時をかける少女 | ロロモ文庫

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4月16日・土曜日。授業が終わり、理科実験室の鍵を学級委員の神谷真理子に渡す国語教師の福島。「理科教室の掃除当番に渡してくれ。理科実験室に鍵をつけたんだ。どうも最近、実験室で誰かがいたずらした形跡があるんだ」「はい、わかりました」土曜日の掃除当番なんてついてないなと言う堀川吾郎に、仕方ないじゃないと言う芳山和子。「順番でこうなったんだから」神谷から鍵を渡される芳山。「掃除が終わったら、職員室に持ってくるように」「わかったわ」

理科教室の掃除をする芳山と堀川と深町一夫。「あとは私がやっておくわ」「じゃあ頼むよ」実験室から物音がし、鍵を開けて入る芳山。「誰。誰なの。わかった、深町君でしょう。それとも吾郎ちゃん?驚かそうとしてもダメよ。どこから入ったの」立ち込める白い煙を嗅いで、気を失う芳山。

カバンを取ってきたと堀川に言う深町。「君のと芳山君のと」「サンキュー」実験室で気を失っている芳山を見つけて、保健室に運ぶ深町と堀川。気がついて、私はどうしたのかしらと言う芳山に実験室で貧血を起こして倒れたんだと言う深町。「違うわ。誰か実験室にいたのよ。それで不意にフラスコが落ちて、白い湯気のようなものが立ち上って」「おかしいな。そんなフラスコはなかった。それに僕たちが入った時、誰もいなかった」

「それからいい匂いがしたの。その匂いに近づいたら、なんだか体が。あの香りはラベンダーの香り。一度母にラベンダーの香水を嗅がせてもらったことがあるの」きっと腹が減り過ぎて気絶したんだと言う堀川。「よく人が気絶する時にきなくさい匂いを感じるって言う。それでそんな香りを嗅いだような気がしたんだよ」「そうかな」

一緒に下校する芳山と深町と堀川。「じゃあな。また月曜日」「ありがとう、吾郎ちゃん」「じゃあな、深町」「ああ」僕の家に寄らないかと芳山に言う深町。「ちょっと休んでいけば」「そうね。あ、この花の匂いだわ」「ああ、温室の花の匂いだよ」「ラベンダーの香り。実験室で嗅いだ」「ラベンダーならおじいちゃんが育てているから」「見たいの」「え」「お願い。私、ラベンダーの花が見てみたいの」

ラベンダーの花を初めて見たと深町に言う芳山。「間違いない。この香りだわ」「大丈夫かい、芳山君」「私は間違えてなかった」「家に行こうか。お茶が入ってると思うから」「ごめんなさい。私、帰るわ」「じゃあ、送っていくよ」「大丈夫。それより私、一人になりたいの」「そう」「ごめんね。心配かけて」「明日は日曜日だからゆっくり休むといいよ」

4月18日・月曜日。芳山に土曜日に倒れたんだってと聞く神谷。「大丈夫?」「ええ。もう大丈夫よ」体育の授業で汗を流す芳山に大丈夫かと聞く深町。「ええ、もう大丈夫」「無理しないほうがいいよ」国語の授業で福島に漢文の返り点を打ってみろと言われる芳山。「できないか。今日は大目に見る。ちゃんと予習をしておくように」

家に帰り、漢文の勉強をする芳山は地震に驚いて家を飛び出し、堀川の家の近くが火事になっていることに気づき、心配になって火事現場に行く。「あ、深町君」「君も来てたのか」堀川に大変ねと声を掛ける芳山。「うん、地震のあとにこれだろ。もうくたくただよ」「何か手伝おうか」「いいよ、いいよ」「じゃあね」

家路につく芳山と深町。「じゃあ、明日、学校で」「明日はちょっと。学校を休んで植物採集に行くんだ」「深町君。女の子の私より植物の方に興味があるんだ」「今のこの季節にどうしても欲しい植物があるんだ」「そう。じゃあね」「元気だしてね。心配だから」「ありがとう」「約束だよ」

翌朝、学校に向かう堀川に声を掛ける芳山。「おはよう」「あ、今日は元気だね。昨夜はサンキュー」「でも、大したことなくてよかったね。あ、危ない」お堂の瓦が急に落ち、当たりそうになる堀川を助ける芳山。「キャアア」汗びっしょりで目覚める芳山。「なんだ、夢か」

