男はつらいよ 寅次郎恋やつれ | ロロモ文庫

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津和野でそばを食っている車寅次郎は二年ぶりに歌子と再会する。「歌子ちゃんじゃねえか」「寅さんね」「どうしてこんなところにいるの」「どうしてって、旅の途中よ。あれ、多治見にいるんじゃなかったの」「ここね、彼の実家があるの」「そうか、そうか。歌ちゃん、芸術座の青年と結婚したんだっけな。彼と仲良くやってるかい」「彼ね、死んだの。去年の秋、病気でね」「え」

歌子は二年前、小説家である父の高見の反対を押し切って結婚していた。「彼の病気が悪くなる一方なので、無理矢理この町の病院に入院させたけど、手遅れだったの」「あんたもつらい思いをしたんだねえ」「今はこの町で図書館勤めをしているの。一度は東京に帰ろうと思ったんだけど」

バス停まで寅次郎を見送りに来る歌子。「寅さんに会えて、とっても嬉しかった」「もし、なんだったらこの町に二、三日泊まっててもいいんだけどな」「いいのよ。私のためにそんなことさせちゃ悪いわ。寅さん、旅の途中なんでしょう」「歌子ちゃん、今幸せかい」やってきたバスに乗り込む寅次郎。「もし、何かあったら葛飾柴又のとらやに尋ねてきな」

ふらりととらやに戻ってくる寅次郎。歓迎する妹のさくらと叔父の竜造とつね夫婦。「寅、どっか具合でも悪いんじゃないのか。やつれてるぞ」「本当、どっか悪いんじゃないの」「すまねえが、水をいっぱいやってくんねえ」あれから十日もたっているのか、と呟く寅次郎。「実はな、さくら、歌子ちゃんと会ったよ。津和野の町でな」「それで歌子さん元気だった」「それがな、歌子ちゃんの亭主、去年の秋に死んだよ」「え」

「俺は心の冷てえ人間よ。あの歌子ちゃんはきっと不幸せな日々を過ごしているんですよ。その歌子ちゃんを俺はたった一人で置いてきた。あーあ、あの子はおいらを恨んでるだろうなあ。心の冷たい人ね、にっこり笑ってバスで行ってしまったわ。ねえ、もっとそばにいて、となぜ言ってくれなかったんだ」心配する竜造。「寅、ちょっと疲れてるんじゃねえか」

歌子さんも大変だなあ、と言うさくらの夫の博。「人間として生きていく張り合いが歌子さんにとって何かが問題ですよ」だから寅が心配してもしょうがない、という竜造に、そんなに心配してましたか、と聞く博。「心配なんてもんじゃないよ。げっそりやつれちゃってさ」ああいうのは昔は恋やつれって言ったんだよ、と言うつね。「僕は労働やつれか」「私たちはお団子やつれ」「さくらは兄ちゃんのことを心配して、寅やつれ。はははは」

そこに二階から商売道具を持って現れる寅次郎。「兄ちゃん、どうしたの。晩御飯よ」「他人の不幸をあざ笑うような人たちと飯なんか食えるかい」「僕たちはそんなことで」「黙れ。労働者やつれに何がわかる。俺は行くぞ」「どこへ」「津和野よ。二度とここには帰ってこないぞ。みんなも反省してまともな人間になってくれ」

出て行く寅次郎。とらやに歌子から電話がかかってくる。慌てて寅次郎を呼び戻すさくら。「歌子さんから電話よ」急いで帰ってくる寅次郎。「もしもし。寅です。いやあ、あれからずっと気にしていたんだ。今、柴又の駅。え、迎えに行こうか。来る?じゃあ、まっすぐ来て」

張り切る寅次郎。「さくら、お茶入れて。おばちゃんはぼけっとしてないで、料理をすぐ作る。おっちゃんはぼけっとしてないで、歌子さんは長旅で疲れているんだから、二階で布団を敷く。博、お前は風呂沸かせ。待てよ、歌子さんの前では亭主という言葉は禁物だ。博、今日からお前は死んだことにしろ」「それは無茶苦茶ですよ、お兄さん」

