愛の化石 | ロロモ文庫

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原田に電話する由紀。「あなたって酷い方。どうして碧川が日本に帰って来たと教えてくれなかったの」「日本は一日だけだったんだ。それに彼が君に会いたくないと言うんでね」「会いたくない?そんなはずはないわ」「彼はローマを離れてニューヨークへ行った。このことを君に知らせないでほしいと言った。由紀さん。これは彼の友人としての、そして企画部長としてのアドバイスだ。彼のことを忘れてほしい。くだらんゴシップでも流されるとうちの会社にとっても、君にとっても大きなマイナスになる」

ベトナムでの取材を終えて帰国したカメラマンの日比野は由紀のグラビア写真を頼まれる。「スターの7日間って企画か」私はスターなんかじゃないと日比野に言う由紀。「ただのテキスタイルデザイナー。それにあなたは報道カメラマン。どうして私なんかの写真を」「あなたを見て、やりたいと思った」「面白い方ね、日比谷さんって」条件があると日比野に言う由紀。「私生活には立ち入っていただきたくないの。仕事に私生活が入り込むなんて、私、とってもイヤなの。もし約束が守っていただけないなら、取材はお断りしますわ」

俺が知りたいのはなぜ由紀が有名になったかだと呟く日比野。(大学を出て、戸田啓介のスタジオに入って2年。そのあとパリで1年。そんな新人をいくらパリ仕込みだと言って、あの一流繊維メーカー、ロンシャンが専属にしたってのは変な話だ。彼女には男はいないのだろうか)

グラビアの出来上がりが楽しみと言う由紀に、こう仕事ばかりじゃしょうがないとぼやく日比野。「そしてプライバシーはNG。こんな調子じゃとても七日間じゃ撮れやしない」「でもそういうお約束ですもの」「一度パリ時代のお話をお伺いしたいんですが。それからローマでの話も」「ローマ?」「友人の記者にあなたがローマにいたと聞いたもので」「……」

あなたは雑誌のインタビューでロンシャンの原田部長とパリで初めて会ったと答えてましたねと由紀に聞く日比野。「誰かのご紹介で?」「いいえ。どうして?」「僕は戸田スタジオの戸田啓介氏あたりが紹介したんじゃないかと」「……」「今、戸田啓介氏はどうしてるんですか」「さあ。でも、そんなことが今度のお写真とどういう関係が?」「いや、別に」「あの方は今の私とは何の関係もない方ですわ。むしろあの方の下で学んだことを後悔してるくらいですから」「……」「私の過去に興味をお持ちなら、取材はお断りするわ」

輸出が最近落ちていると由紀に話す原田。「上の方ではパリのダルバンを使おうって話もあります」「そう。他にお話は」日比野には気をつけてくださいと由紀に言う原田。「なかなか一筋縄じゃいかんカメラマンらしい。プライバシーをね」「大丈夫よ。絶対に」「あなたはうちが育てたスターだ。あなたに傷がつくとシルクトップブランドのイメージが壊れる。それだけじゃない。万一、碧川の名前が出ると、うちと光龍商事との問題になる。光龍商事にはいろいろと世話になってるんでね」「ええ、わかってます」

「それからこれは君に言うべきではないかもしれないが、碧川がまた帰って来る」「碧川さんが」「ニューヨークは長くなる。亡くなった奥さんの骨を納めにね」「……」「由紀さん。ヤツに会って、君の気持ちをハッキリ言うんだ。でないと君も君の仕事もダメになる」ニューヨークから戻った碧川と会おうとするが、結局会えずじまいに終わる由紀。

常務の津久井からダルバンを使うことが役員会で決まったと言われる原田。「じゃあ彼女はどうなるんです」「なんとかせんといかんな。彼女にはうちやマスコミが作ったスターとしての人気がある。そいつだけは利用したいんでね」「しかし、いずれ事情を知る日がやってきます。そうなったら彼女は潔くやめると思います」「いや、潔くやめられちゃ困る。うちが追い出したように見えるからね」

