雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(606)」 | ロロモ文庫

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真の国際化企画(後)

料理は問題ないと言う海原。「くだらないのは客のことを考えない、士郎、お前のその心構えだ」「ぬう」「今の料理は今日のこの客にはふさわしくない。このままでは世界新聞協会の国際文化交流委員会のメンバーに、日本人は自分のことしか考えない心の狭い国民であるという誤解を与えてしまう。食べ物で植えられた誤解は食べ物で解くのが一番。私は献立を作って、今日のメンバーにもう一度食事をしてもらおう。献立の内容は日本の郷土料理だ」「ぬうう」

前菜で鮭の卵を米の飯の上に乗せた北海道の料理であるイクラ丼を出す海原。「これはうまい」「同じ魚の卵でもキャビアより美味しい」「イクラはロシア語で魚の卵のこと。日本では古来、鮭の卵を塩漬けにして食べた。それを筋子という。イクラと比べてみろ」「む、筋子の方が色が濃いし、卵がバラバラでなくくっついている」「ぬ、筋子の方が味も濃厚だ。日本食の初心者向けでない」

説明する海原。「筋子は鮭の腹から取り出した卵を固まりのまま塩漬けにしたもので、そうすることで卵の外側の膜が粘り気を持って、一粒ずつ離れなくなる。一方、イクラは鮭の腹を裂いて、取り出した卵をすぐにほぐして塩水につけたものだ。なぜそれを我々日本人がわざわざロシア語でイクラと言うか。ロシアの名産にカスピ海のキャビアがある。キャビアはチョウザメの卵を塩漬けにしたものだが、イクラと同じように一粒ずつバラバラになっている。だからロシア人は鮭の卵を食べるのにキャビア風に一粒ずつバラバラの方を好むのが自然だ。だからロシアとつきあい始めた日本人がこちらの方をイクラと呼ぶようになったのだろう」「なるほど。イクラはロシア人にしてみれば鮭のキャビアなんだ」「面白い。日本の食文化にロシアの食文化が入り込んでいる」

前菜で関西や四国の料理である粉吹きイモを出す海原。「ジャガイモの皮をむき、少なめの水で煮る。イモは水がなくなった頃合いに醤油と砂糖で味をつけ、煮汁がなくなるまで煮る。そのままふたをした鍋をゆすって、イモを転がして粉を吹いたように仕上げる」「表面はぱさついた感じだけど、食べてみると味がよく染みている」「ポテト好きにはたまらないうまさだ」

説明する海原。「日本ではジャガタライモ、今は略してジャガイモという。ジャガタラは現在のインドネシアのジャカルタのこと。日本に16世紀末にジャカルタ経由で入ってきたから、そう呼ばれることになった。ジャガイモは南米アンデス地方原産で、16世紀に南米を侵略し、インカ帝国を滅ぼしたスペイン人によって世界中に広められたものだ。日本人にとっても今ではまくてはならない食品になったことは、この粉吹きイモの純然たる日本風の味付けが物語っている」「まったくだ。ここまで日本の味になっていることは、ポテトが日本人の生活に深く入り込んでいることの証拠だ」

主菜は博多名物の鶏の水炊きだと言う海原。「鶏を水から煮るだけの単純な料理だが、その分、鶏肉の良し悪しがはっきりと出るところが恐ろしい」「ああ、これは鶏のうまみを純粋に楽しめる」「鶏自体がすばらしい。この香り、この味、そして柔らかいしっかりした噛み心地」

説明する海原。「本来、博多の水炊きには博多の地鶏を使うが、今日は名古屋コーチンを使った。名古屋コーチンは明治時代に名古屋の旧藩士が名古屋の在来種と安政年間に日本に入ってきたコーチン種を掛け合わせ作ったものだ。コーチンとは今のベトナム南部のことだ。そのコーチン種の鶏は本来は中国北方原産の鶏だが、そのコーチンはアメリカにも輸入されてあの有名なロードアイランドレッド種を生み出した」「中国種と日本種の混血でこんなに素晴らしい鶏が出来たんですか?」「この鶏がロードアイランドレッドの親戚か」

満足する世界新聞協会の国際文化交流委員会のメンバー。「昨日の料理は日本を知るのに役だったけど、あのままでは私たちが日本を誤解するようになると言うことの意味もよくわかった」「日本は有効利用面積が15%しかないとか、日本の特殊性ばかり強調するから」「日本人は自分たちのことにしか目がいかないナルシズムの固まりの国民なのかと」「でも今日の料理で誤解の芽は消えた。世界中の食文化を見事に取り入れる日本人の柔軟さと包容力に感心した」

海原に聞く団。「日本全県味めぐりをして、究極のメニューと至高のメニューの対決の題材の件にする話を承諾するのか」「郷土料理は日本の貴重な文化だ。それを士郎のアホがヘタに扱ってぶち壊しにするのは許せん。だから題材にしてやる。そうすればクズ士郎は愚かなことをして、地方の食文化を壊すのを防ぐことができる」「山岡、どうだ」「ぬうう。うやるしかねえだろ」