絞死刑 | ロロモ文庫

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死刑場で死刑囚Rの絞死刑が執行されるが、Rは縄にぶら下がったまま脈拍を打ちつづけるという状態になる。脈が止まれば死亡となりますと検事に説明する所長。脈拍が止まる気配がないと言う医務官。再執行の命令をと言う保安課長にまだ執行されていないと言う所長。

やむなく首から縄を外されるR。心神喪失状態で再執行すれば法律違反となると言う所長。本人が罪の意識がないと刑を執行してはいけないと言うことかと呟く教育部長。Rは完全に心神喪失状態だと言う医務官。今日は失敗だと呟く所長。医務官にすぐRの手当てをしてくださいと頼む保安課長。それがいいと言う教育部長。「そうすればRは罪の意識を回復し死刑執行できる」

Rに人工呼吸を施す医務官。やがてRは意識を回復する。「R君。私がわかるかね。教育部長だよ」「部長さん。御無沙汰しました。ここはどこですか」「自分の名前を言ってごらん」「……」「君の名前はRだよ」「ここはどこですか」

まだRは心神喪失だと言う医務官。「どれくらいで治るかわかりませんね。死刑が失敗して記憶を喪失した例なんかどこにも書いてませんよ」R君を元に戻す努力をすると所長に宣言する教育部長。「R、君は若い女を強姦して殺人を犯したんだ」「ここはどこですか」

必死で君は強姦殺人を犯したことを身振り手振りでRに説明する教育部長と医務官と保安課長。「R君。こうやって君は人を殺したんだ」どうも思い出さないようだと言う所長に第2の殺人もやってみますかと言う教育部長。「待て。それをやっても思い出さんかったら、それこそ終わりだ。Rの事件は二つしかないんだから」「そうですな」

君は記憶喪失のふりをしてるのかとRに聞く所長。「それで我々を騙そうとしてるのか」「所長。御機嫌いかかですか」永久に心神喪失状態なら永久に死刑執行できないと言う医務官。「戦犯がよく使った手です」

Rに君は朝鮮人だと言う教育部長。「君は今22だ。18の時に犯罪を犯して牢屋に入ってた。君は一時Kと言う名の日本人を名乗っていたが、やっぱり君は朝鮮人」「朝鮮人って何ですか」「君は朝鮮人で、わしらは日本人。これは決まりなんだよ。その朝鮮人の君が二人の女を犯して殺した」

「なぜ殺したんですか」「君が劣情を催したからじゃないか」「女を犯すって何ですか」「今度の犯行は君が朝鮮人であると言う差別。それはともかく貧しい家庭環境が生み出した」「家庭って何ですか」「君は劣悪な家庭環境にもかかわらず、優秀な成績で中学を卒業した」

無反応なRに何を言ってもダメではと教育部長に聞く所長。「所長。もう一息です」君と私は親と子のようなものだと言う教育部長にだいたいわかりましたと言うR。「そうか。ありがとう」「一人の若い朝鮮人はいて、貧しい家庭に育って、そのことのために女を犯して殺し、死刑を宣告されたんですね」「その通り。じゃあもう一度死刑を始めるか」

僕は死にたくないと言うRに何を言うかと怒る教育部長。「君は二人の女を犯して殺したとんでもない男だ」「つまり、僕がそのRってわけですね」「そうだよ」「僕はそのRと言う気がしません。でももしかしたらそうなのかもしれません」「そうなんだよ」

懇々と君はRだと説得する所長と教育部長と保安課長と医務官。「R君。思い出すんだ」「君の父親は騙されて日本に来て、アル中になった」「君のお兄さんは完全にグレて不良になった」「君の弟や妹は水ばかり飲んでいつも下痢だった」「君のお母さんは唖だった」「君は家にいるのが嫌になって外に出た」「町に出た君は女に声をかけて劣等感にさいなまされた」「ムラムラした君は自転車に乗っている女を草むらに連れ込んで犯して殺した」「そして高校に行き、屋上で女生徒を犯して殺してしまった」

君はR君だねと聞く所長。「まだ空想が終わってません」「早く終わりにしろ」「もう少し続けさせてください。まだRでない気がするんです」「もう犯罪を行ったことは証明された」「まだ何かが足りない気がするんです」Rの前に現れる女。「姉さん、僕はRですか」「そう。朝鮮人のR。前には日本人のKと言ったこともあるけど」女に感謝する所長。「どこの誰かは知りませんが、その調子でRが無事処刑を済ませるようご協力お願いします」「処刑には反対です」

Rにあなたは18の時と違って立派な民族の自覚を持った朝鮮人よと言う女。もう法律でRは死刑が決まっていると言う所長にそれは日本の法律ですと言う女。「でもRは日本で罪を犯した」「Rは好んで日本に生まれたんじゃありません。朝鮮人は誰だって好んで日本に生まれはしません。あなたたち日本人に在日朝鮮人の気持ちがわかってたまるもんですか。日本国にRを罰する権利はありません」60万人在日朝鮮人がいると言う医務官。「Rのように2人殺してくれれば120万人ほど減る。少しは日本も住みよくなりますな」

