作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(597)」 | ロロモ文庫

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ベトナムの卵(後)

ベトナムに行く山岡たち。「まずはおつまみ。カー・コムという魚の空揚げよ」「む、小さいけれど、味のある魚だ。ビールのつまみに最高だ」「このカー・コムはニョクマムの原料です。魚を発酵させると醤油のような美味しい調味料ができますが、ベトナムとタイはその魚醬文化の中心です。日本や中国では大豆で作る醤油が味の基本ですけど、ベトナムではニョクマムが味の基本なの」「なるほど」

「次はサイゴン春巻きよ」「む。中華の春巻きに比べると小さい」「中華の春巻きは小麦の粉で作った皮で巻きますが、ベトナムの春巻きは米の粉で作った皮で巻くの。食べ方も違って、ベトナムの場合はレタスでいろいろな香草を巻いて食べるのよ」「随分色んな種類の香草があるな」「ミントだけでも3種類ある。これはなんだ。ドクダミみたいだが」「冗談言うな、ドクダミなんか食べるわけないだろ」

「いいえ。それはドクダミよ。ベトナムの大事なハーブの一つだわ。好みのハーブをいろいろ乗せて、レタスを巻きます。それをニョクマムを水で割って、砂糖を加え、唐辛子を加えたソースにつけて食べるの」「む、肉はバリバリ、中身はこってり、そしていろいろな香草の香りに刺激され、眠っていた感覚が目覚めるようだ」「春巻きそれだけ食べたら、結構濃厚な味だが、香草と一緒にレタスで巻いて食べるからあっさり感じられる」「このタレも美味しい。ニョクマムに砂糖と唐辛子を入れるだけで、こんなにさっぱりしてしかも深みのある味が出るとは、やはりニョクマムの力はすごい」

「次は海鮮鍋よ」「む、ベトナムにも鍋料理があるのか。鍋の汁には味がついている」「ぬ、この酸っぱみは独特だ」「これはタマリンド。マメ科の植物の実です。鞘の中の実が熟すと、ねっとりして甘酸っぱい味になるわ。それをスープに入れて一分間ほどして柔らかくなったところで搾って取り出しすと、この酸味が得られるわ。ちなみにベトナムでは酸味を出すのに酢はほとんど使わず、このタマリンドを使うのよ」

「米酢やヴィネガー、それに柑橘類の汁とは違った酸味で、ふっくらと柔らかい感じがするな」「ダシは鶏で取り、タマリンドで酸味をつけ、ニョクマムで味をつけ、唐辛子油で辛みを添えたのがこの鍋の汁よ。海老、豚肉、イカ、お好みのものをいれて食べてね。今、鍋に入れたのは紫タマネギを薄切りにして、油で揚げたもの。風味付けのためのタマネギよ。お好みでハーブを一緒に」

「ぬ、ハーブを入れるとまた香りが華やかに立つ。この鍋に比べると日本の鍋料理は平板に感じられる」「香りと味の要素が圧倒的に多いな」「この小麦の麺にお鍋の汁をかけて食べると美味しいんですよ」「ぬう、鍋に入れた肉や海老の旨味が加わって、汁の味が数倍膨らむ」「参った。鍋は日本のものと思ったが」「まったくだ。今までいろいろな鍋料理を食べてきたが、ベトナムの鍋料理は味の玄妙さ、香りの鮮烈さで、鍋料理の中でもずば抜けて高い評価を与えるべきだ」「明日は市場に行って、ベトナム料理の食材をいろいろ見ていただきますわ」

市場に行く山岡たち。「ぬ。肉から野菜から果物からなんでもある」「豊かだな。メコンの恵みだ」「中国の広州の市場より新鮮な感じがする」「調味料もすごい。ニョクマムだけじゃない」「マムネムというのもあるわ。ペースト状になって鍋料理の味付けに使ったりするの」「魚醬に作る魚はカー・コムだけじゃないんだ」「この香草類はすごい。ミント、ディル、レモングラス、チャイブ、バジル。ハーブならなんでもある」「香りの洪水だ。このみかんはスダチみたいだ」「青みかんはその汁を料理にかけて食べますが2種類あるわ。皮の滑らかなのとでこぼこしてるのとそれぞれ微妙に香りが違うの」「その微妙な香りの差を大事にするんだ。これに比べると日本料理はハーブの類をわずかしか使わない」「では、夜のおやつを食べに行くわ。お待ちかねのホビロンよ」「ぬう」

ホビロンを食べる山岡。「ぬう、美味い。これは予期せぬ味だ。卵の味でもない、鳥肉の味でもない、コクがあるけどあっさりしている。カニの甲羅の内側にへばりついている薄皮の部分に似た味だ。この頭の部分はしゃくしゃくした歯ざわりで美味い」「ホビロンはベトナム人ならみんな大好きな夜のおやつで、私たちにとって貴重なタンパク源でもあるの」「団、ダグラス食え」「ぬうううう」「お前ら、他民族の文化を理解できない糞野郎だ」「ぬううううう」

無理してホビロンを食べる団とダグラス。「ぬう、美味しい」「ぬう、デリシャス」「偏見を抱かずに他民族の文化を楽しんだ方が人生豊かになる。ニュー、ありがとう。ベトナム人の文化の広さに近づけた」「ありがとう、団」「ダグラス、お前は生卵という日本の文化を味わうことができない文化の理解の範囲の狭い愚か者だ。お前と共同雑誌を作って、日本の文化を理解できるよう教育してやる」「わかったよ」