男はつらいよ ハイビスカスの花 | ロロモ文庫

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葛飾柴又の団子屋「とらや」に旅から戻ってきた寅次郎は、沖縄にいるリリーから病気で入院して、死ぬ前にもう一度寅さんに会いたいという速達が届いてるのを知って、慌てて沖縄に行く。「リリー」「寅さん」「お前は昔と少しも変わらねえ。安心したよ」「寅さん。来てくれたのね」「ああ。俺はお前の手紙を見て、すぐに飛んできたよ。遠いから時間がかかったけど、許してくれ」「嬉しい」「一人ぼっちで寂しかったんだな。俺がついてるから、もう大丈夫だ。泣くんじゃないよ、みっともないから」

さくらに手紙を書く寅次郎。<無事沖縄について暮らしているから安心しろ。リリーのことだけどな、俺、本当に来てやって良かったよ。看護婦の言うことじゃ、俺が来るまで医者の言うことは何も聞かないわがままな病人らしかったけど、すっかり素直になって、この分じゃもう大丈夫と医者も太鼓判を押してくれたよ。雨の日も風の日も、俺は病院に行って、あいつを慰めているよ。近頃はよく笑うようになってなあ。顔色もよくなったし、段々昔のリリーに戻ってきたよ。ま、そういうことで俺はこっちで当分滞在するが、元気でいるから心配するな。博やおいちゃんやおばちゃんにくれぐれもよろしく言ってくれ>

リリーからの手紙を読むさくら。<とらやの皆さん。このたびは本当にご心配をかけました。おかげで、私、退院したんです。一時はもうやけくそになって、死ぬ覚悟までしたんですけど、今はあの頃のことが夢のようです。寅さんが本部の町の海岸に部屋を借りてくれて、そこで暮らしています。空気がよくて水がキレイでとてもいいところです。毎日、新鮮なお魚を食べて元気になってます。皆さん、本当にありがとうございました。それじゃお元気で。さようなら」

よかったと話し合うさくらたち。「寅が出かけて行った甲斐があったな」「ねえ、さくらさん。寅さんはどうなってるの」「帰って来るんじゃないかい。リリーさんがよくなったんだから」「あら、もう一枚あったわ。追伸、寅さんからくれぐれもよろしくとのことです。今夜は泡盛を飲み過ぎて、私のそばでひっくり返っています」「そばに寝てるってことは、ひょっとして同棲している」「そういう心配は後回しにしましょう、社長」

登美子ちゃんに聞かれたと寅次郎に言うリリー。「私と寅さんは夫婦かって聞くの」「それで、お前、なんて言ったの?」「まだ式はあげてないって答えた」「そういう物の言い方は、誤解を招くんじゃないの」「寅さん、あんた今までに所帯持ったことある?」「そういう過去は触れない方がいいんじゃないの」「あたしはあるよ」「知ってるよ」「寅さんはどうなの?」「いいじゃないの、そんなこと」「白状したっていいだろ」「つまりな、こっちがいいなと思っても、向こうがいいなと思わなかったり。つまり、いつもフラれっぱなしってことさ。そんなことまで言わせるのか、バカ」「……」「さあ、もう寝よう」

今日は病院に行ったと寅次郎に言うリリー。「だいぶよくなってるって」「そりゃよかった」「だから明日から働くことにした」「働くって何するんだい」「決まってるじゃない。歌を歌うのよ。他に何も出来ることないもん」「バカだね、お前。そしたら元も子もなくなっちゃうぞ。歌を歌うといっても、酔っぱらったアメリカ兵の前で歌うんだろ。よせよせ。お前は花でもながめてぶらぶらしてりゃいいんだよ」「もうお金ないの。どうやって食べて行くの」「俺がなんとかしてやるよ」「イヤだね」「どうして」

「男に食わしてもらうなんて、まっぴら」「水臭いこと言うな。俺とお前の仲じゃないか」「夫婦じゃないだろ」「……」「あんたとあたしが夫婦だったら別よ。でも違うだろ」「バカだな、お前。お互い、所帯なんて持つ柄かよ。真面目な顔で変なこと言うなよ」「あんた、女の気持ちがわかんないのね」「な、なんだよ」「ねえ。あたしのために来てくれやんじゃなかったの。こんな遠くまで」「……」翌朝、お世話になったと書き置きを残して、去って行くリリー。

とらやに戻ってきた寅次郎にリリーとはどうなったと聞くさくらたち。「いや、それがリリーに置いてきぼりにされて」「それはどうしてなんですか」「さあ、知らない」「それはいつのこと?」「10日前くらいのことかな」「それまではリリーさんと一緒に暮らしてたの」「そりゃ一緒だよ」「……」「なんだい。勘違いするなよ、一緒と言ったって、リリーはこっちの離れの部屋って一人で寝てたし、俺はそっちの母屋の部屋で寝てたんだ」「……」「ほんとだぞ、これは」

