夏の妹 | ロロモ文庫

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船で沖縄にやってきてホテルに泊まる素直子と桃子。君たちには船で酔っ払って迷惑かけたと素直子と桃子に言う桜田。「観光に行くなら案内してやろうと思って。介抱してもらったお詫びのしるしだ」「私たち、単純な観光じゃないんです」「いやあ、複雑な方でも俺は一向に構わんよ。どんな複雑さだい」「人に会うんです」「そりゃあいい。俺も会いたい人間がいるんだ。俺は殺されに来たんだ」「おじさん、まだ酔っ払ってるの」

なんで殺されたいんですかと聞く桃子に、沖縄で残虐行為があっただろと言う桜田。「おじさんも沖縄の女や子供を殺したんですか」「俺は女を一人でも生かしたいほうだ。でもこっちには誰もいないんだ。そのことに責任を取って腹を斬ろうってヤツが」「それであなたが代表して、代表殺され役社長ってわけですか」

桃子にツルは3か月前にホテルを売って支配人を辞めたそうと話す素直子。「今、大島って辺鄙な島にいるらしの」「私、電話してみるわ」ツルは出かけていて、帰りは夜になるらしいと素直子に言う桃子。じゃあ出発しようと言う桜田。「これから南部戦績巡りのバスに乗れば、ちょうどいい時間になるよ」

手紙を読む素直子。「僕の妹、素直子。突然、こんな呼び方をされて、君は不愉快になったかもしれない。しかし、この妹という呼び方は僕の血が呼んでいるのです。僕の名は大村鶴男。僕の体には君と同じ菊池康介氏の血が流れてるかもしれない。僕は小さい時から父はいないと思ってましたが、母は父の可能性のある人の名を二つ挙げました。その一人があなたのお父様でした。3月初め、僕は東京に行き、君の家に行った。僕は父と会う気がなかった。そして君の家の庭先で僕の妹を見た。いや、正確には僕の妹かもしれない人かもしれない。でも庭を掃く姿を見た時、僕は僕の妹だと信じてしまった」

夏休みを利用して、鶴男に会いに来たと桜田に言う素直子。私は素直子の付き添いで、素直子のピアノのレッスンをしていると桜田に言う桃子。酔っ払って休憩所で寝てしまう桜田。観光地巡りで疲れた素直子にちょっと休憩しなさいと言う桃子。「ツルさんが帰ってくるまで時間があるわ」「私、眠くないわ」「いいから」

鶴男の母のツルと会う桃子。「わざわざ時間を取ってもらってすいません。菊池康介氏の最近のご消息はご存知ですか」「お嬢様と二人暮らしってことは」「その菊池氏の長女の素直子さんとあなたのご子息の鶴男さんが兄妹であることはご存知ですか」「それで」「鶴男さんは菊池家の庭先で、素直子さんを見かけて、夏休みを利用して沖縄に来ないかと手紙を書きました。でも庭先で掃除をしていたのは別の人だったんです」「あなただったわけね」「はい」「それで」「素直子さんはその行き違いを知らずに沖縄に来てしまったんです。会わしてはいけないと思うんです。お母さまにご協力いただきたいと思いまして」「私、鶴男がどこにいるか知りません」「……」「あなた、素直子さんを連れて、東京にお帰りなさい」

私は那覇のホテルに戻ると素直子に言う桃子。「ツルさんに会ってきたけど、今日は会いたくないそう」「そうなの」「あなた、どうする?」「桜田さんとぶらぶらして戻るわ」「私は先に戻るわ。那覇のホテルに連絡があって、お父様、明日、こっちに来るみたい」「パパが来るの?」「やっぱり、あなたが心配なんかじゃない」