とらやに現れる歌子は図書館をやめてきたと言う。「私はやっぱり東京で自分で向く仕事で働きたくて」「うちでしたらいつまでもいていいんですよ。二階の部屋は空いているんですから」「でも、私、寅さんに会えてよかったわ。会えなかったら東京に出て行く決心つかなかったんですもの」「こんな奴でも役に立つこともあるんですねえ」

父とは会ってないんです、とさくらに語る歌子。「でも娘主人のお葬式の時は」「あの人がなくなったことを父に知らせたら、ハガキで仕事中で行けない、とたったそれだけ。いくらあたしたちの結婚が気に入らなかったと言って、葬式の時ぐらい。だってそうでしょう。普通の父親だったら」「……」「私の父には父親らしい愛情が欠けているのよ」「それはお父さんの性格で、心の中ではきっと歌子さんのことを」

高見の家を訪れ、歌子がとらやの二階に住んでいることを教えるさくら。歌子が御厄介かけますと深々と頭を下げる高見。いいお父さんなのにねえ、と博に言うさくら。「どうして歌子さんはあんな風に言うのかしら。会ってみればいいじゃない。会えば必ずわかりあえると思うけどな」「そうだよ。会いさえすれば全ては解決するんだよ。でもその会うってことに歌子さんは抵抗があるんだろう。考えてみれば、父親に反発する気持ちが歌子さんをここまで支えていたのかもしれないよ」寅次郎は、歌子を釣りに連れて行って一緒に遊ぶ。

テキヤの仕事を終えて、とらやに帰ってきた寅次郎は夕食がハンバーグだとさくらから聞かされ、そんな横文字のものを食いたくないと毒づくが、歌子が作ったと聞いて、ハンバーグ大好きで、今晩あたり洋食がいいと思ってた、と相好を崩す。夕食の時に幸せってなんだろうと言う話になる。歌子に金がないよりあるほうが幸せに決まっているわ、と言うつね。

「さあ、それはどうかしら。寅さん、どう思う」「どう思うって、どうかね、博」「つまり、幸福ってものを金につなげて考えるのは正しくないってことですかね。愛情がどれだけあるかという問題かな」俺は立派な甥を持って幸せだ、という竜造にそんな言い方するもんじゃないよ、とクレームをつける寅次郎。

「じゃあ、極道者の甥を持って不幸せだと本当のことを言えばいいのかい」「何が本当のことだ」「あら、立派な甥を持って幸せと言って何がいけないの」「ああ、夫婦だねえ、おばちゃんまで、そんな嫌味言うのか、なあ、さくら」「あら。あたしだって幸せよ。優しいお兄ちゃんがいて」「よく言うよ。婿、どうなんだ」「ええ、勿論幸せですよ」「そうかい、そうかい。みんなで馬鹿にすりゃいいんだよ、あれ、歌ちゃん、何がおかしいの」「あのね、私も幸せよ。寅さんみたいな友達がいて」「友達、なんて言われちゃ、困っちゃうなあ、博」

心身障害児のための施設で働いてみたいとさくらと博に話す歌子。「そういう仕事なら、私のようなものでも何か役に立つんじゃないかと」「でも、そういう仕事って大変なんでしょう」「そうなの。だからあまり無理をしないで私相応の仕事を選んだほうがいいんじゃないかと思ったりもするの」「難しい問題ね。ねえ、どう思う」俺にはとても答えれないな、という博。

「それは歌子さんが決めることだし、歌子さんは一番正しい選択をすると思います」「……」「もしもよ、お父さんに相談したらなんと言うかしら」「実はそうしようと思うの」「そうしたらどうですか」「勿論返事は決まってるでしょうけどね。お前なんかにそんな仕事ができるか、と」「そいつはわかりませんよ。話してみないと。もし言われてもあなたが考えを変える必要ないでしょう」「……」「どうですか。会ってみれば」

