作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(406)」 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

究極のスッポン料理(後)

淡水専門店「淡魚屋」に行く山岡と栗田。「なるほど。一番いいスッポンをくれと言うわけだね」「スッポンにも天然物と養殖物があるんでしょ?」「そう。天然のスッポンは温かいところじゃなでなきゃダメ。気温が15度くらいになると冬眠してしまう。関東やそれより北になると、あまりいないね」「だからスッポン料理は関西で盛んだったのね」「しかし、商業的用途に使われるのはほとんど養殖ものだね」「そうですか」

「養殖にも二つあって、一つは露地の養殖池で2回冬眠期間を置く育て方。これだと最低2年以上かかる。もう一つは生まれてから最初の冬眠期間を暖房したハウスの中で育てて、冬眠させずにエサを食べさせて育てるやり方で、これだと1年で食用になる」「1年と3年じゃ随分違うわね」「やっぱり、少しでも自然に近い3年物の方が味がいいみたいだね」「魚だと養殖ものは脂が乗り過ぎて、ギトギトして匂いも悪いわ」「スッポンの体は必要以上に油を吸収しないんだよ。だからハマチやアジみたいなことにはならないんだ」

「で、よいスッポンの見分け方と言うのは?」「まず色を見てくれ。背中の色は薄黄色が基本で少し緑がかっているのはいい。黒っぽいのや斑点のあるのはよくない。腹の色はヘンに青白いのはダメだ。同じ白でも少し黄色がかった方がいい。形は甲羅がふっくらと厚みがあった方がいいし、このエンペラが十分張っていて厚い方がいい」「なるほど」

料理記者の岸朝子に、日本料理の実力者の道場六三郎を紹介してもらう山岡と栗田。「道場さん、スッポンなのよ」「なるほど。私の場合、スッポンが専門ではありませんが、スッポン理料理も自信ありますよ。お二人が京都支局に飛ばされないようにして差し上げましょう」「わあ、嬉しい」「スッポンは一番いいものを用意しています」

片森にスッポン料理をご馳走したいと言う山岡。「片森さん、まず体力です。天候不順で弱っているんじゃ、あの強烈無比な奥さんに対抗できませんよ。だからスッポンを食べなくてはなりません」「スッポンを食べるとどうなるの」「元気モリモリ、力が漲って、奥さんなんかに負けるものかと言う闘志が湧いてくる」「む、むう。僕だって喜んで女房の尻に敷かれているわけじゃないんだ。よし、スッポンが食べるのが楽しみだ」

道場の店に大原と大河を呼ぶ山岡と栗田。「こんばんは」「あ、輝子さん」「山岡さん、ありがとう。スッポンをご馳走してくれるなんて。あの家を譲ってもらえるのが、そんなに嬉しいのね。安心しなさい、あなた以外に誰も譲らないから」「む、むう。片森さん、どうして奥さんを」「す、すまん。どこへ行くのと聞かれたら、正直に答えないわけにはいかないし」「ぬ、ぬう。奥さんがスッポン食べたら、これ以上に強くなってしまう」

スッポン料理を作る道場。「スッポンの赤身のところを刺身にしました」「刺身とは不意打ちだな」「まあ素敵。この歯ごたえ」「全然癖がないから、体が弱っている僕でもすっきり美味しく食べられる」「刺身にしてこれだけ旨味を感じさせる肉と言うのは例がない」「むう。スッポンの身は旨いに決まっとるやないか。それをただ刺身にしただけや」

「腸の刺身です」「ほおお。腸を刺身でね」「全然癖がないよ。それどころかシャキシャキして、甘味があって素晴らしい」「スッポンって不思議な動物だね。腸まで旨いなんて」「ふん。関西でも食うたことあるわい。珍しくもない」

「肝臓の刺身です」「何と言う濃厚な味だ」「美味しくて一切れ一切れが宝物みたい」「肝臓はどんな動物でも美味しいけど、それぞれに癖があるものなのに、このスッポンの肝臓は美味しいだけで一切の癖がない。この肝の味だけは刺身でなければわからない。鍋にしてしまったら、この味の真価の10%もわからない」「むう。刺身にしただけで旨いのやから、料理人の手柄やない。スッポンの実力が凄いだけのことや」

「スッポンの唐揚げです。脚、首、その他いろいろな部分をぶつ切りにして唐揚げにしました」「う」「む」「ぐ」「ま」「食べ物が美味しくて身震いしたのは初めての経験だ」「鍋とは違って、スッポンの肉の味が直接味わえるから、美味しさの衝撃が強烈なんだわ」「俺は今までフグの唐揚げが一番旨いと思っていたけど、スッポンの方が一枚上手だ。凄い体験をした」

「どうだ、大河」「どうもこうもないわい。まる鍋以外にこんな食べ方があると教えてられてしもうて、これからスッポン食う時、どっちにしよか迷うやないか。余計なことをしよって恨むで」「はっはっは。さしもの大河もスッポンみたいに首を引っ込めおったわ」

説明する山岡。「京都の大市のまる鍋は芸術の域に達しています。それを越えるまる鍋を作れと言われたら困るが、大原社主はスッポン料理と仰った。本当はまる鍋を期待しておられたはずだが、最初の刺身の先制パンチが功を奏して、あとは一気に唐揚げまで持っていかれた。スッポンはまる鍋以外にも料理の仕方によって、こんな素晴らしい感動を味合わせてくれることがわかって、大変な収穫でした。これは究極のメニューに取り入れられる味だと思いますが」「むう」

山岡にあの家を譲れなくなったと言う輝子と片森。「私、赤ちゃんができたの。できたとなれば嬉しいものよ。高齢出産に挑むわ。何人も次々に生むわ。そしたら大きい家が必要ですものね」「はあ」「これも夫婦でスッポンを食べたおかげだよ」「きっと丈夫な子ができるわ。じゃあね」