男はつらいよ 寅次郎かもめ歌 | ロロモ文庫

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北海道江差で商売をする車寅次郎は、テキヤ仲間から常吉が腸閉塞で死んだことを聞き、常吉の墓参りに奥尻島に渡り、スルメイカの加工工場で働く常吉の娘のすみれと会う。「あんた、おとっつあんにそっくりだ」「……」「俺は車寅次郎と言って、あんたのおとっつあんの友だちよ。このたびはとんだことで。俺は何も知らなくて、江差でそのことを聞いてびっくりで。本来なら葬式にも来なくちゃいけなかったんだが、せめて墓の前に線香の一本でも上げたいと思ってやってきたんだ」

すみれと常吉の墓参りをする寅次郎は、常吉はバクチ好きで大酒のみだったと言う。「あんたにとってロクな親父じゃなかったから、恨みに思うのは当たり前だけど、あいつはいつもお前のことを自慢してたよ」「……」「すみれは別嬪だ。俺には出来過ぎた娘だ。どんなことがあったって、あいつはテキヤのカカアにはしねえ。大学生で真面目なサラリーマンの嫁にするんだ。酒飲んで酔っ払うとそう言ってたよ」

寅次郎の泊まっているホテルを尋ねるすみれ。「わざわざ遠くから来てもらって、ありがとうございました」「そうかい。礼を言いに来たのかい」「明日、帰るんですか」「うん。ここにいても商売にならないしな」

この島にずっといたのかと聞かれ、函館で働いていたと言うすみれ。「お土産物屋とか、喫茶店とか」「そうか。函館にいたんじゃ、この島の暮らしはちょっと寂しいな」「おじさんは東京ですか」「そうよ」「私も東京に行きたいの」「東京で働きたいのか」「うん。働きながら学校に行きたいの」「学校?」

私は高校中退と言うすみれ。「だから就職の時もハンディがあるの。だから東京の定時制高校に行きたいなと思って」「お前、そんなこと考えてたのか。あの極道者の常の娘がなあ」帰ろうとするすみれに東京に来たらここを尋ねろと言う寅次郎。「俺のうちだから」「東京。これ何て読むの」「それは葛飾だ」「葛飾。柴又。てい」「帝釈天だ」

すみれを連れて、とらやに戻る寅次郎を迎える妹のさくらとさくらの夫の博と叔父の竜造と叔母のつね。「どうしたの、あの娘さん」「あれか。まあ、これにはいろいろと深い事情があってね。どうだろう。あの娘をしばらく面倒みちゃくれないか」

事情を話す寅次郎。「何しろ親父は極道者でね。あの娘はアルバイトしながら学校に行ったんだ。どうしたって勉強する時間が少なくなるだろう。だから授業についていけなくなるんだよ。その辺の気持ちは俺にはよくわかるんだよ」「そういや、寅も中学三年で中退だったからな」「この人は校長先生の頭をぶん殴って退学になったんだから」「俺のことを言うことはないじゃないか、おばちゃん」

おふくろはどうなってると聞く竜造に、生き別れだと答える寅次郎。「あの子が小さい時、うちを出ちゃったんですって」「じゃあ、ずっとお父さんと二人暮らしですか」「いや、あいつも女嫌いじゃないからね。時々、くだらない女を引きずり込んで、酒でも飲んで、蹴っ飛ばしたりする修羅場を、あの子はじっと見ながら育ったんじゃないのかなあ」「なるほどなあ」「可哀想にねえ」

これからあの子をどうするんですかと聞く博に、なんとか夜学に通わせたいと答える寅次郎。「博よ。さくらよ。なんとか頼むよ。俺は学校の方は手も足も出ないからね」恋愛の方ならまかしておけだがと笑う社長に、俺はあの娘の父親代わりのつもりなんだと怒る寅次郎。「ヘタな勘ぐりはやめてくれよ」「悪かった」「てめえのそういうのをゲスの勘繰りって言うんだよ」