学校に来た芳山に土曜日に倒れたんだってと聞く神谷。「大丈夫?」「う、うん」具合が悪そうだなと言う堀川に刺激が強すぎたのねと答える芳山。「地震と火事が重なったから」「それ、何のこと?大丈夫か、芳山君。熱があるんじゃないの」体育の授業を見学する芳山に大丈夫かと聞く深町。「うん。あんまり大丈夫じゃない」国語の授業で福島に漢文の返り点を打ってみろと言われる芳山。「ほう、いやに簡単に解いたな。よくできた」

学校が終わり、深町の家に行く芳山。「そういえば私、初めてだったかしら。深町君の部屋に上がるの。でも変よね。小さい時からずっと一緒だったのに」「うん。それは僕が芳山君の家に遊びに行ってたからじゃないかな」「あ、あの時のことはよく覚えてるわ。ひな祭りの時、二人でふざけて遊んで、鏡台を割ってしまい、二人とも指にケガをしてしまった。その傷はまだお互いに残っているわ。深町君はあの頃から優しかった」「……」

私はどうかしちゃったみたいと言う芳山。「笑わないでね。丸一日、時間が逆戻りしちゃったみたいなの」「ふうん」「今日一日あったことが、昨日経験したことばかりなの。そして、今日、これから大きな地震があって、吾郎ちゃんの家の近くで火事があるはずなの」「デジャヴかな。時々あることなんだ」「何それ」

説明する深町。「既視感って言うのかな。よくあるだろ。絶対初めてなのに、前に見た事があるとか。生まれて初めて来た場所が、どうも知ってる場所だったり。そんな経験一度もない?」「なくはないけど。丸々一日分そっくりなのよ」「あ、温室に水をやる時間だ。そこで待ってて」「私も手伝うわ」

ラベンダーの花に近づかないほうがいいと芳山に注意する深町。「また気持ちが悪くなるといけないから」「私、怖いわ。どうしてこんなことになってしまったのかしら」「君は今、気持ちが不安定なだけだよ。大人になる時って、そういうことがよくあるらしいよ」「そうかしら」「そうだよ。だから大丈夫だよ」「深町君、私を助けてね」「ああ」「ごめんね、変な子で」

地震が起きて火事現場に行く芳山。「あ、深町君」「気になって来てみたんだ。君の言うとおりになったね」「何かお手伝いできないかしら」「かえって危ないよ。それに君の予言通りならすぐに消えるはずだろ」「吾郎ちゃんにそんなに慌てなくていいと教えてあげようか」「やめたほうがいいよ。なんて説明するんだい。さあ、帰ろう」

タイムリープは時間を跳躍できる能力だと芳山に語る深町。「君はタイムリープを持てる能力を持ったとしか考えられないな」「どうして私が。じゃあ昨日の、明日を生きてるはずの私はどこに行ってしまったの」「存在しない。いや、存在できないんだ。この世界に二つの時間、二つの空間は同時に存在することはできないんだ」「なんだかわからない。もっと強く抱いて。あなたとこうしていると、私はなんだか安心なの」

4月19日・火曜日。学校に向かう堀川に叫ぶ芳山。「吾郎ちゃん、危ない」お堂の瓦が急に落ち、当たりそうになる堀川を助ける芳山は堀川の指に傷があることに気づく。「芳山君」「深町君」深町の家に行く芳山。「深町君」温室に行きラベンダーの香りを嗅ぐ芳山。「何もかもこの香りからなんだわ、あ、あの時の」白い煙を嗅いで、気を失う芳山。

岸壁で植物採集する深町に声を掛ける芳山。「深町君」「芳山君。どうしてここに来たの」「あなたに会いたかったの。やはり、あれは本当だったの。私、見たの。ラベンダーの香りのする白い湯気を。あのラベンダーの香りの中に私の知らない秘密があるんだわ。私、本当のことを知りたいの」「こんな無茶な飛び方をして。元に戻れないことだってあるんだぜ。時空間を彷徨う時の亡者になっちゃうんだぞ」「ねえ、戻れる?あの時、土曜日の実験室に」

「どうして。なぜなんだ」「私が変になったのは、あの時からよ」「あれはちょっとした事故だったんだ。忘れた方がいい」「はっきりさせたいの」「そんなことをしたら、僕たち、もう会えなくなるかもしれないんだよ」「私、知りたいの。私、まともな女の子に戻りたいの」「どうしてもかい」「はい」「わかったよ。でも絶対に時の亡者になってはいけない。強く念じるんだ。あの日のあの場所を」「土曜日の実験室」

