作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(376)」 | ロロモ文庫

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恋とお汁粉(前)

団と近城にプロポーズされた栗田は思い悩んで、山岡に相談しようとするが、山岡に忙しいと言われてしまう。そんな山岡が会社が終って若い女と連れ立って歩くのを見て、ムッとして尾行する栗田。甘味処「蜜屋」と言う店の中に入る山岡とわかい女。(本日休業の札が掛かっているのに、入ったまま出てこないなんて)

店の中に入る栗田。「誠に相すみません。今日は休業でございますが」「で、でも」「あれ、栗田さん、なんで俺がここにいるのわかったの」「まあ、こちら山岡さんの。かよ、座って頂いて、お茶をお出しして」「はい、お母さま」「かよ、どうしたんだ」「あなた」「え、あなた?」

「私は加川正一。山岡さんに力を貸してもらっているんです。私の家は「さいかめ屋」と言う和菓子の店をやっています」「あ。あの老舗のさいかめ屋ですか」「はい。親父で14代目になります」「加川さんは跡を継ぐんですか」「長男ですし、和菓子の勉強をしてきましたので、そのつもりでしたが、どうなるかわかりません」「あら、どうして」

「去年、和菓子の協会が開いた技術講習会に父が講師として招かれたので、私も手伝いに行きました。その中にとても熱心な女性が一人いました。それがかよでした」「以前から自分の店を持ちたがっていた母がこの店を出したのが5年前。私も勤めをやめて手伝うようになりました、お汁粉や蜜豆の女の人向けの甘いお店で、お客様もそこそこいらしていただけるようになりましたが、折角こういう店を始めた以上は中途半端はいけないと思い、和菓子の講習会を受けに行きました。そこで正一さんと会ったんです」

「私は父の勧める結婚相手を振り切って、かよと生活を始めました。父は怒って、そんな娘と一緒になるなら15代目は継がせないと言います。そんなこと、私は構いません。15代目は弟が継げばよい」「老舗の主人の座より、かよさんを選んだんですね。それで山岡さんの出番は?」「つい最近のこと、正一さんのお父様が店にお見えになり、私に汁粉を作ってくれと言ったのです」

『むう。豆の色。豆と汁の量の塩梅。ともに悪くなし。ほほう、豆の煮方もなかなか。豆もいい豆だ。十勝産の大納言。お、この餅は』『3日に1臼、私と娘でつきます』『そうだろう。市販の餅ではこの歯ごたえと香りが出ない。炭火は遠赤外線をたっぷり出すから、餅が隅々まで柔らかくなる上に、香りも立つ。うむ、この餅と汁粉の味が互いに相手の味を染め合って、実になんとも』

『さいかめ屋14代目に認められた。嬉しいねえ』『正一もこれを食べたのかね』『ええ、とても喜んで』『情けない。こんなものを喜んで食べるようじゃ、正一はダメだな』『な、なんですって。今、褒めてくださったじゃありませんか』『素人料理としてはね。だが、お金を取って人様に召しあがって頂くものとしては失格だね』『どこがいけないんですか』

『どこがいけないか正一が言わなかったということは、正一はそれがわからなかったのか。もしそうなら正一はさいかめ屋15代目を継ぐ資格のない無能な男だ。わかって言わないのなら、正一は不誠実な男だ。不誠実な男と結婚してもつまらんよ。では失礼』『……』

「でも、おたくの汁粉を褒めたんでしょう。豆も甘さもお餅もいいと」「だからわからないんです」「僕にもわからない。昨夜、気晴らしに私たちの馴染みの店に行ったら、山岡さんがいらしていて、山岡さんが東西新聞の究極のメニューの担当と知ってびっくり。それで協力をお願いしたわけです」「そうだったの」