流しのギターの青年に沖縄の歌は知らないと言われ憤慨する桜田。「昔は沖縄人は沖縄人らしく、日本人は日本人らしくしたもんだ」青年に心惹かれる素直子。那覇のホテルのフロントで素直子あての鶴男の手紙を渡される桃子。<素直子。僕の妹。とうとう沖縄に来ましたね。君は早起きなら9時に壷屋で待っている。10時なら金城町石畳道。11時なら守礼門>

木のそばに横たわる男に起きているのと聞く素直子。「それとも寝てるの」「寝てます」「ねえ。私、この沖縄にいる親戚を探してるの」「つまらない人を探してるんだな」「おじさんも誰か探してるの」「ああ。私は殺す値打ちのある日本人を一人探してるんだ」那覇署で大村ツルの息子の鶴男を探しているという素直子に、僕が会わせてあげると言う本部長の国吉。「僕がその大村鶴男君の父親の可能性を持ったもう一人の男だよ。詳しい話は昼飯でも食べながら」「でも、お昼にはパパが来ちゃう」「ほお」守礼門で鶴男と会う桃子。「飯でも行こうか。素直子」「時間がありません」「今度いつ会う?」「明日の朝、今日と同じ方法で」

ツルを僕の妹と言って、君の父さんに紹介したと素直子に話す国吉。「もちろん、本当の妹じゃなかった。自分より年下の女をそう呼ぶ感じ、わかるかね」「わかると思います」「そして僕と君のお父さんは大村鶴男君からお父さんと呼ばれるような関係になってしまった。ツルさんはすぐに沖縄に帰ったがね」「そういうことは無責任すぎませんか」「あれは暑い夏だった。京都の夏は沖縄と同じくらいに暑いんだよ。若いってことはイコール無責任ってことかもしれんよ」

ホテルのフロントで国吉からの手紙を受け取る素直子。「ばんざい。兄さんに会えるわ」「いつ」「国吉さんが居場所を教えてくれたの。今から会いに行くわ。宴会なんか行かないって、パパに言って。お願い、先生。母上様」「じゃあ大村鶴男さんと会いに行ったと言えばいいのね」「馬鹿。鶴男さんのことは先生と私の美しい秘密じゃないの。パパにはお腹が痛くなったとか適当にごまかして」

宴席で娘のピアノの先生と再婚するらしいなと国吉に言われる菊池。「君は相変わらずマメな男だ」「ところであの人は?」「照屋林徳。今の沖縄で本物の歌を聞かせる数少ない一人だ。沖縄のものは戦争と占領で何一つなくなってしまってね。琉歌の中にしか沖縄のものは残っていないんだ」そこに現れるツル。「遅くなってごめんなさい。仕事辞めて怠け癖がついちゃって」

こんなところで何をしてると聞く青年に大村鶴男って人を探してるのと言う素直子。「君の名は?」「菊池素直子」「……」「ねえ、協力してよ。このへんであんたみたいな仕事をしてる人らしいの。今、桃子ママが探してるらしいけど」「その桃子ママって?」「パパの再婚相手の意地悪ババアよ」「お前んとこも複雑なんだな」素直子と一緒にいる鶴男を見て、物陰に隠れる桃子。

宴席に現れる桃子。「今晩は。やっぱり来ちゃいました」自分の娘と結婚したようなもんだなと言う国吉に、うちの娘はまだ中学生だと言う菊池。「桃子、素直子は一人でホテルに?」「ごめんなさい。男の人と会ってます。その人が好きになったみたい」「それはどういう男だ」「もしかしたら、大村鶴男さんという人」鶴男は私の子供と言うツル。そんなことがあるかと追いかけてきたという菊池。歌にしましょうという照屋。「いずれにしても殺し殺されると言う話じゃないでしょう」

こんなところでウロウロしてるのかと素直子に言う桜田。「なんということだ。兄貴を探すと言う大望はありながら、こんな男と」「おじさん、沖縄の歌、聞きたいって言ってたね」「ああ」「今日やってるよ。俺の先生」照屋の歌声を聞いて、実にいいと呟く桜田。パパたちの宴会かと呟く素直子にあそこにいるのが君のパパかと聞く鶴男。「そう」「その隣にいるのが」「桃子ババア」「そうか。とにかく鶴男は探してやるよ。じゃあな」

