作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(591)」 | ロロモ文庫

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真心に応える食品

女房が売っていた黒酢は看板倒れだったと嘆く富井。「黒酢で本当にいいものは一年以上かけてじっくり熟成するが、女房が売っている黒酢はひと月くらいで作ってしまうものが判明した。健康のためにはそんな黒酢でも効果はあるかも知れないが、女房は伝統的な製法でじっくり熟成した黒酢だって言って売ってたんだ」「短期促成醸造の黒酢は法律はどれも違反していないが、食べ物にとっての本当の法律は形式的な法律でなく、真心という法律だが、それを忘れている食品関係者が多すぎる。副部長、米酢作りを見学するぞ」

米酢と黒酢の基本は同じだと言う山岡。「要するに米を発酵させて酒を造る。その酒を今度は酢酸発酵させると酢になる。鹿児島の黒酢作りは、米から酢になるまでの全行程を一つの壺の中で完了させるけど、普通の米酢作りと酢酸発酵とわけて行う。そこのところを頭に置いておけ」

飯尾醸造を見学する山岡たち。「米酢作りで肝心なのはまずよい麹を作ることだ。麴の菌糸が米の芯まで入るまで、45時間ほどかけて麹を作る。ここからは普通の酒造りと同じだ。麹、酵母、蒸し米、それに水を加えて酒母を作る。できた酒母に三段階に分けて、水、麹、蒸し米を加えて、アルコール発酵を進ませ、発酵が終わったところで、麹から作る甘酒を加える。そして次の日に酒粕と分けてできるのは、酒屋の言う新酒だ。その酒を我々酢の醸造元では酢もともろみと言う」「ぬう」

「いよいよ酢の醸造開始だ。タンクに酢もともろみと水、完成品の酢を種酢として加え、酢もともろみの栄養分を食べて活動している酢酸菌膜を仕込んだタンクの表面に浮かべる。すると三日後は表面全部が酢酸菌膜に覆われる。こうして3~4か月でアルコールが酢酸に変わり、さらに7か月寝かして濾過して出来上がりだ」「ここの作り方は酢酸菌膜のある表面だけで、じっくりと発酵を行うが、短期促成醸造は空気を吹き込んでタンク全体を発酵させるので早く仕上がる」「ぬ。こんな酢酸菌膜などないのか」

「情けないことにほとんどの日本酒は醸造用糖類、醸造用アルコールを混ぜたニセ酒だ。その酒から作る酢だったらどうなる。日本では1リットルの酢を作るのに40グラムの米を使っていれば米酢と表示していいが、米だけで酢を作るとしたら実際は120グラムの米がいる。だから市場に出回っている酢の多くは醸造用アルコールを使って作ったものだ」「ぬう。日本はどうしてそんなニセモノ作りを許すんだ」

「ここは全部純米酢だ。酒造りの場合、タンパク質が入ると味が悪くなるので精米度を高めるが、酢作りの場合、発酵するのに栄養分が必要なので、精米度を低めてタンパク質を残す。醸造用アルコールを使う場合、アルコール度が95%以上で栄養分がないから、カリウムとかマグネシウムとか酵母エキスとか、いろいろ使った発酵栄養分を混ぜてやるんだ」「人工の栄養分か?それじゃうまい酢ができるわけない」「米をたっぷり使って作った酢は浸透力がとても強い。だからほんの小さい穴が開いても、タンクがひび割れしてダメになる」「ぬうう。そんなに浸透力が強くて食品にもよく染み込むから、美味しくて殺菌力も強いのか」「こういうのが真心に応える食品だ」