極東の凶行
新宿警察署で報告を受ける韮沢。「失踪した堂坂さんが勤めていた千原精密印刷の業務内容は精密印刷を主として、証券、債権、商品券などを手がけています」「銭の臭いのする印刷会社に勤めている印刷物の責任者ってことか」「それと大手企業以外で外務省とも取引はありますね」「そうか」
千原精密印刷で水江人事部長と会う韮沢。「堂坂は真面目に勤めていただけに、私どもも困惑しています」「堂坂さんは印刷統括主任と聞いてますが、どんな印刷の管理を」「小社は精密印刷を取り扱っておりますので、具体的には申し上げにくいのですが、証券とかそれに近い分野です」「発注元の会社の名前くらい教えてよ」「小社にも守秘義務がありまして。申し訳ございません」「わかったよ」
堂坂の後輩の佐藤と会う韮沢。「真面目な堂坂さんがどうしちゃったんだと心配しているんです」「そうか」「実は外注の警備員も二日から連絡が取れないみたいです」「そうか」「困ったもんだな。三日後には成田に出荷だっていうのに」「成田？」「中身は言うわけにはいきません」「わかったよ」
大岬警備の川村と会う韮沢。「確かに三日前から千原精密印刷警備担当の上村が失踪している」「身を持ち崩す要因は？」「上村は出張ホステスの女に夢中になってたと聞いている」「上村の仕事は千原精密印刷で印刷された印刷物を成田に運ぶ時の警備担当だな」「ああ」「何だろうな。そんな厳重で運ぶ印刷物は」「その手の印刷物は情報管理が厳重だ。印刷所は何を印刷しているか外部には知らせない」「成田から発送するのは貨物便か、チャーター便か。どっちだ」「チャーター便だ」「あとで出張ホステスの女と店の名前を連絡してくれ」（二つの失踪は輸送にかかわる事件からみだな。海外に運ぶ銭の臭いのする印刷物とはなんだ。郵便切手。これは値打ち物の印刷物だ。大量の切手を狙う輩がいる、という線もある）
成田空港でチャーター便がアフリカ方面行きジャンボ機であることを突き止める韮沢。（こいつは予想外の展開だ。国際的な犯罪って線が出て来やがったぜ。アフリカ大陸に運ぶ大量の切手を狙おうっていうのか。いや、切手を大量に必要とする国とも思えないな。恐らく、別の印刷物だろうな）
アフリカで依頼を受けるゴルゴ１３。「我が国と隣国のワンダル共和国は資源問題で敵対しています。そのワンダル共和国にいる反乱分子のアフリカ解放のサイなるグループが亜革命を計画しているようなのです」「敵国の不利は自国に有利ではないのか」「ところがその反乱グループはイスラム革命を目論んでいるのです。もし革命が成功すれば、やっと国が治まっている我が国にも飛び火してしまいます」「……」
「敵国なれど、革命の芽をこちらの手で摘むしかない。極秘裏にアフリカ解放のサイの野望を打ち砕いていただきたい。確かな情報は持ち合わせていないが、リーダーはナジャブ、そしてなぜか日本に潜入していて行動を起こそうとしているらしいのです」「……」「こんなたよりのない情報でも依頼でも、あなたなら何とかしてくれると思っての依頼です。大至急、日本に飛んでいただき、彼等の企む計画を阻止していただきたい」
出張ホステスの凛子と会う韮沢。「私はスケベな中年男の仕事の内容を聞き出せって頼まれただけよ」「誰に頼まれたんだ」「サングラスをかけた肌の浅黒い黒人。上村から三回目の指名があった後、そいつがやって来て、５０万渡されて頼まれたのよ」「上村から聞き出した内容は？」「印刷会社から成田までの輸送の責任者だって自慢してたわ。でも運ぶ日取りや時間は聞き出せなかったわ」
そうかと呟く韮沢。（奴らの狙いは莫大な札束だったんだ。日本の一企業が外国の紙幣を印刷して海外に輸出している。奴らはその紙幣を狙っているのだ。そして印刷会社の社員と運搬担当者の警備員を拉致して、輸送日時とルートを聞き出したんだ。おそらく堂坂と上村は殺されている）
（他国の紙幣を印刷している国はイギリス、フランス、ドイツ、スイスなどが有名である。それらの国は主に過去に植民地とした国々の紙幣を印刷している。日本の精密印刷機と印刷技術は世界一とも言われている。その技術は海外でも高く評価され、極秘裏に何カ国もの紙幣印刷を受注し、国内で印刷して、海外へ輸出している）
ハイジャックされてヘンリー８世島に着陸するチャーター機。「長かったな。この計画に三年も費やした。ますこの島を買い取り、滑走路用の地盤整備から始まった。それから日本に渡り、千原精密印刷を調べつくして、やっと輸送の手掛かりをつかんだ。そしてこの大勝利を手にしたのだ」「あとは漁船やヨットに積み込めば、ワンダル共和国の新札を自在に使える。なんせ本物ですからね、ナジャブ同志」「この金で一気に大量の武器を調達し、その後、ワンダル共和国にこの新札をばらまけば、経済は完全に破綻する」セスナ機でヘンリー８世島上空から攻撃し、ナジャブたちを皆殺しにし、紙幣をすべて焼きつくすゴルゴ１３。
（イギリスなどは他国の紙幣印刷を公表し、厳重な警護態勢を取った上で輸出している。しかし日本では印刷事実を極秘にして輸出しており、一部の専門家からは経済テロへと発展する可能性を指摘されている）（２００７年５月）