作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(426)」 | ロロモ文庫

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家庭の味

山岡のために朝ごはんを作る栗田。「純日本風でまとめてみました」「サンマの干物、だし巻き卵、キュウリと大根のぬか漬け。納豆、ほうれん草のごまよごし。軽くていいね。いただきます。おや、豆腐とわかめが」「鳴門のわかめよ。薄くてシャッキリしているけど、ムチムチした歯ごたえが素敵。お豆腐はこの先にある本物を作っているお店で買ってきたの」「ふうん。俺は味噌汁の実は一種類だけの方が好きだ。実をいくつも入れると味が濁るのだ。それに豆腐の切り方が小さすぎる。これじゃ豆腐のうまみが抜けちまう。お吸い物じゃないんだから」「すみません」

「キュウリの漬物か」「鹿児島でできた早生のキュウリなのよ」「そうじゃない。この切り方だ。ほら、箸でつかみづらいからすぐ落ちてしまうだろ。よく料理屋なんかでこう切るけど、形はしゃれてるけど食べるほうは災難だ。斜めに薄切りしたほうがいいんじゃないの」「すみません」

「この黄身は?」「納豆に入れるとおいしいと思って」「俺は生卵を納豆に入れるのは嫌いだ。卵の匂いが納豆と混ざると生臭い。納豆のこの味と匂いが好きで食べてるんだ」「ごめんなさい」「サンマの干物か。俺、サンマの頭って嫌いなんだ。なんか蛇みたいでさ。普通サンマの干物は頭を落として焼くだろう」「ごめんなさい」

翌日も山岡のために朝ごはんを作る栗田。「味噌汁はお豆腐だけにしたわ。切り方も小さすぎるって言われたから、大きくしたけど」「これは大きすぎる」「そんな」「このアジの干物、変わってる。頭がないアジの干物って首無し死体みたいで気持ち悪いじゃないか」「そんな」「ぬう。このカブの漬物、こう薄く切ったんじゃ、カブの歯ごたえが楽しめないよ。放射状に八つ割りに切るもんだよ」いい加減にしてと怒鳴る栗田。「私、一生懸命にしてるのにひどいわ」「なんだよ、もう」

山岡と栗田から事情を聴いて、料理を作るはる。「グラタンです」「ヒラメのグラタンね。マカロニとマッシュルームと玉ねぎが入って」「胃にやさしいって感じだな」「芋がゆです。お芋はサツマイモです」「お芋と白い米の取り合わせがきれい」「おかゆにわずかに塩味がついている。それがサツマイモの甘味を引き立てる」「ニシンと昆布を少し味を濃く炊いてあります」「ニシンの少し強いクセが昆布に海藻臭さを押さえて、全体の味の格が上がったね」「ニシンのくどい味が昆布の甘味で中和されて、とても豊かな味になっているわ」

今出した料理は共通点があるというはる。「私のお店によく来る独身男性に頼まれてなつかしい家族の味という共通点があるの」「え」「私も人によってあまりに違う家庭の味を持っているから驚いたのよ。考えてください。グラタンが家庭の味という人と、ニシンと昆布は家庭の味という人が結婚したらどうなるか」「あ」「結婚というのは違う家庭で育った者同士が両方の家の味を持ち寄って、新しく自分たちの味を作り上げるものでしょう。相手の家庭の味を否定してしまったらどうなるでしょうね」「いや」「結婚する前にお互いのことを知り合ったと思っていても、結婚すると相手に知らなかった部分が出て来るものです。でも、だから人生って楽しいんじゃないかしら」「よくわかりました。俺の流儀を一方的に押し付けたのが悪かったんです」「お料理のことは彼に及ばないというひがみがあったから、ヒステリックに反応したんです」「俺が悪かったんです」「私もよ」