作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(631)」 | ロロモ文庫

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スコッチウイスキーの真価(3)

アイラ島のラフロイグ醸造所を訪ねる山岡たち。「ラフロイグのマネージャーのへンダーソンだ。それではウイスキーの醸造工程を案内してやる。まずあれを見ろ。キルンと言って、ピートを燃やして麦芽を乾燥させるための建物だ。てっぺんに三角屋根がついているのは煙突だ。あのキルンはウイスキーの醸造所の象徴の一つだ。では中に入るぞ」

「これが原料の大麦だな」「こっちが出来上がったモルトだ」「モルトのほうは丸く膨らんで芽が出かかってるのがわかるな」「なぜモルトを作るんだ」「大麦からウイスキーを作るのに、大麦に含まれるでんぷんは、直接アルコール発酵させることができないから、まず糖に変えてやる必要がある。このモルトにはでんぷんを糖化する酵素であるジアスターゼが含まれていて、昔から日本では飴を作るのに使われてきた」「モルトは日本酒で言えばコウジのようなものだな。日本酒造りの場合も米のでんぷんを糖に変えるためにコウジを使う」「このモルト作りでウイスキーの性格が大きく決まる」「モルト作りも自分の所でしてこそ、本当のウイスキー作りと言える」

「大麦は水を吸わせてから床に広げておくと、8日から12日間で発芽してモルトになる。その間に一日に何度かすき返して、空気を一粒一粒の麦に触れさせてやる必要がある」「大変だな」「モルトをそのまま放っておくと、どんどん芽が伸びて、ただの麦の苗になるので、一番よい段階で成長を止めるために、ピートを燃やして、その熱で乾燥させる」「アイラ島には至る所にピートがある。ピートは湿地や浅い沼に枯れた植物が厚く堆積してある程度の化学分解が進んで、言わば石炭生成の第一段階にあるものだ」

「この窯でピートを燃やして、その煙で麦芽をいぶして、乾燥させる。その時にピートの煙の香りがモルトについて、独特の香りがつく。わが社は専用の採掘場から掘り出したピートを海風に当てて乾燥させるから、わが社のピートは海の香りを持っていて、それが製品のウィスキーに個性的な香りを与えるのだ」「そうか、ラフロイグの独特の香りは海の香りなんだ」「ピートがウィスキー作りにどんなに大事かよくわかったぜ」

「出来上がったモルトは粉砕して、仕込み槽に入れて、70度ほどの温水を加えると、8時間ほどで酵素の力ででんぷんが糖に変わる。それを発酵槽に入れ、イーストを加えてやると、アルコール発酵が始まる。発酵は2、3日で終わり、出来上がったものをウォッシュと言う」「モルトにイースト。ビールと同じだ。モルトウイスキーとビールは親戚なんだ」

「ここに並んでいるのは蒸留器ポットスティルだ。蒸留は2段階で行われる。第1段階の蒸留はウォッシュからアルコールを分離するのが目的なので、ウォッシュスティルと呼ばれ、出来上がったものはロウワインと呼ばれる。第2段階の蒸留はこのロウワインをポットスティルで蒸留し、ロウワウンスティルと呼ばれる。そして蒸留が終わって出来上がっウィスキーはこれだ」「無色透明だな」

「ウィスキーに色がつくのは樽の中で何年も熟成してからだ。蒸留の始めと終わりは質がよくないので、その部分は捨てる。その見極めは熟練した蒸留職人でないとできない。出来上がったウイスキーは樽につめて倉庫の中で熟成させる。あとは時間がウイスキーに魂を入れてくれるのを待つばかりだ」「ぬう。最後の仕上げは時間がしてくれるか」「酒は地酒と言うが本当だな。スコッチウイスキーは地酒だ。その土地の魂がこもっている」