お兄ちゃんに相談したらなんて言うかしら、というさくらに、寅次郎に言ってみた、と答える歌子。「なんて言ってました」「全部やめちまえって」「ははは」「じゃあどうやって暮らせばいいのって聞いたら、毎日とらやでブラブラして、花を摘んだり、歌を歌って暮らしなさいって」「はははは」「馬鹿ねえ、もう」

寅次郎は高見の家に押しかけて、ナポレオンを飲み過ぎて酔っぱらう。「おう、ナポレオンやっとるのか」「ナポレオンかワシントンか知らないけど、けっこういけるじゃないか。ところで返事はどうだい」「返事ってなんだ」「だから、歌子ちゃんの前に手をついて私が悪うございましたと言えるかどうか」「そんなことが言えるか。悪いのは歌子だ」「そうか。歌子ちゃんも可哀相だ。こんな父親持って。じゃあ俺は帰るよ。なんだ、この家は掃除してないのか。これじゃいい作品は生まれないよ」

勝手に寅次郎が高見の家に行ったことを、それじゃ全てがぶち壊しになると文句を言うさくら。「歌子さんに謝りなさい」「俺が何をしたと言うんだ。なんで謝らなきゃならないんだ」「だってそうでしょ。歌子さんとお父さんがいつかは仲直りしなきゃならないことくらい、お兄ちゃんにはわかんないの」「向こうが悪いからしょうがないじゃないか」「それじゃ歌子さんが可哀相よ」「歌子ちゃんはね、俺んちの二階にいて、フラフラしてればいいんだよ」

「そんなことできるわけないじゃない。誰だって生きていくためには働かないといけないの」「だったらお前んちの亭主は働きもんだから、その分働いたらいいじゃねえか」「お兄ちゃんは本気で歌子さんの幸せを考えてないわね」「なに」「だって、歌子さんがいつまでもううちにいてほしいというのは、お兄ちゃんの気持ちでしょう。それじゃ歌子さんが幸せなんじゃなくて、お兄ちゃんが幸せなんじゃない」

そこに現れる高見は歌子と二年ぶりに再会する。「もっと早く来たかったが、父さん、仕事があってな」「……」「まあ、元気そうで何よりだ」「お父さん、長い間、心配かけてごめんなさい」「いや、君が謝ることはない。謝るのは多分私の方だろう。私は口が下手だから、誤解されることが多くてな。しかし私は君が自分の信じる道を選んで、その道をまっすぐ進んだことを、私は本当に嬉しく思っている」「私、もっと早くお父さんに会いに行けばよかったのに」

歌子がとらやを出て高見のところに帰り、寅次郎は半病人状態となる。ふらふらと歌子を訪ねる寅次郎。「仕事のことはどうなったの」「迷ったけど、やれるところまでやろうと施設に行くことに決めたの。大島に藤倉学園という施設があるの」「そう。伊豆の大島か。でも、歌子ちゃんも元気になってよかったねえ」「寅さんのお陰よ。どうもありがとう」「別に俺は何もしねえよ」「……」

「浴衣きれえだね」「え、なんて言ったの」「いや、なんでもないよ」とらやに戻った寅次郎は、さくらに旅に出ると告げる。「おじちゃんたちに言うと引き留められるから、こっそり行くよ」「……」「なんだよ、情けないツラして。ちょっと旅に出るだけじゃないか。じゃあな」

とらやに手紙を書く歌子。「みなさん、暑い夏をいかがお過ごしですか。大島に来て一月が夢のように過ぎました。心や体の不自由な子供の面倒を見るのは、想像してたよりはるかに大変な仕事です。子供たち相手にまるで戦争です。みなさんと幸せについて語りあった日のことを時々思い出します。今の私が幸せか、そんなことを考えるゆとりはありませんが、でも何年先に今の時を思い出して、ああ、あの頃は幸せだった、とそう思えるようにありたいと思います。ところで、寅さんはどうしてますか。旅先ですか。私は寅さんがこの島にひょいと来てくれるような気がしてなりません。本当に来てくれないかなあ」寅次郎は気ままな一人旅を続けるのであった。