作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(589)」 | ロロモ文庫

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美食俱楽部入門への道(後)

怒鳴る山岡。「雄山、この料理のどこが悪いんだ」「では聞くが、何故三品とも刺身にした。特にラムの場合、刺身で食べることは通常ないことだ。それをあえて刺身にするからには意味がなければあるまい」「それはラムの真価を示すためだ。日本人はラムとマトンを同じように臭いと思い込んでる。だから刺身にしても美味しいことを示した」「臭いのがラムにとって濡れ衣をと言うなら、肉の匂いが一番立つ方法で調理してこそ、濡れ衣がはれる。その料理法が刺身なのか」「ぬ」

「熱が匂いの成分を活性化するから、生の時より火を通した方が匂いが立つ、特に獣肉にその傾向が強い。だから濡れ衣をはらすための調理法として刺身は適当ではない」「ぬう」「鶏についてはその傾向がさらに甚だしい。結局、刺身は臭みのなさを積極的に強調して濡れ衣をはらす調理法ではない」「ぬうう」

「お前は天然のハマチのうまさに心を惹かれ、養殖物のせいでハマチに着せられた濡れ衣をはらすことを思いついた時、同じく濡れ衣を着せられているラムと鶏を一緒に並べることで効果を高めようと思った。それならラムも鶏もハマチと同様刺身にするのがしゃれていると考えた。それが物の本質を理解していない愚かなことだということは、今、説明したとおりだ。異存あるか」「ぬうううう」「この男を美食俱楽部に入れることができない理由がわかっただろう。士郎にそそのかされたとは言え、こんな料理を疑いもなく出すような男は美食俱楽部に必要ない」

最高のトリュフがフランスから到着したと山岡に言う大原。「どうだ。すばらしい香りだろう」「強烈な香りだ。とても官能的で魅惑的だ。身体の芯が反応する」「日本人でトリュフの真価を知っている者は滅多にいない。大抵の日本人の知ってるトリュフと言えば、フォアグラのテリーヌの中に入ってるものか、何かの料理の上に薄切りや細切りになって添えられているものだ。ところが日本のレストランで出て来るトリュフは保存が悪いのか、うまかったためしがない。パサパサガリガリして香りも味もないただの黒くて舌触りの悪い物体だ」「あんたの言う通りだ。大抵の日本人はどうしてフランス人がこんなものをありたがるのかわからない。ぬう、社主よ、トリュフの宴を開け。久山にこいつを料理させ、雄山野郎をぎゃふんと言わせるぜ」

トリュフの宴で最初は生のフォアグラのソテーだという山岡。「フォアグラ・フィレとトリュフの取り合わせはフランス料理の定番だが、さすがにトリュフが素晴らしいからひと味もふた味も違う」「こってりとこくのあるフォアグラの味をトリュフの香りが引き立てる」「雄山、どうだ」「本場のフランスに行けばもっと美味いものが食べられる。わざわざ日本で食べる価値はない」「ぬう」

次はトリュフの土瓶蒸しだと言う山岡。「おお、なんとも鮮烈な香りが」「この汁は野菜と鶏で取った汁だ。それにトリュフの香りが加わって実に高貴な風味にふくらんだ」「ニンジン、タマネギ、セロリ、マッシュルームを賽の目に切ったものに、鶏のささみの細切りを土瓶に入れ、お酒と鶏のダシを加え、そこにトリュフの薄切りを加えて蒸しあげた。雄山、どうだ」「次のを出せ」「ぬう」

トリュフの茶碗蒸しを出す山岡。「甘鯛とカブの茶碗蒸しトリュフ風味だ。甘鯛は香ばしさを出すために軽く炙る。それにカブの薄切りを合わせ、ダシを半分まで加え、小粒の賽の目切りにしたトリュフを加えて蒸す」「先ほどは全部大地の香り。今度は海と大地、両方の香り。そのいずれもがトリュフがさらに豊饒に仕上げている」「雄山、どうだ」「いまの土瓶蒸しと茶碗蒸し、あとひと工夫すればもっとうまくなる。どう工夫すれば知りたかったら美食俱楽部に来て教われ、とこれを作った料理人に言っておけ」「ああ、言ってやる」