こんな女と話をしててもしょうがないと所長に言う保安課長。「いるかいないかわからない女と議論しても無駄です」Rと一緒に出て行くと言う女。「R。いよいよ祖国統一のために一緒に働くのよ」色気で統一問題に誘う女が最近多いと呟く医務官。僕にはよくわからないと言うR。

「姉さんの言うことがしっくりこないんです」「R。あなたはRじゃないわ。Rの心を失った。あなたの犯罪は日本人に対する朝鮮人の抵抗だったのよ。国家を持たない私たちは自分の手で日本人の血を流すしかない。R、あなたはそう言う人なのよ」「姉さん。僕は姉さんの言うRではない気がする」「Rをこんなにダメにしたのは誰?RをRでなくしたのはあなたたちね」

なんてことを言うと憤慨する教育部長。「私たちはRをRにしようとさっきから努力してるんだ」「嘘です。Rは朝鮮人じゃない。私はこの人を認めません。早く死刑執行してください。朝鮮人に朝鮮人の意識をなくさせる。それが日本帝国主義のやり口です」

では刑を執行しようと言う所長。なんだかすっきりしませんがと言う教育部長。「女はどうします」「検事に聞いてくれ」わしには女など見えんと言う検事。「死刑の執行にさしつかえあるなら処刑したまえ」「はっ」処刑される女。

話し合う所長と教育部長と保安課長と医務官。「しかし朝鮮人も可哀そうですな。お国のためとは言いながら」「朝鮮人がなんだ。奴らは元々タチが悪いんだ。どんどんぶち殺してやればいい」「60万人いるぜ、日本に」「60万人がなんだ。まとめてやれば簡単だ」「今まで日本人は朝鮮人をいじめてきた。釜山に赤旗が立てば、今までの恨みを晴らそうと、日本人に残虐の限りを尽くすだろう。女は強姦され、私なんかはまっさきに殺される」

「まあまあ、みんなお国のために仕事をしましょう」「そう。人を殺すね」「今日はいろんなことがありましたけど、私には一つわかったことがあります。戦争で人を殺すのも国のため。死刑で人を殺すのも国のため。同じものですな」「うむ」「私たちはこんな仕事をやってますが、個人的には死刑反対、戦争反対。そういうのがなくなる日が一日でも早く来るようにお祈りしましょう」「では、そういう日が一日も早く来るように乾杯しよう」

死刑を執行すると言う所長にすべきではないと言うR。「それはなぜだ」「僕は確かにR。しかしあなた方の考えているようなRではありません。僕は確かにあのことをやった。でも罪を感じないんです。あなたがたはRに罪があると言う。そのRは僕とは別の人間です。皆さんにいろいろやっていただいて、そのことが大変よくわかりました」「大事なことはお前が二人の若い娘を殺したことだ」「それは認めます」「なら死刑になって当たり前だ」

人を殺すのは悪ですかと聞くR。「当たり前だ」「では死刑で人を殺すのも悪ですね」「私たちは殺人者じゃない。国家が君を殺すんだ」「そういうのは嫌です。僕は見えないものに殺されるのは嫌です。国家って何ですか」あなたが国家ですかとRに聞かれ、私は一部分にすぎないと答える保安課長。「全体じゃない。全体じゃないんだ」あなたが国家ですかとRに聞かれ、わしはいやいやみんなの上にふわーんと乗ってるだけだと言う所長。

君は無罪と思ってるのかとRに聞く検事。「はい。そう思ってます」「よし。君が無罪と思ってるなら無罪だ。ここから出ていきたまえ」Rは死刑場を出ようとするが立ちすくんでしまう。「R。君は出ていけない。なぜかわかるか。今、君が出ていこうとした所は国家だ。今、君が立ち止ったところも国家だ。君は国家が見えないと言った。しかし、今、君は国家を見ている。国家を知っている。君の心の中に国家がある。心の中に国家がある限り、罪を感じる。君はやましい。死刑にされるべきだと今思った」

絞首台に登るRに君はこんな立派な検事に会えて幸せだと言う教育部長。「今の気持ちを後の人間に何か伝える言葉はないかね」「僕は無罪です」「そんな後戻りするようなことを言われては困るんだ」「今まで自分にはもしかしたら罪があるのではと思ったこともありました。しかし僕は無罪です。国家がある限り僕は無罪です」

そうだと言う検事。「R。わかるだろう。国家は君のそういう思想を生かしておくわけにいかないんだ」「わかります。だから僕は引き受けるんです。あなたがたを含めて全てのRのために。Rであることを引き受けて、今死にます」

絞死刑が執行されるR。今日は御苦労でしたと所長に言う検事。「よく勤めを果たしてくれました。教育部長。あなたも。保安課長。あなたも。医務官。あなたも」「あなたも」「あなたも」「あなたも」