作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(407)」 | ロロモ文庫

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牡蠣の旬

結婚式の日取りを決めろと山岡と栗田に命令する大原。「食い物の旨い秋。それも晩秋がいいな、そうだ、牡蠣だよ。牡蠣を使ったメニューなら、究極のメニューに載せられるものがあるものがいくつかあるだろう。牡蠣が一番旨いのは晩秋から冬だが、12月は何かと忙しいから、11月の半ばから12月までの間と言うことにしよう」

「む。それなら披露宴は春まで待たなければなりませんね」「なぜだ」「牡蠣が一番美味しいのは春だからですよ」「バカ言うな。昔から英語の月名にRのつく月が、牡蠣を食べるのによい月とされている。と言うと、SEPTEMBERからAPRIL、つまり9月から4月の間だ。どんなものでも旬の外れ近くが旨い訳がない」「では一緒に来てください。見せたいものがあります」「見せたいもの?」「山です。その山を見れば、牡蠣は春の方が美味しいことがわかります」

岩手県一関市で水山養殖所を経営する畠山を大原に紹介する山岡。「では、早速参りましょう。これが室根山です。牡蠣がよく育つように、私たちはこの山に植林を始めたのです」「え。牡蠣がよく育つように植林?牡蠣と山の木に関係があるんですか」「大ありなんです」

説明する畠山。「この室根山のそばを流れる大川が唐桑半島から海に注いでいます。実は海にとって、川はとても大事なんです。川は陸の栄養分を海に運んでくれるからです。栄養のある川の水が流れ込んでこそ、魚や貝の餌となるプランクトンが沢山育つのです。その川の水はどこから来るかと言えば、山に降った雨水が流れ込んだものです」

「ところがその山がはげ山だったり、杉などの針葉樹林しか生えてないと、うまくありません。ブナやナラなどの落葉樹の森が必要なんです。落葉樹は秋になると葉が落ちる。何年もの間に落葉樹林の地面は、厚い腐葉土に覆われることになります。この落葉自体が、土とともにたっぷり雨水を吸って貯える。一種の貯水池の役を果たすのです」

「こうして蓄えられた水は少しずつ染み出していって、川に流れ込んでいきます。この過程で水はたっぷり栄養を含むことができるのです。ところがはげ山だと降った雨は山の表面を駆け下って直接川に流れ込んでしまう、栄養分も取り込むこともできません。針葉樹林もないよりはましですが、落葉しないので上質の腐葉土は望めないし、水を蓄える力も少ないのです」

「なるほど。ブナやナラなんか雑木だと思っていたが、実は大事な木なんだな」「今までに室根山だけでブナやナラを2000本も植林しました。唐桑半島に注ぐ大川上流や川沿いにも植林しました」「ほう」「ブナの木が育つのがすごく遅い。人の背に育つのに8年もかかるのです」「なんと。そんなに遅いのか」「だから、いったんブナやナラの林を破壊してしまうと、なかなか元に戻らないのです」「金になるからとブナやナラの木を潰して、杉の木を植えたりするのも、環境破壊の一つなのか」

舟で海に出る一同。「きれいな海だなあ。こういうキレイでしかも栄養のある水も、良い川の水が流れ込んでこそなんだな」「フランスの牡蠣の養殖関係者が見学に来たのですが、フランスの雑誌に「畠山は天国のように美しいところで牡蠣を養殖している」と書いてくれました」「で、牡蠣は春の方が美味しいと言うのは」

説明する畠山。「牡蠣は8月から9月にかけて卵を放出します。だからこの時期が痩せていてまずい。それから徐々に再び身がついていって、美味しくなるのですが、山に積もった雪が溶けて、雪どけ水が川から海に流れ込んでくると、一際美味しくなる。雪どけ水は栄養が豊富で、プランクトンが沢山育ち、牡蠣はたっぷり肥るからです」

「ぬう、雪どけ水か。春になってたっぷり肥ったほうが美味しいのは当然だな」「社主、わかっていただけましたか」「よくわかった。ただ披露宴の期日は牡蠣の味のいかんにかかわらず、11月半ばから12月までの間に決定だ」「ぬう」