作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(374)」 | ロロモ文庫

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男子、厨房に入る

東西新聞文化部に取材に来た「女性時代」の記者の橋田蔦子は岡星で酔っ払って怪気炎を上げる。「日本の社会は男性中心主義がまかり通っている。男は女より染色体が一本足りないから頭も悪い。だから戦争をする。汚職をする。強盗をする。女が政治の中枢を握れば、世界平和が実現する。男は女に従え」

「橋田さんは女権論者の中でも一番過激なんですね。そうなったきっかけは何ですか」「きっかけなんかないわよ。私はただ男に威張らせておくのがイヤなだけ。もっと言えば私は男が嫌い。男なんかみんなゴミよ。あなた、まさか結婚なんかしようと思っていないでしょうね」「え」「地球上で最低の生物である人類の雄と結婚するなんて、最悪の不幸を背負いこむことなのよ。結婚だけはしちゃダメよ」

酔いつぶれた橋田をマンションまで送る山岡と栗田。そこに現れ、俺は蔦子に惚れていると言う小野卓司。「私は結婚したら女を家を守るべきだと思います。しかし蔦子はそう考えない」「橋田さんは女権論者だからね」「男は外で働き、女は家を守る。これが人生と言うものです」「これでは橋田さんとうまくいくわけないわね」「それで橋田さんに振られたのか」「なんとか、蔦子と仲直りしたいのです」

昨日はお世話になったと言う橋田に意見が聞きたいと言う山岡と栗田。「私たちの知人で、女の人が好きになったけど、その女の人の気持ちを掴めずに苦しんでいる男の人がいるんです」「その女の人が大変な女権論者で、その男は歯が立たないんです。どうすればいいでしょうか」

「そうね。まず手始めに何か料理でも作ってあげたら」「え。料理ですか」「昔から日本では男子厨房に入らずなどと言って、料理ができないことを恥じるどころか、かえって得意になってるバカな男が多いのよ。食事の支度がどんなに大変なものか知らないで、女を愛するとか言ってもらいたくないの。とにかく、料理くらいはできなきゃ話にならなわいね」

今まで料理などしたことはないと言う小野。「高校の時、夏休みのキャンプでチャーハンやら冗談半分で作ったことがあるだけです」「じゃあ、明日から俺の家で料理の特訓だ」「わかりました」

小野の料理の腕は上達したかと山岡に聞く栗田。「そんなに簡単に上達すれば世話はない。でもとりあえずステーキと野菜の炒め物、それに味噌汁で和風ステーキもどきの料理はできるようになったよ」「それが一番無難ね。じゃ、橋田さんに連絡するわ」

出張料理なんて嬉しいわと栗田に言う橋田。「どんな料理が出てくるのかしら」「素人料理だからレストランのようにはいかないけど、熱意だけは誰にも負けないそうよ」「それが素人料理にいいところよ」そこに現れる山岡。「いらっしゃい。今日は朝から楽しみにしてたのよ」「今日の料理人を紹介します」「こんにちは」「まあ、卓司。一体どうして」「俺の料理をお前に食べてもらいたいと思って」

「橋田さん、小野さんはあなたのことを心から思ってるんです。自分の真心を見てもらうために、一生懸命料理を勉強したんです」「蔦子、もう一度やり直す機会を与えてくれ」「今日は何を作ってくれるの」「和風ステーキだ。三田の最高のステーキ肉を手に入れたんだ」

そんなことだと思ったと溜息をつく橋田。「男の料理なんて所詮は遊び。贅沢にお金をかけて勝手な料理を作れば、それは面白いし美味しいわ。でもそんなことで家庭の主婦の苦労がわかったつもりになられてはたまらないわ。家庭の主婦は毎日予算のやりくりをして、いかにお金を掛けずに家族に美味しくて栄養のあるものを食べさせるか、知恵を振り絞っているのよ。遊び半分のお料理ごっこで、その主婦の苦労がどうしてわかると言うの」「ぬうう」

「確かに男の料理は趣味と娯楽の範囲から出ないことが多いわ」「しかし、橋田さん、小野さんの心もわかってあげてください。女権論もいいけど、それが人生を貧しくしたら、意味がないじゃないですか」「う。じゃ、家庭の主婦みたいにやってみて」「え」「うちの冷蔵庫にいろいろ残り物があるわ。それで何かやってみてよ。それができたら、私、考え直してもいいわ」

冗談じゃないと嘆く小野。「かろうじて料理らしいものを作れるようになったばかりなのに、いきなりそんな難しい応用問題なんて」「橋田さん。小野さんが何を作るか考えるのを手伝っていいですか」「本当は反則だけど大目にみるわ」「小野さん、高校の時にキャンプでチャーハンを作ったことがあると言ったな。塩鮭の切り身、長ネギ、卵がある。鮭チャーハンにしよう」

鮭チャーハンの作り方を小野に教える山岡。「まず鮭を焼いて身をほぐす。長ネギは微塵切りにする。卵はスクランブルエッグ風に焼く。後でまた火を通すから、この段階では少し生っぽいくらいでいい。火は強火、中華鍋にごま油をタップリ取って、鍋からうっすらと煙が立ち始めたら、微塵切りの長ネギを入れて、香りが立ったところでご飯を入れる」

「満遍なく油が回ったところで、身をほぐしたところで鮭を入れて、最後に焼いておいた卵を入れる。味付けは塩とコショウ。直火で焙って出来上がり」「そんな。山岡さんの言う通りには行きませんよ」「いいの、いいの。さあ皿に盛りつけて」

鮭チャーハンを食べる橋田。「いくら先生がよくても、料理する人間の腕がこれじゃね。本当はもっと美味しく作れるはずよ」「蔦子」「橋田さん、小野さんは一生懸命に」「私は安心したわ。卓司があまり料理が上手だど、結婚してから、私の立場がなくなるものね」「え」「山岡さんと栗田さんにお礼のご馳走をしましょう。卓司、ステーキを焼いて。私、おみおつけと野菜炒めを作る」「おう。ステーキならまかしとけ」

「小野さんも料理をやってみて家庭の主婦の苦労が少しはわかったし、結婚してからも橋田さんを大事にするだろう」「まあ、見直したわ。女権論者の肩を持つなんて」「俺は女の人に優しいのが欠点でね」「へえ。優しくしなければならない人間を誰か忘れていませんか」「むう」