もう一度彼女にチャンスをという原田に、君もやがてはロンシャンを背負う男だと言う津久井。「これだけは覚えておきたまえ。企業に私情を持ち込んではいかん」「……」「確かに君は光龍商事の碧川君から頼まれて、彼女をスターに育てあげた。うちはそれを利用した。しかし、今は碧川君の方から彼女から遠ざかろうとしている。状況は変わったんだ。最も君が彼女に厚意以上のものを持ったとなると、話は別だがね」「いえ、そのようなことは」「原田君、大衆は常に新しいスターを求めている。人情論じゃ企業戦争には勝てんよ」「僕はまだ彼女の才能を信じています」「企業にとって欲しいのは、彼女の才能じゃない。出来上がった製品だよ」

碧川に会いたいと原田に言う由紀。「教えてください。彼はどこにいるんです」「ダルバンに決まったよ」「……」「それを言いに来たんだ」「ロンシャンでは私はもう必要ないと仰るのね」「ロンシャンだけが君の才能を伸ばす場所じゃない」「あなたは優しいのね。でももういいの。ローマであなたと碧川さんと会った時、いつかこういう日が来ると思ったの」「由紀さん、碧川を忘れるんだ。そして大胆なデザインを描いていたパリ時代の君を思い出すんだ。君の中に碧川がいる限り、君はダメになる」「……」「ヤツは石だ。化石だよ。君はいつまでその石を抱えて生きているつもりだ」「その石を抱いてきたから、私は仕事ができたんだわ」「そうじゃない。君の中に豊かな才能がある」「もうやめて」

あなたはアフリカに行くそうねと日比野に聞く由紀。「私はローマで一人の男に会った。その男はECCの市場調査をしていた。私がパリに行ったのは愛を清算するためだった。相手は」「戸田啓介」「そう。22の時、大学を出てまもなくの私を戸田は自分のものにしてしまった。私は全てをパリに賭けた。有名になって戸田を見返してやりたかった。私は朝から晩まで、繊維と色の中で過ごしたわ。そんな中で私は一人の男を愛してしまった」「……」「二カ月たって、彼はローマからアフリカに飛んだ。そして私も。アフリカは私にとって哀しい苦しい思い出しかなかった」

君が愛した男は碧川と呟く日比野。「ロンシャンとは縁の深い光龍商事の部長だ。碧川は君をロンシャンの原田部長に預けた。それを知った津久井常務は君をテキスタイルデザイナーとして契約した」「……」「昨日までにわかった新聞社の調査だ」「碧川さんには奥さんがいたの。私が彼を追ってアフリカに行った時、奥さん、ローマの宿で自殺したの。私はアフリカの海で死のうと思った。だけど」「……」

辞表を出す由紀にパリに行かないかと聞く原田。「碧川は昨日の飛行機でニューヨークに帰ったよ。あなたによろしくって言ってた」「……」「僕はヤツは化石だと言った。だがヤツにも心があった。あなたをパリのサロンに紹介したいと」「心があるなら、なぜ私に会ってくれないんです」「あの男は二度と君の前には現れない。あいつはそういう男だ」「……」「由紀さん、思い出は自分で作るもの。そしてまた自分で捨てるものだ。また新しい思い出のために」「……」「パリに行くんだ。そのためにはどんな援助も惜しまない」

私はパリに行くかもしれないという由紀に、あなたはなぜ逃げるんですと聞く日比野。「逃げる?」「今のあなたの状態は大体のさっしがついている。あなたは戦いをやめて別の世界に去っていこうとしてるんだ。自分を傷つけないために。だけどスターの世界はもっと厳しい世界じゃないのかな」「……」「由紀さん、どうして闘う気にならないんだ」「あなたにはわからないことがあるのよ」

アフリカに行ったら、アフリカの海にこう言ってと日比野に頼む由紀。「アフリカの海で死のうとした女が、今では強い女になろうとしています。自分の足で歩く女になろうとしています」「アフリカに行こう」「え」「明るい太陽のもとで、君の考えがどんなに贅沢で甘ったれたものかをさらけ出すんだ」「……」「アフリカに行こう。今までのパリやローマを捨てるんだ」思い悩んだ由紀はアフリカにもパリにも行かず、自分の道を探す決意を固めるのであった。