顔 | ロロモ文庫

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大阪から東京行きの夜行列車は発車する。その列車の洗面台で言い争う男と女。「大阪まで来てどうして連絡しないんだ。神戸の俺の連絡場所は知っているはずだぜ。次の駅で降りるんだ」「お願いだから別れて」「なに」「私は若いんです。これからチャンスをつかむんです。あなたは私を精一杯利用したはずよ。ねえ。車掌を呼ぶわよ」「呼んでみな。俺と一緒に水原秋子という共犯者が捕まるだけだぜ」業を煮やして洗面所に顔を出し二人に注意する男。「おい、いい加減にしてくれよ。洗面所は貸切じゃないんだぜ」洗面所を出る男と女。もみ合ったあげく男は女に列車から突き落とされる。

大怪我をした男は病院に運ばれる。病院に赴いた長谷川老刑事は怪我した男は手配中の堕胎専門の無免許医師で多くの女性を殺した飯島であることを知る。マスコミは過失事故だ、と報道するが、長谷川はこれは過失事故ではないのではないか、と部長刑事の石渡に言う。「つまりこれは誰かが突き落としたというのかね」「飯島は東京行きの切符を持ってました。どうして手配されて危険な東京に行く気になったのかと気になりましてね」飯島は結局死ぬ。秋子は病院に花を贈る。花は女から贈られたと葬儀屋から聞く長谷川。「女か」

東京に戻った秋子はファッションショーにモデルの端役として出演する。トップモデルの三村容子の世話をかいがいしくする秋子。「先生。これでいいんでしょう」「秋子さん。あんた本当に気がつくわね」「嫌だわ、先生」容子は今度のファッションショーに秋子を出すようにパトロンの加倉井に話をしたと秋子に言う。秋子は恋人で野球選手の江波に電話する。「今日はレッスンがあるから、あなたのところに行けないわ」「……」

お好み焼き屋で、安酒場を経営する中年女の久子と会う秋子。「滋賀の地方版を見ると、どれも過失死になっているよ」「へっちゃらだよ、あげられたって。証人もいないし、あたしが突き落としたって証拠は何もないもの」「警視庁でも問題にしてないよ。安心していいね」「飯島のところにあたしが紹介した連中のことで足がつくことはないわね」「大丈夫だよ。まともに堕ろすことができない連中だからね」「そうね」「これであんたの邪魔をする奴はいなくなったわけだ」

久子に金を渡す秋子。「だけど金のために秋ちゃんとつきあっているわけじゃないんだよ。算盤勘定抜きの付き合いがあたしたちの仁義なんだからね」「わかってるわ。ねえ、あたしをモデルのスターにしようという男が現われたんだよ。このチャンスはものにしなくちゃね」「じゃあ、江波とは手を切るのね」「江波に目をつけたのは先物買いだったの。でもあの子は品行方正の堅物で、とてもあたしをスターに押し出してくれる男じゃなかったわ」「あんたは大したタマになったよ。うちの店にいるときと比べたら」「この次会う時はもっとびっくりさせてあげるわ」悠然と煙草をふかす秋子。

警察に列車の中で飯島と女がいるのを見たと石岡という男が名乗りを上げる。そのニュースをラジオで聞き愕然とする秋子。飯島は他殺である、と一斉に報道するマスコミ。石岡は毎朝新聞記者の前田にキャバレーに連れて行かれる。石岡はちゃくいやつだ、と長谷川と若手刑事の小島に言う前田。「ネタをくれっていうと、いくらだって聞かれるから、二万だ、と答えると三万だ、と言いやがった」「ほう」「その上面白いとこに案内しろってね」

長谷川と小島は石岡をキャバレーから連れ出す。そのキャバレーには秋子と久子が来ていた。「あの男に列車の中で顔を見られたのは間違いないのかい」「うん」「まずいやつが出てきやがったなあ。せっかく出世の糸口をつかんだのに」秋子は石岡に手紙を書く。「真犯人について私の疑っているある女の顔を見ていただきたのです。東京タワーの展望室で待っています。このことは警察に秘密にしていただきたいのです」秋子は展望室に現れた石岡を墜落死させようと考えていたが、石岡は展望室に現れなかった。

小島は石岡の身元を調べる。「石岡は九州の炭鉱で組合の委員長をやってました。非常に熱心で去年の争議では彼が中心になって会社に要求を通したそうです。そのために石岡一人がクビになったそうです」前田は石岡が手紙を買ってくれと来ていると上司の石渡に教える。秋子は加倉井と関係を持つ。加倉井は秋子のためにパーティーを開く。秋子は容子にいじめられているというデマを流す。