「それで、10日前にリリーさんと何かあったんでしょう」「俺はいつもの通り、仕事を終えて夕方帰るだろ。あいつが明日から仕事に出ると言うから、俺が生活費は面倒みるから、ぶらぶら遊んでろと言ったんだ」「粋なことを言うねえ」「社長、そうだろう。俺だって男の端くれよ」「そしたらリリーさんは何て言ったの」「確かこう言ったな。男の世話になるのはまっぴらよ」「リリーさんらしい言い方です」「その後ね、ただし、あなたと夫婦になるなら別よ。色っぽい目つきだったなあ」

「どうしたの。そんなこと言われて」「そりゃ、照れくさいからよ。お互い夫婦持つ柄かよ、へっへっへと笑っちゃったよ。そしたらリリーのやつ」「リリーさんがどうかしたの」「哀しそうな声をしてな。あんたに女の気持ちなんかわからないわね。そう言って涙をこぼしてたな」「リリーさんの愛の告白ね」「おい、バカなこと言うなよ。真面目な顔して」「兄さん、笑い事じゃないんだ。リリーさんがどんな気持ちでいたか、わからないんですか」「そうだよ。女にそこまで言わせてさ」

「おばちゃん、それどういうこと」「社長は黙っててください」「いいか、寅。どこの世界にお前にプロポーズするような女がいるんだ。そこんとこをよく考えろ」「そうだよ」「しかも相手はリリーさんよ。お兄ちゃんみたいなわがままな人でもちゃんと面倒みてくれる人よ。お兄ちゃんが留守の間、私たちはいつもそのことを話し合っていたのよ」「それじゃお前たちは俺にどうしろというんだよ」「草の根分けてもリリーさんを探し出して、リリー、お前を愛してる、一緒に暮らそう。そう言うんですよ」「なるほど」「でも、リリー、どこにいるかわかんないからな」「会えます、きっと」「リリーさんだって、お兄ちゃんの事、心配してるもの」

とらやに現れ、皆さんにご心配かけたというリリー。「一時はダメかと思ったんですけど、お陰様で働けるようになりました。寅さんは命の恩人よ」「よせよ。そんなことを言うと照れちゃうよ」「リリーさん、料理が上手なんですってね」「嘘よ。寅さんが美味しいと食べてくれるから一生懸命作っただけよ」「リリーの作った沖縄料理はうまかったよ」「私、あの時幸せだった」「リリー、俺と所帯持つか」「……」「俺、今何か言ったかな」「いやあね、寅さん。変な冗談なんか言って。みんな真に受けるわよ。ねえ、さくらさん」「ええ」「そうだよ、そうだよ。ここはカタギのうちだからよ」「そうよ」「こりゃまずかったよ」「あたしたち、夢見てたのよ。ほら、あんまり暑いからさ」「そうだよ。なあ、博。夢だ」「そうですね」「あーあ、夢か」

駅のホームで話し合うさくらとリリー。「せめて晩御飯くらい食べていけばいいのに。おばちゃん、ガッカリしてたわよ」「また今度来る時、ご馳走してもらうわ」「ねえ、リリーさん。お兄ちゃんがさっき変な冗談言ったでしょ。少しは本気だったのよ」「わかってた。でも、ああしか答えようがなくて」「……」

電車が来たぞとリリーに言う寅次郎。「ねえ、寅さん。もし旅先で病気になったり辛い目にあったりしたら、こないだみたいにまた来てくれる?」「ああ、どこでも行くよ。北海道でも沖縄でも、飛行機に乗って飛んで行くよ」「きっとよ」電車に乗るリリー。「さようなら、さくらさん」「また来てね」「幸せになれよ」別れっていやねと寅次郎に言うさくら。「うん。さて、俺も旅に出るか」

バス停にいる寅次郎の前に現れるリリー。「どこかでお目にかかったお顏ですが、ねえさん。どこのどなたです」「以前おにいさんにお世話になった女ですよ」「はて。こんないい女をお世話した覚えはございませんが」「ございませんか、この薄情者」「ははは。何してんだ、お前。こんなとこで」「商売だよ。おにいさんこそ、何してるのよ、こんなとこで」「俺はリリーの夢を見てたのよ」「ねえ、これから草津に行くんだけど、一緒に行かない?」「行こう、行こう。俺、どっかに行くとかないかと思ってたんだ」寅次郎はマイクロバスに乗り込むのであった。