桜田とともに宴席に行き、そうかと叫ぶ素直子。「この人が殺す方の人なのよ。そして、この人が殺される方の人」挨拶を交わし、酒を酌み交わす桜田と照屋。これでお開きにしようという菊池に、明日は場所を変えてやろうと言う国吉。「次回は明日の正午。場所はよって本官から通達する」

鶴男と会う桃子。「素直子。僕の妹」「庭を掃いてる君を見た時、僕は信じてしまった。僕の妹、素直子」「……」「どうしてそうだったのかしら」「素直子。君に優しくしてあげたい」「優しくって、何をするの」「君のしてほしいことをしてあげる」愛し合う鶴男と桃子。二人を物陰で見つめる素直子。(桃子のバカヤロー。ギターのバカヤロー。鶴男を探しもしないであんなことを)

砂浜で行われる宴席で、エロ話をする菊池と国吉と桜田と照屋とツル。そこに現れ、何もかも正直に話してと言う素直子。この際、戦争中の残虐行為は全て話したほうがいいと言う桜田と照屋。学生の頃、どうやって日本に来たと聞く菊池に、忘れちゃったと答える国吉。沖縄から日本に行くにはひどい時で六か月かかり、いっそ密航した方が楽だったと言うツル。妹と紹介すれば桜田はツルに手を出さないと思ったと言う国吉。友人の妹を好きになるのは普通の感情だと言う桜田。

鶴男は普通の子じゃないと言う素直子。「まだ会ったことないけど、パパの子か、国吉さんの子じゃないかわからないなんて普通の子じゃないわ」ツルに聞きたいことがあると言う菊池。「復帰後の今になってこんなことを言うのもなんだが、どっちに本当の可能性があったか、今、言っても構わないんだよ」そこに現れる桃子と鶴男。「素直子さん。この人が大村鶴男さんなの」「嘘つき。みんな嘘つき。じゃあ、本当のことを教えて。この人が鶴男さんだとしたら、どっちの子なの」

国吉が学生運動で牢屋に入っている間にツルと関係を結んだという菊池。そのことをツルから聞いて、ツルと関係を結んだと言う国吉。そういうのがいいんだと言う桜田。もし菊池の胤がついていたら、せめてごちゃまぜにしようと思ったと言う国吉。それは立派なお考えですと国吉に言う照屋。鶴男は誰の子と聞く素直子に、私の子と答えるツル。鶴男と桃子が愛し合ってるのを見たと言う素直子。菊池もきっとごちゃませが好きなんだると言う桜田。お前は偽物という素直子にどうかなと言う鶴男。どっちにしてもこの世は男と女の二種類だと言う桜田に、日本人と沖縄人の二種類だと言う照屋。海に飛び込む素直子。続いて飛び込む鶴男。

(私が気づいた時は夕方だった。殺す人と殺される人は仲良く歌ってたし、ツルさんと国吉さんは何やらしんみり話してた。でもあれはあの辺の土地を売ろうって話だったような気がするな、パパと桃子ママは口喧嘩してた。私は助けられたあいつにチューくらいされたみたい。翌日、私は桃子ママにパパと一緒に一足先に帰りなさいと言ってあげた。二人はこのまま私がここに残ると心配してた。馬鹿だなあ、私は嘘つきじゃない)

船に乗る素直子を見送りに行く鶴男。「おーい、俺は本当の大村鶴男だよ」「私はもっと力をつけてここに来て、本当の鶴男君と会うんだ」小舟に乗ってる桜田と照屋を見て、魚を釣ってお酒を飲むつもりだと呟く素直子。やがて桜田と照屋は口論を始め、桜田は照屋を海の中に投げ込むのであった。