高校に入学申込に行ったすみれはやっぱり入学試験があるとさくらに話す。「私、自信なくて」「でも簡単なんでしょう」「どうしよう」「大丈夫よ」社長の口利きで、コンビニで働くことが決まるすみれ。高校の方は願書を出したと寅次郎に言うさくら。「でも編入試験があるの。それに合格して、初めて入学が決まるの」

試験があるならダメだと嘆く寅次郎。「中学もろくすっぽ行ってないんだよ。葛飾柴又帝釈天って字が読めないんだから。俺だって読めるよ」二階から降りて来たすみれを見て、動揺する寅次郎。「すみれちゃん。ここにいたのか」「人の恥、さらすことないでしょう。バカ」

まだ五日あると言う博。「これから勉強すれば大丈夫だよ。なあ、すみれちゃん」無言で二階に行くすみれ。ますます動揺する寅次郎。「博。お前、勉強教えろよ。さくら、お前、英語くらいできるだろう。おばちゃんは入学できるように帝釈天に行って、お百度参りだ。みんなでできることをやるんだよ。そうだ。俺は社長に裏口入学、相談してこよう」

入学試験の日、すみれに付きそうと言う寅次郎。「一時間くらい早く行って、落ち着いた気分になるんだよ。それから今日一日は落ちるとか滑るとか、この手の言葉は一切口にするな」願書はバッグにしまっとけとすみれに言う寅次郎。「そういうのは落っことすといけないから」「あ」「あ。落とすなんて自分で言っちゃったよ。注意してるとどうしても口が滑っちゃうんだな」「あ」「あ。全部言っちゃったよ。社長」

机に向かったら深呼吸だとすみれに言う博。「それからできる問題からやる。いいね」「はい。じゃあ、寅さん」「よし。行こう」もう行くのかと言うつね。「これお守り」「どうもありがとう」いろいろすいませんと感謝するすみれ。「じゃあ、行ってきます」「自信を持ってやるのよ」「ありがとう。じゃあ行ってくるぜ」高校に向かう寅次郎とすみれを見送るさくらたち。やれやれと呟くつね。「これじゃあ、どっちが試験を受けるかわからないよ」

試験を受けるのをやめようかなと寅次郎に言うすみれ。「え」「だって、どうせダメだもん」「今頃、そんなこと言ってどうすんだよ。博だって一生懸命、勉強教えてくれたんだろう」「私、ダメなの。だって中学二年の教科書もできないんだから」「すみれ。お前、それでいいのか。本当にそれでいいのか。あの娘の親父は大酒のみでバクチ好きだ。親父がロクでなしだから、娘もボンクラで、夜間の学校にも入れやしねえ。お前、そうやって後ろ指さされて、平気か」「ううん」「だろう」

すみれは試験に落ちたかと不安になるが、合格して大喜びする。「寅さん。受かった」「よかったな」「寅さん。ありがとう。本当にありがとう」「よかった。よかった」合格祝いに一同に江差追分を披露するすみれ。

すみれのことが心配になった寅次郎は、定時制高校の授業を一緒にすみれと受けるようになり、生徒たちの人気者になる。「あ、先生が来た。じゃあ、俺は帰るよ」「寅さん。たまには英語の授業を受けませんか」「ああ。英語はいいよ。俺、アメリカに用はねえから」

すみれを呼び出す貞夫。「手紙書いても返事来ないから。奥尻まで行ったんだぞ」「二度と会いたくねえ。そう言ったのはあんたの方でしょう」「酒飲んでたから覚えてないんだ」「そんなこと言って誤魔化すの。あんた」「お前、好きな男、できたんでねえか」「そんな言い方大嫌いだよ」

俺のこと嫌いかと聞く貞夫。「嫌いなら嫌いとはっきり言え。俺、このまま函館に帰るから」「……」「すみれ。一緒に暮らしてくれ。お願いだから」「私だってね、心からあんたが嫌いになったんじゃないんだよ」「すみれ」

