶ月がたち、大政は将太に玉子焼きを作れ、と命令する。早速将太とシンコは玉子焼き作りにチャレンジする。「鳳寿司の玉子焼きはふわっと甘くて柔らかくて、まるで上出来のカステラみたいだって言われるんだ」将太は芝海老をすりつぶしえて、酒やミリンなどの調味料を合わせたワリをあわせ、卵を溶きいれて、焼き上げる。

しかし、シンコはダメだという。「何か固くて、ぼそぼそしている」玉子焼きを折り曲げて割ってしまうシンコ。「うちの玉子焼きだったら、フワッと軽く両側がついちゃう柔らかさだもの」「そうか。いったいどこが悪いんだろ」

盛況の鳳寿司に親子連れがやってくる。「よかったな。貴志。食べられるぞ」「うん。楽しみだな」子供用の寿司を一人前作ってくれ、と言われた佐治は、明らかにむっとする。(まったく貧乏人め。後ろで待ってる客の身になってみろ)周囲の冷たい視線を感じた貴志の父親は注文を取り消す。叫ぶ貴志。「だって、お寿司は。玉子焼き食べたいよ。玉子焼き食べたいよ」「いいから来なさい」

次の定休日に外出した将太は貴志とばったり会う。「貴志君は玉子焼きが好きなんだね」「鳳寿司の玉子焼きおいしかったもん。ずっと前にパパとママと食べたんだもん」「そうか。この間は、お母さんはいなかったね」「ママ、死んじゃったもん」「あ。ごめんよ」「本当はママの作る玉子焼きが一番おいしいんだ。昨日は僕の誕生日だったんだ。誕生日はママが玉子焼きを焼いてくれた。ふっくらやわらかくおいしい玉子焼きだった。でも、もうママはいないから、パパがあそこの寿司屋に連れていってくれたんだ。パパも一緒に食べようといったんだけれど、ママが長い間入院したから、借金がいっぱいあって、パパは食べれないって笑ってた」「……」

泣く貴志。「ママの玉子焼きが食べたい」感じ入る将太。(この子は僕と同じ境遇なんだ)「泣くなよ、男の子。まかせときな。お兄ちゃんが、君の誕生日、もう一度やり直してあげるよ」