神谷から鍵を渡される芳山。「今日から鍵がついたんですって」「じゃあ、今日は土曜日ね」掃除でもするかと言う堀川にお願いがあると言う芳山。「教室に行って、カバンを取ってきて。その方がお掃除終わったら、すぐ帰れるでしょう」「わかった」「あの吾郎ちゃん、右手見せて」堀川の指の傷跡を確認する芳山。「ありがとう。ごめんなさい」「なんだよ。どうしちゃったんだよ」「……」「それじゃ後で」

実験室に鍵を開けて入る芳山。「深町君。やっぱりあなたね」「君を困らせるつもりはなかったんだが」「あなたはいったい誰なの」「僕は未来人なんだ。僕は西暦2660年の薬学博士」「だってまだ子供」「発達した教育システムのおかげなんだ」「わからない。でもどうして」「植物が手に入らなくなったんだよ。科学の発達と人口の爆発的増加で緑はほとんど絶滅してるんだ。だけど薬学上、どうしても植物の成分が必要になってね。特にラベンダーの成分が」

それでこの時代にやってきたと言う深町。「幸い、深町さんの家には温室にたっぷりラベンダーがあるし、交通事故で息子さん夫婦とお孫さんを失って、二人だけで寂しい毎日を送っていた。僕にとってうってつけの環境だったんだ。いろんな植物を栽培している老人夫婦だったからね」「でもどうやって来たの?」「君も経験しただろ。テレポーテーションとタイムリープさ。僕の時代は超能力についても発達してるんだ」

「それでいつまでいられるの」「今日。今かぎり。短い間だったけど」「短いって、私たち小さい時から」「いや。ひと月だよ。済まなかった。僕に関わりあいのある人には、僕の脳波を送り、僕に都合のいい記憶を持たせるようにしたんだ」「それで、あなたとの思い出は全部嘘なのね。この傷だって」「そうなんだ。思い出は君と堀川君のものだったんだ。僕はそれを借りたんだ」

「でも、私の気持ちは嘘ではなかった」「僕が君にインプットした記憶も、僕の気持ちだった」「じゃあ、あなたも私を」「もうさよならだ」「イヤよ」「仕方がないんだ。僕はルールを犯してしまった。全てを喋ってしまった」「行かないで」「帰らなくてはいけないんだ」「じゃあ、私も一緒に行きます」「ダメだ。君はこの時代の人だ。君はここにいなければいかない。過去の歴史を狂わせてはいけないのだ。そればかりか君の記憶も消さなければならない」

「そんな。私、誰にも言わない。あなたのことは私の胸に」「ダメだ。君ばかりでなく、僕に関わり合った全ての人に僕の記憶を消さないといけない。そして僕の記憶も」「イヤ」「これだけは絶対に許されないんだ」「お願い。せめてあなたとの思い出を」「ダメなんだ。君は僕のことを忘れて、この時代に幸せになるんだ。君は本来堀川君と」

「やめて。そんなこと言うの。私、決心したの。私、あなたと」「僕も好きだよ。未来よりこの時代が。みんな、のんびりしていて、優しくて、温かい人ばかりで。だけど僕の時代には僕の責任があるんだ。多くの人々が僕の帰りを待っている。わかるね」「……」「じゃあ、お別れだ」「もう行ってしまうの」「うん」「私、わからないわ。胸が苦しいわ。これは愛するってことなの」「それはやがてわかるよ」

「だってもう時間がないわ。どうして時間は過ぎていくの」「過ぎていくもんじゃない。時間はやってくるものなんだ」「じゃあ、またやってくる?この時代へ」「来る。多分いつか」「じゃあまた会えるのね」「会えるかもしれない。でも君には僕がわからない。全く別の人間として。僕にも君を見つけることができない」「わかるわ、私には」「さよなら」「さよなら。忘れない」ラベンダーの香りに包まれて気を失う芳山。

大学の研究室に残り薬学の研究を続ける芳山は、電話で堀川とのデートを断わり、事務室を出て、若い男とぶつかってしまう。「あ、ごめんなさい」「あの、薬学部の実験室はどっちでしょう」「それなら、この先よ」「どうもありがとう」芳山は若い男の後ろ姿を見送ると、足早に研究室に向かうのであった。