作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(382)」 | ロロモ文庫

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無理な注文

週刊タイムの編集長である三河は団を意見が合わないので週刊タイムを辞めると大原たちに話す。「団社長は元々コンピュータのソフトウェアの開発で大成功し、週刊タイムの発行元である大研社を買収された。しかしコンピュータ関連事業と出版業は性格が異なります。団社長はそこを理解されてない」

「雑誌作りは人間の感性や感覚が密着していますが、コンピュータのソフトウェアは2進法の世界です。団社長の物の考え方もプログラムのフローチャートのように理詰め一辺倒です。今まで何とか努力してきましたが、雑誌作りのプロとして20年やってきた私のやり方と社長のやり方は違いすぎます。そんなわけで私はやめさせていただく決心をしたのです」

僕は自信をなくしたと山岡と栗田に告げる団。「僕は成り上がり者だからね。成り上がり者は強引で他人の気持ちがわからない無神経なところがあるようだ。三河に辞められたのは痛手だよ。仕事上の痛手と言うだけでなく、僕がどんなに他人の気持ちのわからない人間であるか思い知らされた精神的な痛手が大きい。で、僕は自信を失ったんですよ」

「そんなに三河さんが辞められるのが痛手なら、辞めさせないようにしたら」「随分説得したが聞かないんだよ」「週刊タイム誌上で究極と至高を対決させる企画を立てたのは三河さんだろう。対決の時の司会の様子から見ても、彼は美味しいものには目がない。別の言い方をすれば、美味しいものに弱い。となると、手はいくらもある」「なるほど」「私も手伝うわ」

岡星に三河を招く団。「君にはいろいろ世話になったから、最後に食事を共にして、気持よく別れたいと思って。今日は山岡さんと栗田さんがお膳立てしてくれたんだよ」「それは凄い。最後に究極のメニューが食べられるんですか」「楽しんで頂ければ幸いです。さあ始めましょう」

「ホタテの刺身です」「ホタテのバター焼きです」「ホタテの清蒸です」「ホタテのラビオリです」「ホタテの貝柱を干したものと豆苗の炒め物です」「ホタテのグラタンです」「ホタテの照り焼きです」

「ちょっと待ってください。いくらなんでもホタテばかりと言うのは不自然。これには何か意味があるんですね」「ホタテはお刺身を食べればわかるように、元々淡泊な味です。でも料理の仕方で変化に富んだ味になります。干したりすると別の味にもなります」「単純な味のホタテを使って、これだけ変化に富んだ料理を作ったのは、料理人のお手柄ですよね」「その通り、ここのご主人の腕は凄い」「ありがとうございます」

「今日、私たちは岡星さんにホタテだけで料理を作ってくださいとお願いしたんです。ホタテみたいな単純なものだけで作るなんて、無理なお願いですが、岡星さんは工夫して色々な料理を作ってくれました」「無理なお願いだとわかっていても、できないと言ったらその料理人は工夫が足りないと言われても仕方がない。編集者も料理人と同じじゃありませんか。色々な素材を取り合わせ、料理をして一冊の雑誌を作り上げる」「あ」

「優れた料理人の場合、料理のことを何も知らない客が無理な注文をしても無碍に断らず、まったく違った形のものを作るにしろ、注文をどこかに反映させるようです」「むう。私は団社長の物の考え方はあまりに理詰め一辺倒と、その注文をはねのけてばかりだった。団社長の考えを私がさらに料理すればよかったんだな。私は下手な料理人だったようです」「いや、私が素人の癖に無理な注文をしすぎたんだ。どうだろう、もう一度やり直せないだろうか。これからは君のしたいようにしてもらうから」「私みたいな工夫の足りない料理人でよろしいんですか」「何を言う」

三河さんが元通りに収まってよかったと団に言う山岡。「これも団さんが神経を使って、相手の気持ちをよくわかってやったからだ。これで自信を取り戻せたんじゃない」「うん、僕は成り上がりなのに、人の心がよくわかる自信がついたよ」「そりゃよかった」「それでは僕はここで失礼する」「え。どうして」「3人で軽くお酒でも」「いいや。君たち二人だけで行きたまえ。僕は人の心がわかる自信がついたと言っただろう」