少年 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

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車に向かって飛び込む竹子は、苦痛の表情を浮かべて倒れる。母ちゃん、大丈夫と聞く敏男。慌てて竹子の様子を見る運転手に、お前が轢いたんじゃないかと叫ぶ敏男。そこにチビを抱えて走ってくる武夫。「おい、どうした」腰を抑える竹子に駆け寄る敏男。「お母ちゃん。大丈夫か。腰さすっちゃろうか」示談いうのはできるんかと武夫に聞く運転手。お父ちゃん、示談なんか応じんといてや、と叫ぶ竹子。「そんなこと言うたらいつまでたっても交通事故なくならんきにね」「ご主人。ちょっと向こうに」示談金をゲットする武夫。

飯を食いながら腰が痛むと言う竹子に、こういうことは続けてやったほうがいいと言う武夫。「あんたがやったらええんや」「何を言う。俺は病人や」「そう。傷痍軍人で左手がパーや」「いらんおしゃべりをすな」「もう、こんなんやめようかね。好きでやっとるんじゃねえから」「俺も好きでやってるんじゃねえ。けど親子四人食っていかにゃならんけえ」

僕怖いという敏男にお母ちゃんだって怖かったという竹子。「忍術使えるとええのにな」「あんなもん嘘や」「宇宙人ならええのにな」「宇宙人なんておりゃせん」敏男に囁く竹子。「タクシーはあかん。速い自動車もあかん。女が運転しとるのが一番ええのや」車に向かって飛び込む敏男。

船の上でチビに話す敏男。「怪獣を宇宙人がやっつけるんや。私はアンドロメダ星雲から地球を救うためにやってきた宇宙人だ」「うちゅうじん」「アンドロメダ星雲」「あんどろめだせいうん」

<僕たちは仕事をしました。七回しました。ほかに二回しましたが、それは仕事にならなかった。僕は少しずつ仕事が上手になりました。痛くないように転ぶことができます。けれどお医者さんに見られる時が一番嫌です。お父ちゃんが息を止めて痛い痛いと言えと教えてくれました。もうすぐ尾道です。四国はもう見えなくなりました。もう一回するとお母ちゃんが百円くれるので、もうすぐ千円になります>

当たり屋稼業を繰り返しながら、一家は北九州に来る。子供ができたと武夫に言う竹子。「子供が三人やったらこんな暮らしできへんわ。ちゃんとしたところに住んで子供も学校やらんとあかんし」「まあ、しばらくこの商売で食うていくわ」当たり屋稼業を繰り返しながら、一家は竹子の故郷である福井に来る。

淡々と当たり屋稼業をこなす敏男。竹子に赤ちゃんを堕胎しろと命令した武夫は、見張り役として敏男に竹子と一緒に病院に行けと命令する。うちが継母や思うていつかはやっつけてやろうと思うとったんやろと敏男を責める竹子。「お前はそういう悪や。お父ちゃんよりもっと悪やで」「ごめん」「うちのこと憎いんやろ。憎いから見張ってたんやろ」「僕、父ちゃんには言わないよ」「ほんまか。なら、うちは金使わんかったけえお礼に何か買うたる、その代り、お父ちゃんには病院行った言うんよ」「僕、時計が欲しい。曜日のわかるやつ」竹子から時計を買ってもらう敏男。父ちゃんに見つからんようにせえよと注意する竹子。

毎日日曜みたいなもんだから曜日は日曜にしとこうと言う敏男に、そのうち学校に行けると言う竹子。「坊や、学校行って、うちは赤ん坊産んで、チビは幼稚園に行くんや」「いつそうするの」「もうじきや。それまでに一生懸命お金ためんといかんのや」

<僕たちはいろいろなところに行きました。敦賀。西舞鶴。金沢。それは地図で見ると、みんな日本海の沿岸にある町です。僕は傷が本当に痛いので、もうお医者さんに嘘を言わんでもええようになりました。痛いところに触られて痛いと言うのは普通の子供でもできることです。チビは太って重くなりました。前より僕の話がわかるようになりました。僕に宇宙人の話をしてくれと言います>

冬になっても一家は当たり屋をしながら山形まで流れ着く。武夫は高崎で仕事をしたときに警察に写真を撮られたからしばらく仕事を休むと言い、俺は別行動を取ると自分は豪華な旅館に泊まり、竹子と敏男とチビをみずぼらしい民宿に泊まらせる。民宿でつわりに襲われる竹子は、武夫に黙って、敏男と組んで当たり屋をする。

一家は秋田に行き、竹子は敏男と二人で仕事をすると武夫に言う。「昨夜も坊やとやったんや」「なに」殴る武夫をアホとののしる竹子。「うちが仕事をするのはおなかに子供がおるからや」「なんやと」

飛行機で北海道に向かう一家。

<僕たちは本当に北海道に行きました。僕はずっと高知県にいたので、雪を見たのは初めてです。雪はどこまでも真っ白くて、雪の海のようでした。函館、岩見沢、帯広、釧路、旭川、稚内。お父ちゃんは仕事をするなといいましたが、お母ちゃんと僕は仕事をしました。駅を降りるとすぐ仕事をしました。それは寒くてあまり歩けないからです>

日本最北端の地である宗谷岬までやってくる一家。もうここまで来たら行くとこないねと言う竹子。「もう仕事もできんね」日本がもっと広けりゃええのになあと呟く敏男。当たり屋を続けるかどうかで武夫と竹子は喧嘩を始める。「また九州から始めりりゃええんや」「もううちはこんなんイヤや」

敏男は母ちゃんについていくと言って、時計の鎖で手の甲をかきむしる。こんなもんで買収されやがって、と時計を投げ捨てる武夫。その時計を拾いに行くチビ。そこに現れたジープはチビをよけようとして横転する。チビを抱えて逃げる武夫。後を追う竹子。ジープに乗っていた少女が頭から血を流しながら担架に乗せられて救急車に運ばれるのを見つめる敏男。

<それから僕らは仕事をやめました。そして高知県に帰り、そのあとで大阪に行きました。今度は一軒のうちに住むことになりました。文化住宅という名前のうちです>

「子供を交通事故にあわせて、相手から示談金を取る悪質な当たり屋事件が10月から12月にかけて起きている。この当たり屋は男の子と幼児を連れた中年の男女で、男は高知県出身の無職で前科一犯の大村武夫45歳で、群馬県警から指名手配された」

逮捕される武夫と竹子。警察で車なんか当たったことはないと言う敏男。「その怪我は何や」「できものの痕じゃ」

「大村武夫。高知県で農業を営む家の六人兄弟の三男。五歳の時、父を失う。十七歳の時、アンコとして大阪に出る。やがて陸軍兵として出征。戦地で左手及び左肩に貫通銃創を受け、終戦を迎える。昭和二十八年、山本和代さんと結婚。昭和三十一年、長男敏男生まれる。現在十歳」

「谷口竹子、大阪府に生まれる。その後四つの家庭を転々とする。昭和三十三年、十八歳の時、福井県で結婚。すぐに大阪に行き、キャバレーで勤める。昭和三十四年大村と知り合い、夫を捨てて大村と同居生活に入る。昭和三十八年、大村の子を産む。現在三歳」

飛行機に乗ったんだったてな、と刑事に聞かれる敏男。「景色は綺麗だったろう」敏男は頭から血を流す少女のことを思い出す。「行った。北海道には行ったよ」