さいとうたかを「ゴルゴ13(554)」 | ロロモ文庫

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ドナウ・ライン迷路

「署長。狙撃者は何の痕跡も残さず逃走しています」「一帯に非常線を張ったか」「はい。すべて手配済みです」「ウクライナはソ連時代から続く警察国家だ。警察の総力を上げて犯人を捕まえてやる」

(旧ソ連国内において第二位の面積を持ち、欧州の穀倉地帯と呼ばれたウクライナ・ソビエト社会主義共和国は、1991年8月独立宣言を行い、国名をウクライナに変更した。1991年12月の国民投票では90%以上の圧倒的多数が独立を支持。この独立を機に他のソ連構成国も次々と独立に走り、ソ連崩壊を早める契機となった。2004年、総選挙の混乱から政権内で保守派と対立し、西側寄りの政策を支持する一派がオレンジ革命と呼ぶ政変を起こす、ユーシチェンコが率いる新政府が圧勝し、親EU政権が発足した)

考えるコーソフ刑事。(殺された署長の大親友ラスクルはウクライナエネルギー省の大物だ。裏金をプールしているなどダーティな噂も多い男だ。エネルギー利権、石油、天然ガスへの影響を考えると、国内の利権争いや背後に絡むロシアの線もある)「署長、ここからだと黒海もすぐ近くです、それと5キロ先はドナウ川です、どちらも多くの船舶が行き来しているので、検問の必要があるか、と」「うむ」

(ドナウ川はヴォルガ川に次いでヨーロッパで二番目に長い国際河川である。源流はドイツ南部のシュヴァルツヴァルト(黒い森)から始まり、東欧各国を含む10もの国を流れて黒海に注ぐ、全長2850キロの長大な河川である、緩やかに流れる美しいドナウ川は「母なるドナウ」と呼ばれていて愛されている。ヨハンシュトラウスの「美しき青きドナウ」などでも有名である)

事件発生3日経ち、もはや犯人は国外に脱出したと判断し、シュヴァルツヴァルトで休暇中のスイス警察のジャヌー警部に連絡するコーソフ。「む、犯人はドナウ川を遡上して逃げる気だ。ドナウ川の水質は紅茶のような濁り水だ。狡猾なテロリストなら船縁に捕まって隠れたり、検問中だけ水中に潜るだろう。一般の船も多いが、特にドナウ川の上流には各国の石油施設が多く存在し、川船の石油タンカーが無数に航行してるからね。三日も経過していれば、ルーマニアはおろかハンガリーやセルビア・モンテネグロまで逃げてるな」「可能性があるならドナウ川上流の国々に調査を依頼します。どうか我々に捜査協力してください」

ゴルゴ13を猟犬のように追うジャヌー。「間違いなく奴が奪ったボートだ。ドナウ川とライン川の分流地点で姿を消したか」(全長1320キロの及ぶライン川は古代、ローマ軍がこの川を上がって遠征している。中世に入ると約800年に渡りライン川を中心に都市が発展し、重要な交易路になった。特にドイツでは「父なるライン」と呼ばれるほど大切な川であり、今も昔もヨーロッパの動脈である)

ドイツにいるルスクルの執事のタルコルスキーが狙われると推測するジャヌー。(ルスクルはウクライナ国内でガスの利権を一手に握り、大統領側近にも裏金を渡し、互いに利益を分かち合っていた。だが供給元のロシアはウクライナに露骨なガスの値上げを通告してウクライナを窮地に陥らせた。否応なくウクライナは西側寄りの政策からロシア寄りにシフトしはじめた。しかしそうなると大統領側近にとって裏金の秘密を握るルスクルの存在が邪魔になる。だがルスクルは執事のタルコルスキーに極秘情報を託した。身の安全のために自分に万一の事があれば公表しろと。だから同時に二人の殺害を大統領側近がゴルゴ3に依頼したんだ)ゴルゴ13はタルコルスキーを狙撃するのであった。

(ドイツから東欧を経て黒海に流れるドナウ川はドイツのシュヴァルツヴァルト(黒い森)を源流とする、その森の山に降る雨はたった100メートルを境にしてライン川に注がれる支流にも流れ、こちらは北海に流れ込む。さらにヨーロッパ全域において、中世からの権力者による立案の下、河川と結ばれる運河網を作り上げられた。現代に至っても石油を始めとする様々な物資の輸送、人の移動手段としても利用される、広大な河川、運河文化が連綿と続いている)(2006年6月)