スターになったのよ、と久子に自慢する秋子。「アメリカやフランスに行くのよ。映画にも出るのよ」「想いがかなったんやねえ」「初めて東京の光を見たとき思ったの。私もこうなるんだと」「体はって賭けた博奕が当たったんやねえ。あんたは何百万って人に勝ったんや。みんなあんたに頭を下げるわ」「私の父さんは村で一番の貧乏だったのさ」「わたしだってそうだったよ」

石岡に送られた手紙に使われた紙はトレーシングペーパーで製図や洋裁によく使われる紙であることがわかる。「こいつの上に重ねてかいたらしい鉛筆の跡が残っていました。それをたどると女の絵になりました」「ファッションショーにでも出そうな女の絵じゃないか」

秋子はトップモデルにのしあがる。容子は秋子をいじめたことなどない、と秋子に食って掛かる。「それがあなたの手ね。そしてあたしからパトロンを巻き上げたのね」「……」まわりのモデルは秋子に同情する。「あの人落ち目だからヒステリーなのよ。秋子さん、可愛そうね、あなたおとなしいから」

小島は飯島が安酒場に出入りしていたことをつきとめる。「飯島は上等の洋酒専門で、そんなところに行くはずがないんです」久子の店に行った長谷川は、店にファッション雑誌が山積みされているのを見つける。刑事が来たことを久子から聞いた秋子は、江波に会いに行く。

「わたし今の仕事やめるの」「だって折角売り出したばっかりで」「あなたも野球やめてくださらない。そしてもっと地道に暮らしてほしいの。田舎に暮らしたい。誰にも見られずに静かに暮らしたい」「どうして急にそんなことを言いだすんだ」「先輩はなんとして私を突き落とそうとするし、スポンサーは嫌らしいことを言うし、わたしとっても怖くって」「君がそういうなら僕はかまわないわ」「私、きっといい奥さんになるわ」

長谷川と小島は石岡をモデルクラブに連れて行き、モデルの顔検分をさせる。秋子の顔をしげしげと見た石岡は、このモデルクラブにはいないと言い切る。江波のところに現れる石岡。「秋子さんはいないかね」「君は誰だ。押し売りか」「引っ越しか」「君は秋子に何の用があるんだ」「君はあの女のことをどれくらい知っているんだ。僕は君よりあの女のことをよっぽど知ってんだぞ」「……」江波のところにやってきた秋子の腕をとる石岡。「何するのよ」「昼間のお礼を言ったっていいはずだぜ」

秋子を安ホテルに連れ込む石岡。「俺はお前を見たときから欲が出てきた。人間の本能ってやつよ」「じゃあ、あたしの身体が欲しいの。それともお金なの。石岡さん、どうお礼したらいいの。今日はありがたかったわ。ねえ、お礼したいの」ベッドに身を投げ出す秋子を見て、ニヒルに笑う石岡。「俺はお前がもうちょっとましなやつかと思ってた。男につきまとわれて逃げ切れない純情な女の犯罪だと思っていたが、どうだ。お前が素直な女なら俺はどこまでもかばってやるつもりだったんだ」「……」

「とうとう本性を出しやがったな。俺はいつも割り喰うほうばかり回されてきたんだ。争議で先頭たってみんなの給料あげてやったら、俺一人だけクビさ。東京に出てくりゃ田舎者だと馬鹿にされる。へへ、俺は面白くなってきたぜ」旅館から飛び出す石岡。ナイフを持って後を追う秋子。しかし石岡はトラックにはねられて即死する。

安堵した秋子は江波のところに行くが、江波は石岡が来たと秋子に言う。「君は僕に出鱈目ばかり言った」「私はあなたの奥さんになりたいの。私を一人にしないで。私は一人で東京に出てきたの。飲み屋で働いていたころは何も知らない子供だったの。世間並に食べることしか考えてなかったの。その時飯島が」

「君は堕胎を手伝った」「いけないこととわかって怖くなったんです」「君は飯島と暮らしていたんだな」「去年の暮までよ。ファッションモデルになるめどがついたんで別れたんです」「可哀相に。飯島を踏み台にしたわけだ。もっといいものが食べたくなったんだ。今度は俺の番だったんだな」秋子は久子に電話する。「秋ちゃん、ここに来てはダメだよ。刑事がいる」久子を拘束する小島。「秋ちゃんって言ったな」「助けてやってくれよ。あの子は可哀相な子なんだよ」

秋子はタクシーに乗る。「気分でも悪いんですか」「……」「水原秋子さんでしょう。このごとよく雑誌に出てるじゃないですか。女房に言わせるとあんたの顔は親しみがもてるそうですよ。一度見たら決して忘れない顔なんですって」「止めて」タクシーを降り、夜の東京をさまよう秋子。小島にしみじみ語る長谷川。「東京には色のついた灯が多すぎるよ。色のあるほうに値打ちがあると思ったのかな。石岡も水原秋子も飯塚もみな東京の色のある灯に賭けたのさ。命がけでね」