もう8時かと呟く寅次郎。「すみれの奴、今頃まで何してるんだろう」「ねえ。そこで心配しててもしょうがないから。晩ご飯でも食べたら」「飯なんか食ってられるか。バカ」直接学校に行ったんじゃないだろうなと言う博に、学校に電話したけどいないと答えるさくら。いてもたってもいられないと怒鳴って、学校に行く寅次郎。

朝になって、とらやに戻るすみれ。「心配してたんだぞ。すみれちゃん」「すいません」「あら。いったいどこに行ってたのよ。寅ちゃんが心配して、とうとう夜明かしだったんだよ。電話すりゃいいのに」

寅次郎にごめんなさいと謝るすみれ。「電話しよう、電話しようと何度も思ってたんだけど」「誰かと一緒だったのか」「函館にいた時の友だちでね。大工してる人」「男か」「寅さんにも会ってほしかったんだけど、どうしても仕事があるから、今朝の汽車で帰ってしまったの」「それじゃあ一晩、その男と一緒にいたんだな」「だって、私、その人と結婚するの」「結婚」

旅支度をする寅次郎に、すみれちゃんの話をちゃんと聞いてあげたのと聞くさくら。「俺は、あの娘が男と泊まり歩くふしだらな女だとは思わなかったんだよ」「そんなこと言ったって。あの子、子供じゃないのよ。もう一人前の大人なのよ」「そいつが女たらしだったら、どうするんだ。すみれは騙されてるんじゃないか」「それは、すみれちゃんを信じてあげるしかないの。あの子が自分の判断でしたことだから、きっと間違ってない、と。そう思ってあげるしかないのよ」

難しいことは俺にはわからないと言う寅次郎。「いいよ。すみれのことはお前たちに任せる。その代り、その男が本当に真面目な男かどうか。すみれと所帯を持って地道に暮らしていける男かどうか。お前、ちゃんと確かめろよ」「それだったら、お兄ちゃんの眼で確かめればいいじゃない」「俺が会ったら何するかわからねえよ」

旅に出ると言う寅次郎に抱きつくすみれ。「寅さん。怒らないで」「怒らない。大丈夫。幸せになれるんだろうな、おまえ」「うん。きっとなる」「もしならなかったら、俺は承知しねえぞ。いいな」「寅さん」

すみれ君が結婚するのは自由ですとさくらに言う教師の林。「この学校で生徒同士で夫婦になるのは何組かおりますよ。ただそういう場合に、私たちがいつも言うのは結婚しても、学校は辞めるなと言うことです。まあ、そのうち、私の方からすみれ君に話をよく聞いてみましょう」「よろしくお願いします」

丁度よかったと言う林。「この間、寅さん、いや、車さんがこれを提出なさったんです」「入学願書」「私どもの学校が気に入ったから、正式に入学したいと言うご希望なんですが、実は車さんは中学三年中退なんです。と言うことは高校受験の資格はないわけで、大変お気の毒ですが、認定試験を受けるか、或いは夜間中学に入るか、それしか方法はないんですけどね」「……」「車さんにそうお伝え願いますか」「はい。ちょっと旅に出ておりますけど、帰ったらそう伝えます」

正月になり、とらやに現れる貞夫。あの男なら大丈夫だと竜造に言う社長。「自信たっぷりだな」「こう見えても経営者の端くれだ。人を見る目はあるよ」あなたは大きいわねと言うさくらに頭は空っぽですと答える貞夫。三月に結婚式をあげると言うすみれによかったと喜ぶさくら。「それで学校続けるんでしょう?」「勿論。この人にも一緒にと勧めてるの」三月かと呟く博。「兄さん、出られるといいけどな」「そうね」

大丈夫かしらと心配するすみれ。「どうして」「だって、寅さん。私のこと、怒ってるんでしょう」「大丈夫よ。この人を見たら安心するわよ。ねえ、おいちゃん」「そうそう。寅の気に入るタイプだよ」「まあ、いっぱいやろう。貞夫君」そのころ寅次郎は徳島で鳴門の渦潮を見つめていたのであった。