作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(537)」 | ロロモ文庫

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水対決(2)

水なんか対決の材料になるのかと疑問を呈する大原と小泉。「名水を探してきて、その水の飲み比べしようと言うのか」「そんなことをしてどうする。水は料理じゃない」「水道の水のひどさを痛感した。水道の水は病原菌の問題を考えれば安全でも、そのままではまずくて飲めない」「む。水道の水はほとんどの家庭でそのまま飲んでる。蛇口に浄水器をつけるのは少数派だ」「世界中で水道の水を安心して飲める国はどれだけある。日本でもミネラルウォーターを買う人間は増えてるが、外国人の真似をするのが格好いいと思って買ってるんだ」

「局長、あんたは水道の水で満足してるのか」「大多数の人間が満足してるからな」「それが問題だ。大多数の人間が水道の水のまずさに鈍感なことを。局長、あんたはワインの味で能書きを垂れるのに、水道の水で満足するのは変だろ」「むう」「水道の水のまずさに鈍感なことが問題なのか」「当り前だ。まずいと感じることは自分の体を守ることだ。自分の命を守ることができる。水は命のもとだ」「ぐむ」

「東京の水道の水はまずい。そんな水で料理をして美味しいまずいと言っても、基本から間違っている」「ぬ。お前は水道の水がまずいと言う。じゃあ水道局はまずい水を作ってるのか」「俺は水道局に文句を言ってない。水源地の水はそのままじゃ飲めたものじゃない。そんな水を衛生的に問題のない水道の水にする水道局に敬意を表す。水道局は美味しい水を作りたいが、今の日本の環境がそれを不可能にしている」「では、今の水道の水がどんな状況になるのか調べろ。そして水道の水を美味しくなる答えを見つけろ」「ぬ」

横浜国大環境安全工学研究所の浦野教授と会う山岡。「俺は水道の水のまずさにうんざりしてるが、その水自体の中身はよくわからん」「お前は日本は水が豊かな国だと思うか」「当り前だろ」「バカ、日本は決して水が豊かではない。日本の降雨量はサウジアラビアの4分の1だ」「バカ言え、サウジアラビアは砂漠だらけだ」「バカ、常識の罠にはまりすぎだ。サウジアラビアは総雨量は日本より少ないが、人口が少ないから一人当たりの雨量は多くなる。一人当たりでいえば日本は雨量は世界平均の5分の1だ」「ぬう」

「しかも降った雨のうち流れていくのが3分の1,蒸発して大気中に戻るのは3分の1,川、湖、沼、地下水として残るのが3分の1。日本は豊かでないから大都市圏は夏になると給水制限などの騒ぎが起こる。水道の水の味を考える前に日本は水が豊かな国でないことを念頭に置け」「わかった」

「本題の水の味の問題に移る。どんなふうにまずいと感じる?」「一番顕著なのはカルキ臭さだ」「消毒用塩素だな。日本の場合、水を浄水場から非常の遠距離まで運ばないとならない。その間に伝染病などの病原菌による汚染を防ぐ必要があるが、蛇口で塩素が残っていないと日本では法律違反だから、塩素の添加量が増える」「なるほど」

「まずい原因は他にもある。ダムなど水の溜まっているところには藻が生えるが、藻は増殖するのに窒素やリンが必要だ。そこに家庭などからの排水が投げれこむと、その汚水には窒素やリンが入ってるから、藻はどんどん増殖する。中でもアオコという緑色の海苔みたいな藻が異常に繁殖することがある。そのアオコの出すかび臭さはひどいもので、水道の水を大変まずくする。さらに泥臭さとどぶ臭さとか、そういう臭みも引っかかって来る」「なるほど」

「次は浄水場の話だ。浄水場は基本的に水源がきれいであるという前提で作られている。だから川でも上流のほうの水を使う。それでも雨が降ると川は濁り、土砂とか藻なども入る。そういう濁りは沈殿させて濾過して消毒する。取り入れた水の砂などを沈殿させ、塩素を加えて鉄やマンガンを沈殿させ、アンモニアを反応させる。これを前塩素処理という。次の明礬を加えて、粘土や藻などの浮遊物質を沈殿させる。これを凝集沈殿処理という。さらに砂で残りの濁りを濾過する。これを急速濾過処理という。最後に再び塩素を加える。これを後塩素処理という。これで処理終わり」「複雑なようだが、濁りを取って塩素を入れるだけだな」

「昔はそれでよかった。水質もよかったし水の使用量が少なかった。ところが水の使用量が増えて、汚い水も使うようになると濁り分を取って消毒するだけの処理だけでは対応できないから、活性炭を使う。これを高度処理とも言う」「とにかく塩素で消毒すれば健康に心配ないのか」「違う。消毒のための塩素が健康を害するもとになっている」「ぬ」